表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/43

第6章 決めろ、インターハイ! 昭和テニスマン、人生最大の大勝負!

第6章 ジーニアス(天賦の才) 6月


1 団体戦が終わったら、1カ月でシングルのインハイ予選だ。

 

 6月に入ってすぐ、組み合わせがネットで発表され、杏佳の予想通り、僕は東京都の第16シードになり、ベスト16で第1シードの手塚真司と対戦することになった。つまり、どっちかがインハイを逃すことになる。


 僕は、インハイ予選に集中するために、部活のみんなに謝って、月曜日は杏佳と平和の森で練習させて貰う事にした。金曜日も杏佳と練習するから、週2回だ。

 木曜日は学校で部活だけど、杏佳も手伝いに来てくれて、ホントに感謝で頭が上がらない。このお礼は結果を出すことで返さないといけないな。


2 4月からずっと杏佳に見て貰って、僕は全体に2ランクくらい腕を上げた感じだ。もうスピンサーブは自在に使えるようになったし、フォアのスピンも大丈夫。試合で十分使えるレベルだ。

 ただ、バックのスピンだけは、まだ精度が良くない。ストローク戦ではどうしてもスライスに頼ることになる。なので、バックは当面リターンとパスだけスピンで打つことにした。


 そして、毎回の練習内容も、手塚戦を想定したものとなった。


「今日は、セイバーの練習しよう。対真司君用の秘密兵器ね」

「セイバーって何?」

SABRセイバー。Sneak Attack By Roger(ロジャーの奇襲)の略ね。史上最強ロジャー・フェデラーの得意技。まあ、要するにリターンダッシュなんだけどさ。特にセカンドサーブなんかで、内緒でススってサービスラインまで詰めておいて、ライジングでポンって相手コート深くにリターンして、そのままネットに詰める戦術」

「なるほど。サービスリターンをそのままアプローチにしちゃうのか」

「そう。あんた、バックのスピンのリターンできるようになったんだから、これ使わない手はないわよ。真司君はサーブはあんまり強くないから、ファーストからやってもいいと思う」


「だけど、いいサーブ入ると『弾かれて終わり』とかなりそうだな」

「まあ、そうなんだけどね。安全にリターンしても、ストローク戦に持ち込まれて、振り回されて、どのみち最後にやられるでしょ? だから確率半々以上ならよし、って割り切ってセイバーやればいいのよ。別に真ん中に返ったっていいの。カウンターのリターンだから相手も対応難しいしね。とにかく真司君には十分な態勢でショットさせないことが大事」


「なるほど。守備に回ったら、どっちみちやられるから、こっちから先に攻撃仕掛けるんだな」

「そのとおり。それに、これが決まりだすと、フォルトが増えるわよ。際どいとこ狙って強いサーブ打たないとセイバーでやられちゃうから」

「ああ、そうか。そうだろうな」

「それじゃ、練習してみよう。あんたサウスポーだから、真司君みたいな右利きの選手は、スライスサーブをあんたのバックに打ってくる。それをブロックするように、カウンターでストレートにリターンしながら前に詰める。ってのが基本的な形になるわね。じゃ、やるわよ」


 サービスライン付近から実際にリターンしてみると、結構難しい。サーブが速いし、そんなに跳ねないから、「ポポンッ」ってハーフボレーみたいな形になって、方向も長さもコントロールしにくい。もちろん、ネットしたりオーバーしたりミスも頻発する。

 だけど、10球、20球と打つうちに、少しずつ慣れてきた。ほんとにバックスイングゼロで、当てて押し出すだけ、っていうイメージでいいんだな、ってことが分かってきた。


「ああ、いいじゃない。ちょっとずつ出来るようになってきた。あんたもデカいのに器用ねー。感心しちゃうわ」

「これいいな。相手からしたら、サーブ打ってすぐ深く返ってくるから、慌ててパス打たないといけないんだもんな。浮いた球が返ってきそうだ」

「そうして、いくつかうまくいくと、そのうち必ずフォアにサーブ打ってくるようになるから、山張ってフォアの握りで待ってるといいわよ。それをスピンで相手バックに打って前に出ればいいんだ」

「予想と逆になったら、瞬時に握り替えるの大変そうだけど、もともとがギャンブルみたいな戦術だからな。そうなったら『なんとか返ればいいや』くらいに考えるか。ネット付かずに後ろ下がったっていいんだし」


「そうね。裕は、まずサービスゲームは落とさないから、四つあるリターンゲームの一つを取ればいい、くらいに考えとけばいいんだよ。それで8-6か8-5で勝てるんだから。‥‥‥それじゃランダムで出すよ。今日のところはなんとか返せる程度でいいから、数打って徐々に精度上げていこう」

「そうだな。よし、来い!」


 ******


3 「はーい、それじゃ、最後にゲームやろう。今日はね、リターンは全部セイバーでね。あと、サーブのバリエーションも広げよう。じゃ、まず裕のサーブからね」って杏佳がボールを放ってきて、いつもの4ゲームマッチ開始。


 最初のポイントは僕が取り、続けてアドコートからサーブの態勢に入ると、杏佳が、

「それじゃスライスサーブのトスを上げて、だけどセンターにフラットを」って言ってきた。

「えー。そんなの練習でもやったことないぞ。いきなりじゃ無理だろ」

「大丈夫よ。ボールの左側擦らないで、そのまんまフラットに打てば自動的に真ん中にいくわよ。やってみなって」

「ホントかなー。まあ、じゃ、一応、やってみるか」って言いながら、僕は身体の少し外側にトスをあげ、擦りたくなるところを抑えて、逆に肘を内転させながら打ち抜いた。って、あれ? ホントにセンターに行ったぞ。ライン際に綺麗に着弾して、待ってた杏佳が僕のフォアに返してくる。そんな大したリターンじゃなかったけど、僕は一瞬ボーっとしてたので、反応が遅れ、慌てて返球するもネットにかけてしまった。


 そしたら、杏佳がネットのとこまで出てきて、

「ほらー。ボーっとしてないの。ネットに詰めなさいよ。今の前に出てきてたら簡単に決められたでしょ? 集中、集中」って釘を刺してきた。


「ああ、いや、そうだな。センターに打てたんで、ちょっと驚いちゃってさ」

「これ、すごく使えるはずよ。みんな、トス見た瞬間に『来る!』ってススッとバックに寄るでしょ。そうしないとあんたのスライスサーブ取れないからね。だから、若干コースが甘くなっても、同じトスでセンターに打てたらすごく大きいよ。大抵エースになるし、次からセンターもケアして、バックに寄れなくなるから、スライスサーブがさらに活きてくる」

「ああ、そうか、それが駆け引きなんだな」

「そう。裕のスライスサーブは強力だから、まずはスライスばっかり打ってればいいけど、まともなリターンが返って来るようになったら、センターも混ぜること。そうすると、またスライスもリセットされるわよ」


「なーるほど。勉強になるな。そんなのこれまで誰も教えてくれなかったよ」

「で、さらに一歩進むと、相手ももう両方ケアするの放棄して、山張って左右のどっちかに飛ぶようになるから、そうなったら、こないだのH高戦の初球みたいに、真正面のフラットサーブを打つといい。左右どっちかに飛んでるんだから、真ん中に打っとけば大丈夫。完全に逆じゃないから、もちろん届くけど、まともに返ってこないわよ」

「おー、そうか。サッカーのPKと同じ理屈だな。『どうせ飛ぶんだから真ん中蹴っとけ』みたいな感じか。杏佳師匠、ホントに勉強になります。それ、早速頂きます」

「うん。インハイ予選まであと3週間だから、残り6回の練習で詰めていこう」


 と言いつつ、

「ゲームセット&マッチバイ杏佳! スコア4-0!」

「ひー、またまた完封されたー。‥‥‥もう杏佳師匠がインハイ予選出た方がいいんじゃないでしょうかー?」

「あはは、そんな気弱なこと言ってんじゃないわよ。これだけハンデ貰ってるんだから勝てるの当然でしょ? だけど、今日はあんたがセイバーやってきたんで、大変だったわよ。まだ精度が低いからなんとかキープ出来てるけど、そのうちゲーム取られるようになるんじゃないかな」

「仮にリターンで2ゲーム取っても、2-2の引き分けが精いっぱいじゃないのか?」

「そうだけど、実際の試合はサーブのコースも球種も自由に打てるんだから、練習よりずっと楽でしょ? 私と2-2なら、実質4-0だよ」

「ああ、そういう見方もあるか。まあ、そうかもな。それじゃまずは引き分けを目指そう。だけど本番まで一回くらい勝つぞ」って言ったら、

「へへーん、まあせいぜい頑張りなさいよ。べーっだ」って言いながら、杏佳は綺麗な黒い瞳をベローンって指で下げて、赤い舌をチロって出してきた。


「キーッ。悔しいー。憎たらしー。覚えてらっしゃい!」って返したら、

「あー、もう忘れた!」だって。はは、やっぱり杏佳は可愛いなー。


 ******


4 6月29日(土) 

 杏佳のアウディで、首都高に乗り、レインボーブリッジを渡って有明テニスの森公園に向かう。一年ぶりの有明だ。


 前週に昭島市の昭和の森テニス場で3回戦と4回戦が行われ、シード選手の僕は3回戦から登場。ちなみに、K高の他の部員は、雄介が2回戦に進んだのみで、あとは全て1回戦で姿を消している。

 3回戦と4回戦の相手は、どちらも都立高校の選手で、本気でサーブを打つとあんまり返ってこず、セイバーもバンバン決まって、相手がフォルトばかりになったので、大勢が決してからはサーブを抑えてボレーを中心に組み立て、セイバーも封印してリターンゲームはストローク中心に戦った。

 練習台に使ったみたいで悪いんだけど、やっぱり試合で試さないと身に付かないので、勘弁して欲しい。なので、どっちも数ゲームずつは落として、8-2と8-3だった。これで東京都ベスト32。

 今日は、会場を有明に移して、5回戦から決勝戦までが行われる。


「そういえば、W大の推薦、立候補したの?」

「うん、した。全部で5人いたって聞いたな」

「ライバルいるの?」

「うーん、どうだろ。成績は俺が一番いいんじゃないかな。もともと一人強力なライバルがいたんだけどさ、そいつにはK大の政治の推薦に回って貰ったんだよ。水泳部の主将で生徒会長。クラスメイトで仲がよかったんで、談合して志望校分けたんだ」

「あっぶなーい。生徒会長って、そりゃ強力よね」

「うん。助かった。かぶってたらヤバかった」

「それじゃ、今日インハイ決めて、推薦確実にしよう」

「そうだな。受験勉強は全然してないし、推薦ダメだったら浪人決定だもんな」


 有明に着いて、駐車場に車を入れ、杏佳が車用のスニーカーを脱いで、5㎝の黒いヒールサンダルに履き替える。

 今日の杏佳は少し色落ち加工したストレートのブルーデニムに、上は黒のタンクトップとプラチナのネックレス。そして、「日焼けしたくないから」って言って、薄いパープルのふんわりしたシャツを羽織り、髪はアップにして大きなおだんごにまとめている。

 露出度少な目とはいえ、タイトなタンクトップなので、鍛えられた綺麗な胸が屹立して、ちょっとだけど白い谷間も見えて、そこにプラチナのオープンハートが埋まって、キラっと光ってる。

 いい、これ、いい。大人セクシー。だけど、部員どもには刺激が強すぎるな。見せたくないな。


 ケータイで雄介に連絡を取り、部員たちと合流。6人全員が応援に来てくれたんだ。

「裕先輩、杏佳コーチ、おはようございまーす。うわー、コーチ、今日もまた一段とお美しいですねー。目のやり場に困っちゃんですけど」

「ありがとね。別に見たっていいわよ。そういう服なんだし」

「おお! それじゃ遠慮なく拝見させて頂きます!」

「おい‥‥‥。調子に乗ったらいかんぞ。谷間は俺んだからな。ほかはいいけど。ははは」とか言いつつ、試合の行われる9番コートに移動する。

 もう手塚は1番コートに入ってた。第1シードだから、1番コートで試合やるんだな。

 

 9番コートに着くと、まだ前の試合をやっていた。だけど7-2だ。もうすぐ終わるな。対戦相手らしき選手が立って見ていたので、

「次、試合ですね。宜しくお願いします」「こちらこそ。ずいぶん大きいですねー」って言い合いながら握手した。割と大きい選手。180㎝近くあるな。M大付属のユニフォーム。ただ、第3シードが同校の選手だったから、№2か。どうも2年生っぽいな。もちろん都の32に残るくらいの選手だから、油断は禁物だ。


 お、試合終わったぞ。さあ、行こう。

 僕は、レクシスを張り替えたばかりのブイコアと試合球を持って、きれいな青と水色のツートンカラーのハードコートに足を踏み入れた。

 もちろん、今日もパツパツの昭和ウェアだ。こないだと色違い、黒いラインのタッキーニ。


 マッケンローみたいに華麗なサーブ&ボレーを決めるぞ。




 試合に入る前に第1話が終わってしまいました。申し訳ありません。5000字を大きく超えると、読者の皆様の負担になりますので、切りのいいところで区切らせて頂きました。

 第6章は、中盤の山場となる手塚戦なので、2万2000字もあり、全5話の構成になります。


 また、この何日か、大変多くの読者の皆様に読んで頂き、ブクマも評価点も沢山頂きました。本当に夢のような時間を過ごさせて頂きました。ありがとうございました。

 これからも一生懸命書きますので、応援して下さい。宜しくお願い致します。


 それではまた、明日お会いしましょう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ