第5章 オマケ 昭和テニスマン、美人トレーナーにポーっとなる!
みなさま、いつも本作をお読み頂いて、ありがとうございます。
今回のオマケ編には、やや唐突に3人の新キャラが出てきますが、実は、彼らは、私がテニス編の一つ前に書いたボディメイク編のキャラなのです。K高のボディビル部のお話で、裕の2年先輩になりますね。
3人とも、このあともちょこちょこ出てきますし、特に洋介師匠はテニス編でも割と大事な役割を果たすので、カットせずに、基本、そのままアップ致しました。
「だったら、テニス編の前にボディメイク編をアップしろよ。分かりにくいだろ!」というご意見はごもっともで、私もそうしたかったのですが、例のカドカワのシステム障害の影響で、現状では公開できないのです。薄々見当がつくと思いますが、どうせそんなマイナーな物語は速攻で弾かれるでしょうから、公開に支障がなくなった時点で(それも悲しいですけど)、テニス編と同じく、校正しながらアップしようと思っています。
第5章 オマケ 上には上が
1 とある日曜日、僕は、寿司屋のバイトの前、午前8時に府中のアイアンジムに向かった。エレベーターを4階で降りて、右手のカウンターに行ったら、
「あ、来た。裕、おはよ」って杏佳が頬を綻ばせ、テーブルを立って出迎えてくれた。
今日の杏佳は、黒のロングスパッツ、黒のウェイトリフティングシューズ、上はピンクのタンクトップに黒のグローブ。グレーのキャップの穴からポニテを出して、リボンはピンク。
いいねー、こういうのも似合うね。空いた胸元から見える白い谷間が、なんとも「健康お色気」って感じで素敵だな。
杏佳はフロントに行って、中にいる女の人に、「こちらが今日見学に来た、奈良裕くんです。受付してあげてください」って声を掛けた。女の人は、カウンターから出てきて、「ああ、こちらが杏ちゃんの彼なのね。背高いわねー。ようこそ、いらっしゃい」って言いながら、笑顔を向けてくれた。
が、僕は挨拶も返せず、しばらく言葉を失ってしまった‥‥‥。
こ、これは、も・の・す・ご・い、美人!
たまげた。こんな人いるんだ。背が高い、175㎝くらいありそう。肌がすごく白い。普通の白さじゃなくて、雪みたいな、青みがかった白さ。髪は天然の栗毛。
そして、この肩と背中の厚み、太いけど長い脚と大きなヒップ、うわっ、胸もデカッ! だけどウェストほっそ!
これはもう完全にフィギュアですよ。生けるバービー人形。参りました。ど真ん中ストライク。160㎞のストレートにバットはかすりもせず、長嶋茂雄みたいに一回転して尻もちついた気分。‥‥‥さすがの杏佳もここまではどうだ?
僕が、真っ赤になって手を頭に回し、「えと、えと‥‥‥」とかヘドモドしてたら、杏佳がそーっと手を伸ばし、お尻をギュイってつねりながら、「まったく、あんたも分かりやすいわね‥‥‥。シャキっとしなさいよ」って小声でささやいてきた。イテー。
だが、ありがたいことに、それで「サキャ!」っと覚醒し、僕は笑顔で「初めまして、奈良裕です。K高校の3年です。テニスの選手です。宜しくお願いします!」って元気に挨拶できた。
そしたら、その巨大美人は、
「私は相沢尚って言うの。K高なら私と昇の後輩なんじゃない。これから宜しくね」って言って手を差し出してくれた。僕は握手させて貰いながら、あれ? この人、どこかで見た気が‥‥‥
「あー! あの尚さん? 終業式で水着披露してくれた、セクシー尚さん? ナイスボディ尚さんだ! 思い出した。僕あの時1年生でした。すごく刺激的でした。みんなポーっとなってました!」(作者注 尚は高3でナイスボディの全日本女王になり、終業式で演技を披露した)
「あはは、覚えててくれたんだ。ありがとね。あれ水着じゃないんだけどね。あの頃は今よりずっと細かったから、印象だいぶ違うだろうね。それじゃ、トレーナー呼ぶから、上で着替えてきてね」って言って、尚さんが黄色いロッカーのカードを渡してくれた。
2 上下スエットに着替えて4階に降りてきてみると、若い男性のトレーナーさんが待っていた。
「君が見学の奈良君か。テニス選手なんだってね。俺はトレーナーの小田島昇って言うんだ。よろしくね」って言ってきた。
てか、この人も、も・の・す・ご・い、筋肉! なにこれ? この巨大な肩と胸、女性のウェストくらいある脚、突き出たヒップ。だけど手足長! ウェスト細っ! しかもすごいイケメンで、背も高い。180㎝くらいあるか?
いやー、先ほどに引き続きビックリ。世の中にこんな人いるんだ。この人、コスチューム着せたら、そのまんまバットマンだよ。ホント。
気を取り直して、僕が、「奈良裕って言います。今日は宜しくお願いします」って挨拶したら、
「俺の後輩なんだって? 一応、俺も例の終業式出てたんだけどな」ですって。
「あー‥‥‥大変申し訳ありません。尚さんしか覚えておりません」
「ま、そうだろうな(苦笑)。それじゃさっそく見学行こうか」
館内の各種マシンとフリーウェイト(ダンベル、バーベルなどの重量物)、それからカーディオ(有酸素性運動)のスペースをひと回りして、その後テーブルに座ってカウンセリング。
「しっかし、ずいぶん背が高いなー。2mくらいあるの?」
「今、197㎝です。そろそろ止まりそうですけどね」
「そうか、じゃ、筋トレ始めても骨の成長を阻害しないな」
「僕も一生懸命筋トレしたら、昇さんみたいな身体になれますかね。すごい憧れちゃうんですけど」
「うーん、ごめんな。かなり難しいと思う。背が高すぎる。俺でも高すぎるくらいなんだから」
「背が高いとダメなんですか?」
「その分沢山筋肉が要るんだよ。俺が今95㎏くらいだから、裕君なら、同じフォルムにすると130㎏くらいになるぞ。その量の筋肉をつけるのも、維持するのも、途方もない努力が必要だ。毎日1㎏肉食ったりとか。はっきり言って現実的ではないな」
「ああ、そういうものなんですか‥‥‥」
「だけど、いわゆる細マッチョなら1年くらいでなれると思うよ。十分カッコよくなるだろう。やっぱりさ、テニスもそうだしボディメイクもそうだけど、それぞれ競技特性があるから、それに向いた体形とか体格ってあるから、それは仕方ないよ」
「そうですね。まあ当面はテニス選手ですから、それに合ったトレーニングメニューを組んで下さい」
「そうだな。筋肉つけると単純なパワーはつくんだけど、その分重くなってスピードが落ちるんだ。テニスは砲丸投げなんかと違って、あんな軽いボールを打つわけだから、腕力とかの過剰なパワーがあってもそんなに意味はなくて、結局瞬発力が全てだよな。だから鍛えるとしても、腹筋、背筋、脚といった体幹だけでいいと思う。それだけで、姿勢が安定してブレが少なくなるし、サーブなんかは反って戻すわけだからスピードも増すぞ」
「なるほど、体幹トレーニング大事だって言いますよね。‥‥‥だけど腹筋、背筋なら家でもできるような気がするな」
「そうだけど、自重トレじゃ、それこそ50回も100回も出来ちゃうだろ? それだと有酸素になっちゃって、筋力アップできないんだ。いくら毎日ジョギングしたって、スクワットで100㎏挙げたりできないだろ」
「ああ、そうか、確かにそうですね」
「そういうわけで、裕君の場合は、あまり余計な筋肉を付けずに体幹のパワーアップを図るのがいいな。初心者だから、まずはマシンで腹筋、背筋、レッグブレスをやるといいよ。早速試してみよう」
3 マシンのエリアに移動して、まず、腹筋のマシンをやってみる。
脚を固定して、両手で頭上のバーをつかみ、へそを潰すように屈みこむ。もちろん負荷がかかってる。
「あー、これ効きますねー。負荷をかけて収縮させてる感じがすごくする。自重の腹筋運動とは全然違いますね」
「そうだろう。今は30㎏でやってるけど、どう? 余裕?」
「そうですね。まだまだ行けそうです」
「じゃ、50でやってみよう」
「あー、これ、きついです。10回はできないかな」
6、7‥‥‥きつい。8回が限度だった。
「効いただろ。明日絶対腹筋が痛くなるぞ。まあすぐ慣れるんだけどさ。そしたら、次回からは65でやること。3セットで、インターバルは90秒。多分、6、5、4回で、平均5回できるはずだ」
「え? そんなんでいいんですか。回数少ない気がしますけど」
「そんなんだからいいんだ。筋肉つけずに筋力だけつけるためには、高重量で低回数のトレが向くんだ。柔道みたいな体重制限のある種目の選手がやるメニューだな」
「なるほど。じゃ、まずは65から始めてみます。ちなみにこのマシンだと100㎏までありますけど、昇さんはいくつでやってるんですか」
「俺は、これだと足りないから、プレート持ってきて130㎏かな」
「130‥‥‥。とほほ。とても同じ人間と思えない。おみそれしました‥‥‥」
その後、順次、背筋のマシンと、レッグプレスを試した。
「これでひと通りやったな。3種目で40分もあれば終わるだろ。これを週2~3回やれば、1カ月くらいで、十分成果を感じられると思うよ。物足りないなら肩と胸をちょっとやってもいいけど、あんまりやり過ぎないように」
「はい、とりあえず、今日教わった3つをしばらく続けてみます。40分なら学校行く前に寄って、トレしてシャワー浴びればいいんですもんね。あんまり負担にならないな」
「それいいね。俺も高校時代はそうしてたよ。早朝はジムも空いてるからトレしやすいしな」って言ってから、昇さんはジム内をキョロキョロ見渡して、「あ、いた。ちょっと」って言って、僕をベンチプレス台のところに連れて行った。
昇さんは、ベンチプレス(110㎏だ)をしているトレーニーがセット終わるまで待ち、「くーっ」って声とともに挙げ切ってガシャンとラックに戻したところで、
「師匠。ちょっといいですか」って声を掛けたら、
「おお、昇。なんだ」って40過ぎ位の感じの男性がこちらを向き直った。
って、この人もすごい身体。筋肉質。白く刈り込んだ髭がダンディでハンサムだ。
「師匠。こちらは僕の後輩で奈良裕君って言います。テニスの選手です。今度ウチのジムで体幹を鍛えることにしたそうなので、僕のいないときは、いろいろ相談に乗ってやって下さい。裕君、こちらは佐々木洋介さん。分倍河原で皮膚科のお医者さんやってる。みんなからは『師匠』って呼ばれてるな」
そしたら、その人は、手を差し出しながら、
「裕君って言うのか。いやー、背が高いなー。俺のことは『師匠』で揃えてくれていいよ。君も『裕』でいいのかな。よろしくな。トレのことは何でも聞いてくれていいよ」って、口の端っこでニヒルに笑いながら握手してくれた。僕は、
「はい、『裕』でいいです。師匠、こちらこそ宜しくお願いします」て答えて、手を握り返した。あったかい手だった。きっといい人なんだな。
4 ロッカーの表にあるレストスペースで、トレを終えた杏佳と落ち合う。
「今日、どうだった?」 杏佳がブラックの缶コーヒー飲みながら聞いてきた。
「いいな。平均5回でいいっていうのが気に入った。家で腹筋やったらいくらもできちゃうもんな。筋力アップにならないんじゃ意味ないし。学校行く前に寄って週2、3回やってみるよ」
「うん、そのくらいからがいいかもね」
「お前は体幹だけじゃなくて、胸肩もやってるの?」
「やってるよ。私はもうテニス選手じゃないから、ボディメイクの目的ね。ほら、私、『巨乳』ってほどじゃないけど、割と胸があるからさ、ちゃんと大胸筋鍛えてリフトアップしとかないと引力に負けちゃいそうだから。‥‥‥そうなったら裕だって悲しいでしょ?」
「おお、それは大問題。そうなる前にしっかり見とかないと。触っとかないと」
「なっ、まだ当面大丈夫よ。バカ、エッチ!」
「それにしてもあの二人には驚いたな。同年代であんな人たちいるんだ」
「あの二人は特別よ。尚さんの方は、去年、フィットモデルっていうドレス着て競う種目で日本女王になってる。ボディメイク界では『スノーホワイト』って呼ばれてるスター選手ね。何度も専門誌の表紙になってる」
「へー、確かに、あの完璧なスタイル、ちょっとお目にかかれないよなあ」
「うん。昇さんの方は、去年のフィジーク、要するに『かっこいいマッチョ』競技ね、その東京王者で全日本でも2位に入ってる。昇だから『ライジングサン』って呼ばれてるわね。今年はボディビル(ゴリマッチョ)に転向して、最年少の19歳でミスター東京を獲るんじゃないかって言われてる」
「そんな人たちが高校の先輩にいたのか。全然知らなかった。‥‥‥それにしても『ライジングサン』と『スノーホワイト』なんて、とってもお似合いだよな。あの二人やっぱりそうなの?」
「うん。なんか小さい頃からずっとそうだったみたいよ。きっと大学出たら一緒になるつもりなんじゃないかな」
「ふーん、そうか。まあそうだろうな。へー、あの尚さんがなあ‥‥‥」
そしたら、「あー?」って言いながら、杏佳が隣のチェアに移ってきて、
「今、『尚さん惜しかったなあ』って思ってたでしょう?」って僕の耳元で聞いてきた。
「えー? 思ってない、決して思ってません! ただポーっとなってただけ」
「ああ? ポーっとなってただあ?」
「あ、いや、それも言葉のあやです! ただ思い出しただけですー!」
「今朝の様子ですぐ分かったわよ。あんたの大好きな色白栗毛だもんね。しかも尚さん、ソフトツンデレだってよ」
「ええっ? ソフトツンデレなんですかー? そ、それは、なんとも‥‥‥」
「まったくあんたも分かりやすい男ね。だけど今後デレデレしたら許さないからね。天罰下すからね。浮気なんてもってのほかよ」って言いながら、僕のお尻をギュイーっとつねってきた。
「イテー、やめてー。もうしませんー。‥‥‥って、はは、冗談冗談。お前がプリプリ怒るのが可愛くて、思わず悪乗りしちゃったよ。ごめんな」
「な、なによそれ。人の心を弄ぶのやめなさいよ!」
「はは、ごめんごめん。だけど、こんな可愛い彼女がいるのに、ほかの女に懸想するはずないだろ。ほら、こっち寄れ」って言いながら、杏佳の腰を抱いてギュって密着させると、杏佳も、
「ふふーん。そうよ」って満足そうに微笑んで、両手を僕の腰に回し、胸に顔をくっつけて甘えてきた。白いほっぺがグニューってなってる。はは、可愛いな。こっちは純正ツンデレだね。
そしたら、音もなく、ロッカーの陰から、洗面所のせっけん液持った尚さんが出てきて、「あらら? お取込み中だった? ごめんね」って驚いたように口に手を当てて言ってきた。僕たちは不意を突かれて、何も言えずに、下向いて顔から火を吹くばかりだ。
尚さんは、それ見て、「ふふ、仲がいいのね。ごゆっくり」って、真っ白な頬に美しい微笑みを浮かべて、女子ロッカーに消えていった。
残された僕たちは「はーっ」って息吐いて、「今後、公共のスペースでイチャイチャするのは控えた方がよさそうだな」「そうね」って言い合った。だけど、未練がましく、まだくっついてる。
「しかし、まあ、これで尚さんのセンは完全になくなったな‥‥‥」
「あー、あんたやっぱり!」
「はは、冗談冗談。俺は杏佳一筋だって。そんな顔するな。とっても可愛いぞ」
「あー、もう、知らない! バカ裕!」
その日は、そのあとすぐバイトに行かなければならなかったので、お開きにせざるを得なかったんだけど、二人ともどうしても名残惜しくて、「これっきりじゃ寂しいわね」「なんとかまた会える理由ひねりだそう」って相談して、お昼に杏佳とお母さんがお寿司を食べにきてくれることになった。わーい嬉しいな。
もちろん、僕は、その日、ご予約の吉崎様美人親子を待ちながら、特別丁寧にイソイソと下ごしらえをしたのだった。
そばで大将がニヤニヤしてた。
今週末も拙作をお読み頂きまして、ありがとうございました!
一昨日はpv24だったのに、昨日は172、本日はさらに倍増して376になり、すごく嬉しいのですが、反面「一体何がどうなっているのやら‥‥‥?」と、戸惑ってもおります。
ブクマとポイントを付けて下さった方々のおかげ様で、日間ランキング(恋愛、現実世界)の20位に入ったのが主因なのだろうと思っておりますが、これに浮かれず、「毎日校正。毎日アップ。心がけるのは読者様の読みやすさ」をモットーに、今までと同じことを淡々と継続していこうと思います。
次回からは、場面がインハイ予選に移行します。
ようやく1年ぶりに真司と対戦ですね。
まだまだ暑い日が続きますが、お互い頑張っていきましょう。
小田島 匠




