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第5章 第3話

~ 都立K高校 団体戦一回戦突破 次は因縁の相手、手塚真司がエースのW実業戦 ~


 しばらくして集合がかかり、みんなでAコートの脇に移動。審判役の選手から、

「それでは男子団体二回戦、W実業高校と都立K高校の試合です。両校のキャプテンはオーダーを交換してください」と声がかかり、僕は手塚に「宜しくお願いします」って言いながらと握手して、オーダーを交換した。


 が、手塚は、僕と目を合わさず、

「悪いな。これ、俺が決めたんじゃないぜ」って、憮然として言ってきた。


 あれ? なんだこれ。手塚が第二シングルスに回ってる。僕とは当たらないんだ。


 戻って、「これ、どういうことだろう?」って杏佳に聞いたら、

「ああ、監督がさっきの試合見てたんでしょ。ことによると真司君、あんたに負けるかも知れないって思ってるのね。きっと」

「ええ? 仮に俺が手塚に勝っても、ダブルスと第二シングル落とすわけないじゃないか」

「そうだけどさ。より確実に勝ちに来たのよ。あんたを回避して、ダブルスと真司君なら100%勝てるでしょ?」

「えーっ? 第一シードがそんなことまでするのか? さっきのH高だって堂々とエースぶつけてきたのに‥‥‥。手塚の宣誓、なんだったんだよ?」


「ウチの学校、去年の主力が三人抜けて、正直真司君一枚になっちゃったからね。とにかく安全に毎試合勝ちぬいてインハイ決めたいんでしょ。監督も先生じゃなくて専属のコーチだから、結果出さないとね」

「そういうことか。手塚との対戦はインハイ予選まで持ち越しか。しかしなあ、わざわざ手塚を雄介に当てるって、なんか『そこまでやるか』って気がするな」

「別に悪いことしてるわけじゃないし、真司君だって絶対思うところあるはずなんだから、分かってあげなさいよ」


「うん。まあ、そうか、そうだな。‥‥‥それで、俺が当たるのはどんな選手?」

「去年の団体でインハイ出てる選手ね。個人戦は東京都の32。ただ、ダブルスの方が得意で、ボレーはいいけど、ストロークは真司君には遠く及ばない。高校に入ってから片手バックに変えたので、バックハンドにはっきりと弱点がある。あんたのスライスでバックハンドを攻めておけば、まず大丈夫よ。この試合もワングリップで、スピンサーブもなしでいこう。監督見てるし、丸裸にされちゃうわよ」


「ああ、そうしよう。向こうがその気なら、こっちも正直にやる必要ないしな。それじゃ、行ってくる」


5 第一試合が始まった。

 でも、裕はなんかちょっと怒ってるみたい。ファーストもセカンドもお構いなく、フラットサーブで相手のバックにバンバン打ち込んでる。相手はバックが弱いから、分かってても差し込まれて、いいリターンが返せない。裕はネットに詰めて、オープンコートに簡単に決める。


 リターンのゲームは、ワングリップだから攻撃はできないけど、相手のバックに丁寧に深く返す。裕は返ってきた球をバックのスライスで繋ぐ。だけど、地を這うような強力なスライス。エンドライン深くまで滑空して侵入し、そしてスっと低く滑る。

 相手はたまらず裕のフォアに球を散らすけど、それが裕の狙い目。高い打点からフラットでクロスにズドーンとミサイル発射。低く伸びるボールがコーナーを襲い、相手はもうロブで逃げるのが精いっぱい。もちろん裕はネットに詰めてて、オープンコートにスマッシュを叩き込む。もう一方的な展開。


 ああ、テニスは残酷だ。ほかが全部良くても、たった一つ弱点があるだけで、そこを突く技量を備えた相手ならば、徹底的に突かれて、為す術なく敗れ去ることになる。

 相手の選手も、サーブとボレーは結構いいので、二つキープされたけれど、結局8-2で裕の勝利。快勝だ。

 

 試合を終えて出てきた裕に、

「裕。ナイスゲーム。快勝だったね。お疲れ様」って声を掛ける。

「ああ、なんか乱暴なテニスになっちゃったけどな」

「そんなカッカしないの。いいことないよ」

「知ってたのか」

「そりゃ見てたら分かるよ。意地になってフラットサーブ打ってたじゃない」

「うん、そうな。だけど相手の選手も『咬ませ犬』みたいで嫌だったろうな」

「そういうオーダーなんだから仕方ないよ。チームのためってことじゃない? それにあんたのテニスもバレなくてよかったわ。去年と同じ、フラットサーブとボレーだけの不器用なビッグマン、ってことになってるわよ。きっと」

「そうだな。来月のインハイ予選に向けて、全体のスキルを上げて行こう」


 ******


6 「ひー、負けましたー。強かったー。申し訳ありませーん」と言いながら、ダブルスのペアが引き揚げてきた。さすがに相手は強かった。スコア1-8。


 皆で、「いやいや、よく頑張った。お疲れさん」と労った後、第二シングルの雄介が出陣。相手は昨年の東京王者、手塚真司。


「よし! 頑張ってきます!」と気合入れて出て行った、わずか10分後、

「ゲームセット&マッチバイW実業。スコア8-0 W実業が2-1で勝利です」ということで、雄介は華々しく散った。2ポイントしか取れなかった。何もさせて貰えなかった。青くなって茫然としてる。口からホワホワ煙が出てる感じ。まあ、相手は東京王者、いい経験になったじゃないか。お疲れさん。


 両校の選手が並んで挨拶して、僕は手塚と握手する。

「やっぱり第一シードは強かったな。この後も頑張れよ」

「ありがとう。お前とやりたかったけどな。インハイ予選でまた会おうぜ」

「そうだな。俺も練習しとく」

「優秀な美人コーチが付いてるからな、用心しとくよ」


 試合後は、負け審に入らないといけないので、僕が主審、雄介が副審で残り、次の対戦の三試合を裁いて、みんながいる中庭に戻る。


「おまたせー。お疲れさーん」

「お疲れ様でしたー」って、あれ? 杏佳がいない。ああ、W実業の方で話し込んでる。まあ、そりゃそうだよな。しばらくしたら僕を見つけて帰ってきたので、キャプテンの僕が今日の総括を行う。


「えー、皆さん。今日は大変お疲れ様でした。選手たちはよく頑張ってくれました。あと応援のみんな、どうもありがとう。とても力になりました。さすがにW実業には力負けしましたが、今日は記念すべき団体戦初勝利を挙げることが出来ました。これもみんなで頑張って練習してきた成果です。部員みんなの勝利です。それから、この一カ月間指導をしてくれた杏佳コーチの貢献も非常に大きかったと思います。みんな、コーチにお礼言おう。ありがとうございました!」 ペコリ。


(一同)「ありがとうございましたー!」 そしたら杏佳は、「いや、私なんて‥‥‥」ってヘドモドしながら、下向いて赤くなっちゃった。なんか笑いながら目元を擦ってる。はにかんだ横顔が頬を染めて、とってもチャーミングだな。


「それじゃ、今日のMVP、雄介を胴上げだ!」っていうことで、みんなでわっしょいわっしょい雄介を胴上げ。雄介は「ひゃー! 楽しいー!」ってすごく嬉しそうだった。


 そして、「じゃ、次は杏佳コーチ!」ってことで、今度は杏佳をわっしょいわっしょい胴上げ。なにしろ小さくて軽いもんだから、3mくらい? とんでもなく高く上がり、

「キャー。怖―い。身体が浮くー」って身体縮めて悲鳴をあげていたけど、みんなお構いなく何度も胴上げし、

「はい最後、落とすぞ!」

「バカーっ! やめてーっ!」って、さすがにそんなことはせず、みんなで優しく受けて止めて胴上げ終了。


 そしたら、杏佳は、「うっ、うっ」って言いながら僕に抱きついてきて、グシグシしながら、「‥‥‥怖かった。幽体離脱した。もう二度としないで‥‥‥」ってブツブツ呟いていた。僕は、「あはは、怖かったか。ごめんごめん」って言いながら優しく背中をさすってあげた。後ろで雄介が口開けて、声出さずに、「キャー!」ってやってる。

 周りの高校は、「一回戦勝っただけで胴上げやってやがる。よっぽど嬉しかったんだな(苦笑)」って感じで、僕たちを微笑ましく眺めていた。


 ******


7 会場を後にして、国分寺駅北口の吉野家に集合。

 駅ビルの駐車場に車を入れて、杏佳と歩いてお店まで行ったら、もうみんな到着していた。


「よし、打ち上げだ! 今日も俺のおごりだからな。遠慮せずに『肉だく牛丼』いけよ。大盛りでも特盛でもいいぞ。もちろん卵も忘れるな!」

「おー、裕先輩すてきー!」って、去年と同じパターンだな。


 よせばいいのに、杏佳もみんなに乗せられて、肉だく牛丼の大盛りを頼み、卵をかけて、「美味しー。牛丼って美味しいよねー。女子一人では入りにくいから、あんまり食べる機会ないんだー」って言いながら、嬉しそうに食べてた。

 が、完食後、案の定、「うう‥‥‥。さすがに食べ過ぎた。苦しい‥‥‥。動けない‥‥‥」って、両手をテーブルに伸ばし、突っ伏してグエグエ言い出しちゃった。可愛いキャミのお腹がポンポンになってる。はは、ミルク飲み過ぎた子猫みたいだな。


「まったく、そんな無理するからだ。ちょっと食休みが必要だな。ええと、お前たち、もう解散でいいぞ。俺はしばらく杏佳と一緒にいて、車で帰るからな」って言って、部員たちは、「それじゃ裕先輩、杏佳コーチ、これで失礼します! また来週」って、元気よく挨拶して帰って行った。


 僕は、部員が帰ったのを確認し、シートに座っている杏佳の横に移り、杏佳の腰に手を回して抱き寄せた。杏佳は、「ふふ。気持ちいい。消化進みそう」って言いながら、手を僕の腰に回して、頭を肩に預けてきた。幸せそうに、ニコニコしてる。


「今日は勝ててよかったね」

「ああ、みんないい思い出になっただろ。本当にお前のおかげだ。ありがとな」

「ふふ、裕にそう言って貰えると嬉しいな」

「ホントだよ。お前が雄介鍛えてくれたおかげだ。あと、あんとき雄介に激飛ばさなかったら、きっと負けてたぜ」

「そうかもね。雄介君、今日、完全に一皮むけたわね」


「そういうきっかけになる試合ってあるよな。勇気を持って、挑んで、『あ、通用するんだ。』って経験すると、一気にステップアップできるんだよな。力の伸び方って、なぜか階段状なんだよな」

「そうね。雄介君、来年はエースになるんだね。キャプテンにするの?」

「まあ、それはみんなが決めることだけど、俺は推薦しようと思ってる」

「それがいい。きっといいキャプテンになるよ」


「ああ、そうだな。だけどお前、あんまりおしゃべりしてると消化に差し障るぞ。しばらく大人しくしてろよ」

「うん、そうする」って言いながら、杏佳はそっと目を伏せ、やがて僕の肩に頭を乗せたまま、スースーと穏やかに息をし始めた。はは、お腹一杯で眠くなったのか。黒くて長い睫毛が綺麗だな。



 吉野家なんだけど、目の前には空の丼が並んでるんだけど、なんかこれ素敵なシーンだな、って思いながら、僕は杏佳の眩しい白い太腿をずっと見つめていた。

 



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