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第5章 第2話

~ 男子団体戦 一回戦 都立H高戦 第一試合は裕が8-1で先勝 ~


3 第二試合のダブルス、みんなで必死に応援したけど、やっぱり杏佳の言うとおりまだ力不足だった。健闘はしたけど、スコア4ー8で敗退。


「裕せんぱーい。杏佳コーチ。みんなー。申し訳ない。ごめんなさーい」って両手合わせながら二人が引き揚げてくる。首をうなだれてる。

「ドンマイ。まずまず食らいついた。ナイスゲーム。これ、来年につなげよう」ってみんなで労ってあげた。


 これで一勝一敗。勝負は第三試合、雄介の第二シングルスで決する。


 雄介が、「それでは行って参ります!」ってみんなにお辞儀して、それからパンパンと両手で頬を叩いて気合入れて、くるっと反転し、小さな背中に決意をにじませてコートに入る。

「雄介ー、頼んだぞー。頑張れー!」 みんなで叫んで送り出す。


 H高校の第二シングルは、雄介と同じ位の体格の小柄な選手だった。

 アップを見る限りストロークはまずまず、だけどボレーとサーブは苦手そうだ。スピード、パワーともに、さほどではない。


 試合が始まってみると、予想通り、「とにかく拾って繋ぐ」という、雄介と同タイブのプレースタイルだった。いわゆる「シコラー」で、ロブ気味のストロークで繋ぎ、自分からはミスせず、相手のミスを待つテニスだ。サービスライン付近で跳ねるチャンスボールでも打ち込まず、相手の苦手なバック側に丁寧に返す。一、二回戦でよく見るタイプ。


 同じプレースタイルのシコラーなので、試合時間はやたらと長くなる。サーブが非力なのでサービスキープとかブレークとかあまり意味がなく、お互い取ったり取られたりを繰り返し、接戦になっていく。もう、BコートとCコートは、次の学校の対戦に移行している。


 だけどよく見ると、雄介の方が少しだけアグレッシブだ。この一カ月間、杏佳がコーチして、リスクを取って決めにいくハードヒットを教え込んだんだ。繋ぎ合っているうちに、浅く高い球が返ってきたら、思い切ってオープンコートに打ち込む練習を積んできた。

 この試合でも、いくつか試してはいるけれど、やはりまだ精度が低いのと、打ち込む勇気がどうしても足らず、手元が狂ったり、中途半端になって取られたりして、ここまで収支はせいぜいトントンといったところか。


 スコアは6-6で並んだ。

 次のゲームは相手のサーブだったが、このゲーム取られると王手なので、プレッシャーがかかったのだろう、いきなりダブルフォルトを二つ続けてくれた。これはラッキーだ。その後お互い1ポイントずつ取り合って、15ー40。雄介リード。ここはチャンスだぞ!


 相手のファーストはフォルト、もうセカンドは力なく置きにくるだけ。雄介は丁寧にバックに返す。相手選手は一つもミスできないから、ロブ気味で雄介のバックに繋ぐ。雄介はそれを読んでて、フォアに回り込んだ。

「決めろ! ストレート!」って、皆で叫び、雄介もスピンかけながらストレートにハードヒット。相手はもう追えない。だけどボールは、ああ、エンドラインをわずかにオーバーし、アウト。惜しい。だけど今の展開よかったぞ。


「ドンマイ。惜しいぞ! まだリードしてる。チャンボ(チャンスボール)は打ってけ!」って声援を送る。これで30ー40。


 次のポイントも同じ展開。雄介がバックに返し、相手はロブで繋ぐだけ。今度はフォアに浅い球が返ってきた。そこだ、決めろ! 雄介はスピンかけてクロスにハードヒット。だけど、緊張していたのだろう、「ガサッ」っとネットにかけてしまった。瞬間、雄介が「ああー」と顔を覆う。

 これで40オール。ずっと押してた分、ここを落とすとすごく嫌な感じだ。だけどこれがシコラーの戦術、大事な試合なんだからプレッシャーがかかるのは仕方ないけど、勇気を出して打ち勝つほかない。


 ここは、いっちょ激を飛ばすか? ‥‥‥と思っていたら、

「雄介君! 腕が縮こまってるわよ! 余計な事考えないで、もっと腕振って! チャンボは思い切り叩いて! 大丈夫よ、命取られるわけじゃないんだからっ!」って、杏佳が叫んでた。はは、先越されちゃったな。


 雄介は、それ聞いて、緊張で青くなった顔をこっちに向け、だけど無理に口の端でニッと笑って、相手に向き直り、

「さあ、チャンボ来い!」って言いながら、前傾姿勢でラケットをクルクル回した。おお、ちょっとカッコいいじゃないか、雄介。


 次のポイントも同じ展開。雄介がリターンを相手のバックに返し、相手も雄介のバックにロブ気味で繋ぐ、それをまた雄介がフォアで回り込む。眼の前にポトンと落ちたボールが高く跳ねる。雄介はそれを厚い握りで打ちに行く。


「叩け! 決めろーっ!」 全員で叫んだ。


 雄介はスピンをかけながら、「フッ!」って思い切りストレートに打ち切る。

 迷いがない。ラケットが回転して、肘が高く上がっている。

 ボールは、オーバーするような勢いだったが、スピンかかった分ライン際でストンと落ち、コーナーの内側に着弾して、相手が必死に伸ばしたラケットの先を、そのまま抜けていった。

 よし決めた! ナイスショット! よく思い切ったぞ。ゲーム7ー6。王手。


 最終ゲームはもう一方的だった。雄介は、相手が繋いだ球が短くなればフォアのスピンで叩いて決めた。四発で終わり。相手シコラーの戦術は最後の最後で崩壊。そして、雄介はシコラーから脱皮して、はっきりと次のレベルに昇華した。


「ゲームセット&マッチバイK高校 スコア8ー6 そしてK高が2-1で団体戦勝利です。選手は並んで下さい」と審判から指示が出る。

 K高とH高の選手が並び、「ありがとうございました」と挨拶して握手する。


 僕が向こうのキャプテンと握手したら、

「いやー、強いな。驚いた。こんな選手と当たったことなかった。間違いない、お前の才能は本物だよ。インハイ予選も頑張ってくれ。期待してるぞ」って励ましてくれた。だから僕も、

「お前だって出るんだろ? お互いどこまでいけるか分かんないけど、まあ頑張ろうぜ」ってエールを返した。

 さっきのシコラーもニコニコしながら雄介と握手してる。

 H高は気持ちのいい連中だったな。


 いやー、しかし際どかった。激戦だった。興奮した。弱小校同士のさしてレベルの高くない試合だったけど、K高にとっては大きな大きな勝利だ。記録がないから分かんないけど、たぶん本校初勝利。


 選手がコートの外に引き上げると、部員と杏佳が、「やったー。よく頑張ったー!」って、みんなで囲んで労いの言葉をかけてくれた。

 僕は、「みんなも応援ありがとうな。応援の力と普段の練習の成果で勝てたんだから、全員の勝利だよ。だけどやっぱり、最後に重圧跳ね返して勝ち切ってくれた雄介がMVPだな。よく頑張ったぞ!」って言いながら、雄介の頭を撫でてあげた。


 そしたら、雄介は、「うう‥‥‥」って言って、顔グシャグシャにして、

「えーん。裕せんぱーい。怖かったよー。えーん」って言いいながら、僕に抱きついてきて、背中に手を回し、お腹に顔を埋めて、ヒックヒック泣きじゃくった。

 後ろで杏佳が直立して、口開けて、だけど声を出さずに「キャー!」って顔をしてる。だけど、そのうち平静に戻り、腕組みして「まあ、今日はしょうがないわね。貸してあげるわよ。ふん」って言って、苦笑いしながら、雄介の頭を撫でてあげていた。


 ******


4 一回戦が終了した。残りの一回戦のカードが終わらないと二回戦に進まないので、しばらく間が空く。なので、中庭の縄張りに移動して、ちょっと早いけどお昼ご飯だ。部員の大半はコンビニのおにぎりとお茶、あとホットコーナーの唐揚げなんかだったけど、おほほー、僕は、

「はい。おべんと作ってきたわよ。どうぞ、召し上がれっ!」っていう、なんとも甘酸っぱーい展開。

 部員たちが、「いーなー、裕先輩、いーなー」って一斉に言ってきた。ふふふ。いいだろう?


「ごめんねー。みんなの分まで作るのはちょっと無理だったわ。私と裕の分だけ。だけど試合中だから凝ったお弁当じゃないわよ。おにぎりと卵焼きと野菜と果物だけ。お腹一杯になると動けないからね」

「それで十分だよ。おお、しょっぱい、塩気がきつい、これスポーツマンおにぎりだな。具は‥‥‥お、梅干し。おお、いいの使ってるな。美味しい。だけど、すっぺー」

「運動してるときは塩分大事だからね。しょっぱくしといたわ。ほかのは鮭と塩昆布よ」

「お、いいね。だけど、お前ん家のことだから、いくら醤油漬けとか、牛肉しぐれ煮とか、そういう具を想像してた。いや、別にそれが食べたかったって言うんじゃないんだぞ」


「あんた、いろいろウチのこと誤解してるみたいだけどね、そんな毎日ご馳走食べてるわけじゃないのよ。案外質素なのよ。ご飯食べるときだって、リビングの端っこの四畳半の畳にちゃぶ台おいて三人で食べてるんだから」

「えー、なんか意外な感じ。あんなデカい家で、わざわざそんなことしてるのか。‥‥‥って、おお、この卵焼き美味いな。ネギとジャコか。出汁も効いてる。これお前が作ったの?」

「そうよ。私、こう見えてお料理上手なんだから。あんたほどじゃないけどね」

「はは、別に意外じゃないよ。俺が作れるのは寿司だけだからさ。杏佳が料理上手でよかったよ。どれもすごく美味しいよ」


 そしたら、上から、「愛情弁当食ってやがる‥‥‥」って声が掛った。


 見ると、手塚が僕と杏佳の弁当を覗きながら、腰に手を当ててた。

「お、手塚、久しぶり。元気そうだな」

「お前もな。さっきの試合見てたぞ。ナイスゲームだ。去年より全体に上手になったな。サーブは相変わらずだし」

「まあ、ストロークはお前に遠く及ばないけどな。次の試合はお手柔らかに頼むぜ」

「こちらこそよろしくな。進行が割と速くて前のカードが第二試合終わったから、あと20分くらいだぞ。弁当早く食っとけ」

「お、それ言いに来てくれたのか。ありがとな。またあとでな」

「ああ、またな。‥‥‥まあ、でも、とにかく、俺はお前だけには負けるわけにいかなくなったからな。全力で叩きつぶすぞ。じゃな」って言い残し、手塚は背中向けてW実業の縄張りに帰って行った。


 最後の何? って顔で杏佳を見たら、杏佳は黒い睫毛を伏せて、無言で、静かに首を振って返してきた。

 そうか、聞いちゃいけないんだ。何かあったんだな。

 まあ、薄々想像つくけど、男女の仲だからな、いろいろあるさ。ほっとくことにしよう。


 さあ、いよいよ次の相手は昨年の東京王者、手塚真司。


 どこまでできるかな?


 



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