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第5章 男子団体戦開幕 激闘一回戦! 雄介、男を見せろー! そして昭和テニスマン、怒りのW実業戦!

第5章 秘密のベール 5月25日(土)


1 土曜日の朝、杏佳のアウディに同乗して、国分寺駅の北に向かう。今日は、東京都高校テニス選手権男子団体戦が行われる。


 今日はコートで練習しないから、杏佳はテニスウェアじゃない。ブルーデニムのショートパンツ(ラフに裁断して裾がふさふさしてる)にパープルの短いキャミソール。長袖のジャケットはホワイトのシースルー。それと5㎝ヒールの白いスニーカー。チラっと出てる縦長のおへそがいい。

 キャミがタイトなので、形の良い豊かな胸が強調されて、ほっそいウェストとの対比も抜群だ。


 試合会場のW実業高校に到着し、杏佳が入り口で「当校のOBなんですが、応援に来たので車を置いてよろしいでしょうか」と聞いたら、「ああ、久しぶりですね。結構ですよ。どうぞ」ということだったので、遠慮なく駐車場に入れさせてもらった。守衛さんも杏佳のこと覚えてた。

 参加要項に「車での来場はなるべくご遠慮下さい」って書いてあったけど、やっぱり美人は得なんだな。


「『応援に来た』って、お前、K高の応援じゃないか。隣に乗ってるのも俺だし」

「あはは、まあ、嘘は言ってないでしょ。さ、いこ。開会式始まるよ」って言いながら、杏佳は車から降り、サングラスを外して、キャミの胸元に掛けた。おー、いい女、カッコいい。


 駐車場から通路を歩いて、初等部のエントランスをくぐった中庭で受付をやっていた。

「都立K高着きました。エントリーお願いします」って、キャプテンの僕が受付をしていたら、部員たちが集まってきた。

「裕先輩、杏佳コーチ、おはようございまーす。うわー、コーチ、今日はまた一段とお美しいですねー。ドキドキしちゃいますー」

「おはよ。そんなお世辞言ったってなにも出ないわよ。ふふ。でもありがと」

「講堂の日陰にシート敷いて場所取りしてありますから、どうぞ、行きましょう」

 皆でK高の縄張りに移動して、日陰のシートにバッグを置いて、杏佳用の三脚スツールを置く。

 

 ほどなく午前9時30分から開会式。第一シードのW実業の山に入った12校(ベスト16の山。シード4校なので12校)が並んで競技委員長の訓示を聞く。

 そして優勝旗の返還。W実業の主将、手塚真司が委員長に旗を手渡し、その後選手宣誓。正々堂々、全力を尽くすそうだ。


 開会式後は、すぐに試合だ。第一シードのすぐ下の組なので、当然第一試合になる。部員たちと一緒に野球場の外縁を歩き、奥の線路沿いにあるテニスコートに移動する。試合は一番手前のAコート。サーフェスは平和の森と同じ、砂入り人工芝。


 審判役のW実業の選手が既に来ていて、

「第一試合。都立H高校と都立K高校のキャプテンは、挨拶してオーダーを交換して下さい」と言うので、僕は、一緒に隣で話を聞いていたキャプテンらしき選手と、「宜しくお願いします」「こちらこそ。よろしく」みたいな挨拶をして握手を交わし、オーダー票を交換した。ああ、僕は第一試合で向こうのキャプテンと対戦だ。先鋒にエースを出してきたんだな。いいじゃないか。弱小校同士、正々堂々とやろうぜ。


 部員たちにオーダーを報告し、「よし、俺からだな。頑張って来るぞ」と言って、バッグと試合球持ってコートに入ろうとしたら、杏佳が僕のシャツの裾持って引き留めて、

「裕。審判もそうだし、次に当たるW実業の選手も見てる。今日は、ワングリップでやろう。サーブもバックもスピン禁止。本番は来月のシングルのインハイ予選なんだから、手の内明かさないこと」って言って来た。


「えー、せっかく練習したのに、試合で使わないと身に付かないぞ」

「それはそうだけど、あんたのテニスは初見ではどうにも対応できないんだから、勿体ないよ。今日は隠しとこう。あんた今日は去年の夏のままでいいわ。それでも圧倒できるでしょ?」

「まあ、なんか釈然としないけど、コーチがそう言うならそうするか」って言って、コートに入る。

「裕先輩、ガンバ!」って部員たちが見送ってくれる。


 ベンチにラケットバッグを置き、レクシスを張ったラケットとボールを持ってエンドラインに移動。今日もパツパツの昭和ウェアだ。タッキーニの黄色いラインのポロシャツ。マッケンロー(注 往年の名選手。華麗なサーブ&ボレーでファンを魅了した)が着てたやつだ。

 H高のキャプテンと何球か軽くラリーをし、その後前に出てボレーをいくつかやる。今のところ、それほどの力量の持ち主には思われない。

 その後、お互い軽く2、3球サーブを打って、さあ試合開始だ。今季初戦、どの程度できるかな?


2 サーブは裕からだった。相手選手は比較的長身で180㎝近くあるけど、ウォームアップを見た限りではそれほど強そうではない。裕はとにかくサーブは落とさないだろうから、相手のサーブを一つでもブレークできれば、8-5で勝ちだ。


 始まった。裕がスっとトスを挙げ、左足を右足に揃え、背中を反らせてラケットを立て、一瞬静止する。そこから、腹筋で体を戻しながら、少し前にあげたボールに向かって前傾しながら肘をぶつけていく。ああ、しなやかで綺麗なフォーム。見とれちゃう。

 遅れて出てきたラケットヘッドに撃ち抜かれたボールは、「バンッ!」ていう炸裂音とともに、瞬時に相手コートを襲う。渾身のフラットサーブ。

 あ! 危ない。正面に行った。避けて! ああ、避けた。ボールに触る余裕なんてまるでなくて、しゃがんで避けるので精いっぱい。相手選手は、(なんだ今の?)って首をすくめ、目をまん丸にして驚いている。H高の応援団をちらっと見て、(すげーな。こいつ)って苦笑いしてる。

 15ー0 「裕先輩ナイスー!」の声とともに、裕はアドコートに移動。


 今度はトスを少し外にあげた。スライスサーブだな。相手選手も分かってるから、トス見て、スッとバックに移動する。だけど、裕のサーブはその想定を軽く上回る。ハイスピードでスライドしながら、ネットを越えて「キャッ」っと沈み、サイドライン際で跳ねて、さらにスライドしていく。卓越したスイングスピードがなせる業だ。

 相手選手は一瞬追うものの、すぐに、(あ、こりゃだめだ。取れねー)ってあきらめる。これじゃ、隣のコートに入ってないと取れないものね。最初からそこにいるとセンターにフラット打たれるし、対応しようがない。


 結局裕はこのゲーム簡単にサーブ4本でキープ。調子は良さそうだ。


 こうなると相手は苦しい。自分のサービスゲームは一つも落とせないから、プレッシャーがかかる。ああ、やっぱり、しょっぱなからダブルフォルト。0ー15。

 次は割といいサーブがバックに入るけど、裕はスライスで深く守りのリターン。その後はバック同士のラリーになるが、裕は低く滑るスライスで丁寧に繋ぎ、相手が5球目をネットにかけた。0ー30。ワングリップでもラリー大丈夫そうね。


「裕、スライスいいよー。繋いでこう!」って応援してたら、後ろから、

「あれ? 杏佳先輩?」って声が掛った。小柄な男子選手だ。


「ああ、真司君か。久しぶりね、元気そうじゃない」

「杏佳先輩も。だけど、ずいぶん細くなりましたね」

「うん。選手やめちゃったからね。今は、週二でちょっと打ってるだけ。だけどジムに通って身体は鍛えてるよ」

「へー、そうなんだ。やめちゃうの勿体ないけどな。今日はウチの応援に来てくれたの?」

「んーとね、そうじゃなくてK高の応援。今、週一でK高のコーチしてるんだ。二回戦に進んだらW実業と当たるし、どっち応援していいか複雑なんだけどさ、まあでも、真司君のとこ、まさか負けたりしないでしょ?」

「まあ、そうかも知れないけど、なんで杏佳先輩がK高で教えてるんですか」

「今、試合やってる裕に頼まれたの。家が近所でね、お父さん同士も仲良しで、それで私、裕と時々一緒にテニスしてるの」


「ふーん、奈良か。知り合いだったんだ。しっかし相変わらずデカいな。身長いくつあるの?」

「そろそろ197になるって言ってたな」

「197‥‥‥。俺より30㎝も高いのか。腕も長いから、サーブの打点は40㎝くらい違うのかな。ほんとにうらやましいな。10㎝でいいから分けて欲しい。それでも187なんだから十分だろ」

「そうだけどさ、真司君、10㎝大きかったら、今みたいにストローク上手くなかったかもよ。敏捷性も落ちるしね。だから今あるものを伸ばすほかないんだよ。裕だって背は高いけどストロークへたくそだしね。全体にちょっとずつ進歩はしてるけど、今日のテニスだって去年と大差ないでしょ?」


 ごめんね、真司君。でも嘘は言ってないわよ。だんまりを決め込んでるだけ。


「そういえばそんな感じかな。でも確かに精度は上がってる気がする」

「うん。そうね。まだまだ基本的なスキルが出来てないから、私も足りないとこ、ちょっとずつ教えてるんだけど、試合で使うのは少し時間がかかりそうね」


 そしたら、真司君が、

「なんで? 杏佳先輩、なんで奈良にそこまでしてあげるの? インハイ予選で俺と当たるかもしれないのに。付き合ってるの? 彼氏なの?」って、少し険しい目つきになって、問い詰めてきた。

「うーんとね、そうね、それ、答えなきゃだめ?」

「どうしても嫌ならいいけど、俺は聞きたいな」

「‥‥‥」


 そのとき、後ろから、急に、

「しつこくするのやめろよ。困ってるだろ」って声が掛かった。意外、雄介君だ。

「気持ちは分かるけどさ、答えに窮してるんだから、それが答えだろ? 察してやれよ」って続ける。

 真司君は、一瞬、目を見開いて、カッて怒ったような表情をしたけど、すぐ元に戻って、

「‥‥‥ああ、そうだな。確かにその通りだな。杏佳先輩、しつこく聞いてごめんなさい。それから、誰だか知らないけど、君も。なんか一瞬憎たらしかったけど、おっしゃるとおりだ。ごめんな。あと、ありがとうな」って言って、「じゃ、また。勝ったら二回戦で」って初等部棟の方へ戻って行った。


「雄介君ありがとね。男らしくてかっこよかったわよ。頼もしいわ」って言ったら、雄介君は「へへ」って頭に手を当てて、赤くなって照れてた。

「でも、言うほどしつこくなかったわよね。真司君、あの人、ちゃんとした人よ」

「そうでしたね。僕も杏佳コーチ助けたい一心で、つい出過ぎた真似を。はは」


 そうしているうちに、

「ゲームセット&マッチバイK高校。スコア8ー1」ってアンパイヤが告げ、試合が終了した。

 ナイスゲーム。裕にリターンミスが二つ出たゲームをキープされただけで、あとは全く寄せ付けず、余裕の勝利。特にサーブは、一般的なレベルの選手では、もはや対応不可能。返ってこないからボレーの練習にもならなかった。


 うん、裕、去年よりずっと強くなってるわよ。この調子でいこう。



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