06 ドラゴン襲来
※4~7話は主人公不在です
「GYRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
空高くから、ドラゴンが咆哮を放った。
木々はざわざわと音を立て、小鳥は群れをなして遠くへ逃げていく。
「ウソ...よ......」
確かに、ドラゴンが来ると聞かされていた。
聞かされていたが......
(信じられない......)
なぜこんなところにドラゴンがいるのだろうか。
ドラゴンというのは本来、人里離れた―――例えばマグマが煮えたぎった灼熱地帯のような―――場所にしか生息していないようなモンスターである。
それがこんなところに現れるなんて......
「せんせぇ、そとでなにかあったの?」
「ッ!!」
しかし、後方から聞こえた声が一気にサユリを現実に引き戻す。
院の中から小さな女の子が出てきた。
瞼をしきりに擦っており、その脇にはかわいらしいぬいぐるみを抱えている。
「アリア!ダメよ!家に出ちゃ!」
「......?なんでぇ?」
アリアがあくびをしながら答える。
まだ寝ぼけているのか、その眼はとろんとしていた。
「いいから!早く家に戻って!」
サユリは、たまらず少女の元へ駆け出した。
「GRRRRRR......」
だが、運が悪いことにドラゴンは既に少女の存在に気づいていた。
口元から迸るような火炎をチラつかせると、そのまま居座るようにして落下してきた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「キャッ!?」
「ウォ!?」
ドラゴンが着地し、大地に亀裂が走る。
それにより、発生した衝撃波がマクスとスフィーを吹き飛ばし、孤児院の窓も次々と割れていった。
「......?」
アリアは状況を把握できていないのか、ポーッとしている。
サユリはアリアを守るべく、体を寄せて抱きかかえた。
(早く逃げないと......ッ!!)
頭ではとっくに理解していた。
しかし、体が全く言うことを聞いてくれない。
「GRRRR......」
「あ...ああ......」
サユリは目の前の化け物をただ呆然と眺めた。
爬虫類を思わせるような細長い瞳孔に、黄色の瞳。
頭上には漆黒の双角が生えており、片方は途中でへし折られていた。
全身は真紅の鱗で覆われており、ところどころ付いている傷からは橙色の光が漏れている。
さながら燃え盛る炎を鎧にして纏っているようだ。
ドラゴンの立っている箇所が熱した鉄のように溶けていく。
(どうか、どうかこの子だけは......!!)
サユリは心の中で必死に命乞いをする。
しかし相手はドラゴン。
無情にも、口元からは炎が溢れ出していた。
「GRRRRRRR!!!!」
ドラゴンの口が大きく開かれる。
先ほど地面を焦がしたものがとぐろを巻き、今まさに放たれようとしていた。
「おらぁ!」
ところがブレスが放たれる寸前、握りこぶしほどの石がドラゴンに直撃する。
ドラゴンは攻撃を中断すると、石を投げつけた者に目を向けた。
「マクス!?」
石を投げたのはマクスだった。
彼は腰に携えていた剣を突きつけると、ドラゴンを挑発する。
「おいドラゴン!こっちだ!」
「GRRRRR......!!」
ドラゴンは攻撃を妨害されたことに腹を立てたのか、狙いをサユリからマクスに切り替える。
「先生たちは早く逃げろ!!こいつは俺が引き付ける!!」
「そんな無茶だよ!!マクスはどうするの!?」
「そうだ!!君が敵うような相手じゃない!!」
スフィーと男は反対する。
当然、サユリも同じ気持ちであった。
ドラゴンは冒険者の中でも上位の実力者でしか狩ることができないモンスターである。
それをいくら訓練しているとはいえ、まだ十五歳の、それもまだ冒険にも出かけたことがないマクスがまともに戦えるとは到底思えなかった。
「うるせぇ!そんなこと俺にだって分かる!!」
マクスは大声で叫んだ。
「でも誰かが足止めしなきゃ全員死ぬだろ!!だったら俺が食い止めてやる!!」
「......逃げよう」
男が呟いた言葉にスフィーは反論する。
「でもマクスが!!」
「彼の言うとおり、このままだと全員死ぬ!早く逃げるぞ!」
「早く行けスフィー!!」
マクスに怒鳴られ、スフィーは一瞬身を固める。
しかし、すぐに思い直したのか、彼女はマクスに言葉をかけた。
「......絶対に生き残ってね」
「あったりまえだぁ!!」
マクスは不敵に笑うと、ドラゴンに剣を構える。
男とスフィーはサユリたちのもとに合流すると、まだ建物の中に取り残されている子供たちを救出するべく、院の中に入った。
「「うわああああああああああん!!!!」」
中では二人の子供が膝をついて泣いていた。
「もう大丈夫よ!!」
サユリは二人を見つけるなり、ぎゅっと抱きしめた。
「わーん!!せんせーい!!」
「よしよし、怖かったねぇ~」
サユリは二人の頭をゆっくりと撫でて落ち着かせようとする。
しかし、本来はそんな悠長なことをやっている場合ではなかった。
孤児院の屋根は今にも崩れそうである。
天井からパラパラと木くずが降り注いでいるのがその証拠だ。
一刻も早く宥めて、外に連れ出さねば......
「グス......せんせぇ......そとでなにがあったのぉ?」
「んーそうねぇ、ちょっと危険なモンスターがこっちに来てるみたい」
「それって、だいじょうぶなの......?」
「大丈夫よ~マクスお兄ちゃんがなんとかしてくれるわ」
サユリは子供たちを一通り落ち着かせると、非常用の出口を指さした。
「それじゃあ、私たちは避難しましょうね~」
サユリとスフィーと男はそれぞれ一人ずつ子供を抱えるとそのまま孤児院から出た。
(マクス......ッ!!)
サユリは心の中で無事を祈ると、精一杯逃げだした。




