05 異変
※4~7話は主人公不在です
「おーい大変だぁぁぁぁ!!ドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ドラゴンがやってきたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
それは、突然起こった。
遠くの方から男の叫び声が聞こえてくる。
「何だ、いきなり?」
三人は訝し気にそちらの方に振り向く。
「ドラゴンだぁぁぁぁぁぁ!!!!!ドラゴンが来たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!早く逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ドラゴン?朝っぱらから何言ってんだ?」
マクスは意味が分からないとでも言いたげに男の方を見やる。
実際、サユリも男が何を言っているのか理解できず、困惑していた。
ドラゴンとは数多のモンスターの中でも最上位に位置する存在である。
その生息域もマグマが煮えたぎる火山やダンジョンの最深部など、とても常人がたどり着けない場所に住んでいるという。
当然だが、この近辺にドラゴンが現れるなど聞いたこともない。
「ドラゴンといえば......あ!!そうえば昔、ドラゴン連れてる人がいなかったっけ?」
「ばっか!あれはドラゴンって言っても比較対象にならないだろ。見るからにポンコツそうだったし」
スフィーとマクスの話で、サユリもその時のことを思い出す。
確かに昔、ドラゴンを連れている人に会ったことはある。
その人は有名な騎士団に所属していて、まだ幼かったドクロがお世話になったのだ。
今もまだ元気にしているだろうか?
「おい......何やってんだ......早く逃げろ......」
いつの間にか男がこちらまで来ていたようである。
相当急いでいたのか、サユリたちの目の前まで辿り着くや膝に手をつき、「ゼェ......ゼェ......」と息を吐いていた。
「おいあんた大丈夫か?」
マクスが呆れた様子で男を心配する。
男は即座に呼吸を整えると、再びサユリたちに警告を出した。
「ああ問題ない。それよりドラゴンだ!!ドラゴンが来たんだよ!!」
「いやドラゴンなんてこんなところに来るわけない......」
「だから本当に来たんだよ!!」
男は鬼気迫った表情でサユリ達を見やる。
その必死さから、男が嘘をついているとは思えなかった。
「さっき、俺の村が襲われたんだ!!何の前触れもなくな!!とにかく!!今は信じてくれ!!じゃないとお前たちも手遅れになるぞ!!」
「......マクス、スフィー」
サユリは二人に呼びかけると、孤児院の方に指をさす。
「私たちも避難しましょう。焦らず、慎重にね」
「......分かりましたよ」
マクスは渋々納得すると、サユリと共に孤児院に入ろうとする。
「......」
しかしスフィーはその場で立ち続けると、ぼんやりと遠くを眺め出した。
「どうしたの、スフィー?」
サユリは心配そうに声をかける。
「......先生、マクス。あれ.......」
スフィーはわなわなと震えながら指をさす。
サユリとマクスは彼女が指さした方を見やった。
するとそこには見たことがないシルエットが空に浮かんでいて......
「ヤバいヤバいヤバい!!!もう来やがった!!」
男は先ほどよりも焦りだすと、突然孤児院の中に入ろうとした。
「あ、おい!?」
マクスはすかさず男の侵入を防ぐと、そのまま羽交い絞めにする。
「なにいきなり入ろうとしてんだテメェ!!」
「ここは孤児院なんだろう!?ドクロちゃんが住んでるっていう!!」
マクスはいきなり同居人の名前を出され、思わずビックリしたような声を上げる。
「ハァ!?何であいつのことを......!?」
「話は後だ!!それよりももう本当に時間がない!!早く子供を連れて......!!」
「マクス」
二人の争いが激しくなる前に、サユリはマクスを優しく諭す。
「その人が言っていることはおそらく本当のことよ。だから放してあげなさい」
「......ッ!!」
マクスは苦々しげな表情をしたが、サユリに言われた通りに解放する。
「あいつらに変なことしやがったらただじゃおかないからな」
「ああ、分かってる」
男はサユリの方に向くといくつか質問をした。
「子供の数は?」
「3人」
「......院に入っても?」
「ええ」
サユリは男に院に入る許可を出すと、子供たちを連れ出すために孤児院の方に向いた。
男とマクスも手助けをするべくサユリに続く。
「あ...ああ......」
「おいスフィー!!」
しかしスフィーは動かなかった。
ぶるぶると身体を震わせ、完全に固まっている。
マクスが苛立たしげに彼女を呼んだ。
「なにボサっとしてんだ!!お前も動け!!」
「あ、あれ......」
「ああ?だからドラゴンだかなんかが来るんだろ?さっき見たじゃねぇか......」
マクスはスフィーにつられて再びドラゴン?と思しきものを見る。
「......なんだ、あれ?」
そしてマクスもスフィーと同じように固まってしまった。
「......どうしたの、二人とも?」
訝し気に思ったサユリは一旦足を止めると、二人が見ているモノに注視した。
そこには、太陽に勝るとも劣らない光のようなものが見え――――
「......ッ!?伏せろおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
マクスが叫んだのと、鼓膜を圧迫するかのような轟音が襲ってきたのはほぼ同時だった。
地面が揺れ、熱気を伴った衝撃波がサユリ達を襲う。
「キャア!?」
「うお!?」
突然の出来事にサユリと男は吹き飛ばされる。
「......ッ!?マクス!?」
そしてマクスはすんでのところでスフィーに覆いかぶさり、彼女を衝撃波から守っていた。
「そんな!?マクス!?私のせいで......ッ!!」
「痛ってて......安心しろ、俺は平気だ」
マクスはスフィーを立ち上がらせると、服についた土埃を払う。
そしてすぐさまサユリたちの方に駆け寄った。
「先生!?それにあんたも!大丈夫か?」
「ええ......私は大丈夫よ」
「俺もだ」
服は汚れてしまったものの、幸いにも怪我はなかった。
サユリは立ち上がると、一体何事かとと周囲を見渡す。
「え......」
そして僅か数メートルのところに大きなクレーターが発生していることに気づいた。
その表面は赤熱しており、さながら溶岩のように見える。
「なに......これ」
彼女の中に恐怖の感情が渦巻いていく。
あと少しでもこれがズレていたらと思うと......想像しただけでゾッとする。
「ブレスだ......」
男の顔がみるみるうちに恐怖に歪んでいく。
「野郎、こっちに気づきやがった!!早くしないと......」
その時だった。
サユリたちの頭上に大きな影が映ったのは。
「え...あ......?」
彼らはそれが何なのか、上を見ずとも分かってしまった。
食物連鎖の頂点にして、生態系の覇者たる存在。
遺伝子に刻まれた恐怖が否応なしに呼び起されていく。
「な、なんで...」
マクスが影の持ち主を見上げながら呟いた。
絶望と困惑が入り混じった声が周囲に響く。
「何でこんなところにドラゴンがいるんだよぉ!?」




