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03 禁術

「準備はいいか?」

「いいぜぇー」

「もちろんです」


リーダー格の男が指示を出すと、手下と思われる男二人がガサガサと音を立てはじめた。


(は?え?何?どうゆうこと?私死んでるの?)


ドクロは自身が死体扱いされていることに納得できなかった。

死体であるというのならば、なぜアンデッドでないにも関わらず、意識が残っているというのだろうか。

確かに身体は動かせないが、自分はまだ生きているはずだ。


ドクロが何とかして抗議しようとすると、ふと男の一人が寄ってくる。

そしてドクロの目をこじ開けると、ぐいっと顔を近づけた。


(ほぎゃああああああ!!!!)


突然の出来事に、ドクロは思わず絶叫する。

もし、身体が麻痺していなければ今頃甲高い悲鳴が地下室にこだましていただろう。


「よしっ、死んでる……よな。こいつ」

「おい、どーしたいきなり」

「いや……なんかこの子、喋っているような気がして……」

「なんだよそれ、気持ちわりぃ。死体には慣れてるだろ」

「それはそうだが……」

「二人とも、準備できたぞ。早くしろ」

「ウィース」

「はい、今すぐに」


(……よかったぁ)


目の前に映し出されたのは不気味な模様をした仮面だった。

ドクロは男3人が仮面をつけていたことに心の底から()()()()

でなければ、発狂していたかもしれない。

とりあえず災難は乗り越えられたと、ホッと息を吐こうとして――


(......あれ)


彼女は気づいてしまう。

自身が一切、呼吸をしていなかったことに。

全身が麻痺して動かないということは、当然ながら口も鼻も動かせないということである。

当然ながら呼吸など出来るはずもない。

にも拘わらず、全く息苦しくない。


(.....................)


不思議な感覚だった。

思えば、目を閉じていたにも関わらず、周囲の状況がおぼろげながら映し出されていた。

まるで夢を見ているときみたいな、あんな感じ。


(.....................そっか)


自分は死んだのか、とドクロは悟る。

案外あっけなかったな、とも。

そう考えると、自分でも驚くぐらいすんなりと受け入れられた。


(......あーでも)


ドクロの脳裏に、一人の女性が浮かび上がる。


(ちゃんと恩返ししたかったなぁ......)


........................................................................................。


(.........ん?)


ここで、ドクロはある違和感に気づく。


(でもそれじゃ意識残ってるのおかしくない?もう死んでるのに)


死んでいるというのであれば、今こうして考えることすら出来ないはずだ。


(......もしかしたら、まだ道は残されている......?)


生き残れるという道が。

とはいえ、状況はかなり絶望的である。

身体は全く動かせないうえ、このままではアンデッドにされてしまう。

正直、このままじゃ本当の意味で死んでしまうかもしれない。


ドクロは心の中で手を組むと、神様に祈りを捧げる。

どうか、私をお守りください、と。


「よし、それじゃ今からこの女をスケルトンに変えるぞ」


どうかこの窮地を救って......................................................................................................................................................................


.........................................................................................................................................................................................................................


.........................................................................................................................................................................................................................


..................ん?


(スケルトン?今、スケルトンって言った?)


ドクロは即座に祈りを中断し、今しがた聞こえてきた単語に注意を向ける。

何かの聞き間違いだろうか。


「でもこの子、もう既にスケルトンって感じしません?なんかすごい痩せてるし、本当に動くのか......?」


それはそうだ。

なにせこちとら毎朝早く起きて走っているのだから、痩せて当然である。

全く。

三食きちんと食べながらこの体型を維持するのにどれだけの苦労をかけていると思っているのか――

......じゃなくて。


「しっかしマジで貧相な奴だなぁ。つまんねぇの」


よし。こいつは地獄の果てまで追いかけ回して全身の骨を脱臼させてやろう。

......じゃなくて。


「まぁでもいっか。スケルトンにすんのいつも時間かかるし。さっさとやっちまおうぜ」


やはりそうだ。

「スケルトン」という単語が出てきた。

つまりこれから、スケルトンにされてしまうということでいいのだろうか。


(そんな......)


ドクロは己がスケルトンになった姿を想像する。

胸の周りの肉が全て削ぎ落され、肋骨が露わになる姿を。

そして顔の中にある髑髏が剥き出しになる姿を。


(そんなのって......)


ドクロは思う。

自分は仮にも神にその身を誓った人間である。


そんな人間が神に背き、スケルトンになるなど......


(悪くないかもしれない)


ドクロはあっさりと己の末路を受け入れた。


(いや惑わされるな私!!そんなことになったら先生が悲しむに決まってる!!でもまぁもうどのみち助からないかもしれないし!それならいっそのこと、スケルトンになった方がギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!)


ドクロが心の中で葛藤していると、男たちが儀式を始めた。

彼女の身体を燃え盛る青い炎が包み込み、その身を焦がし始める。


(あああ熱っあああああ!!!!!何これっ!?!?熱!?超熱いんだけど!?!?!?)


今まで感じたこともない熱さにドクロは悶絶する。

地獄の業火とはまさにこのことだろうか?


(だ、誰か―!!誰か助けてぇー!!!!!!!!!!!)


耐え難い激痛から逃れるべく、ドクロは必死に体を動かそうとする。

しかし、身体が動くことはなく、火の勢いは増すばかりだった。


(ギャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!)


人知れず、彼女の絶叫が響き渡った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……これで何体目ですかね?」


術をかけてからしばらく経ったころ。


部下の一人が今までスケルトンにした数を気にし出した。


「さぁな、大体50かそこらじゃないか?」


リーダー格の男が今までスケルトンにしてきた数を数え出す。


「そんなん、気にしなくてもいーんじゃないっすか?どうせあと少しで終わるんだし」


「そう言うな。上からの命令だ。ちゃんとしなければならん。ノルマまであと……おっ、出来たみたいだぞ」


男の視線の先が少女の方に向かう。

先刻まで燃えていた炎の勢いはなく、今やほとんど消えかけていた。


「今回は少し長かったな」


「ですね。思ったより時間がかかったというか……」


「こいつなら早く終わると思ったんだけどなー。まぁいっか、さっさと終わらせようぜ」


男達が談笑をしていると、青い炎が完全に消える。


彼らはさっそく、(しもべ)にしたスケルトンを覗き見ようとするが……


「……なんか焦げてません?」

「……みたいだな」


なぜか彼女はスケルトンになっていなかった。

せいぜい、肉を焼いたときみたいな焦げ目がところどころ見えるだけである。


「……?どうなってる?」


初めて見る現象に、男たちは困惑した。


「どうします?これ?」

「とりあえず、動かしてみろ。おい」

「はいはい。わーりましたよ」


男の一人がリーダーに命令され、ドクロの身体に触れようとする。

しかし、そのまま素手で触るのも抵抗があったのか、近くに落ちていた適当な棒をつかみ取ると、何度か小突くようにしてつついた。


「どうだ?」

「んー……感触的には死体ぽいっすねぇ。重いし」


男たちの視線がドクロにくぎ付けになる。

腕や足を棒で持ち上げてから抜いてみると、だらりと落ちる。

その動きは、確かに死体のそれに似ていた。


「……失敗したんですかね?」

「……まだ分からん。少し待ってみるとしよう」

「え~、マジっすかぁ?」


そうして、男たちはドクロが起き上がるのを待った。

1時間、2時間、3時間待つ。

しかし、彼女が動き出す気配は一向にない。


「やっぱ、失敗したんですかね?」

「......みたいだな」

「えぇ~!?じゃあ、また死体を探さなきゃいけないんっすか!?」

「そうなるな」

「マジかよ~」


とはいえ死体を探すのは骨が折れる。

そのため男達はあと1日だけ待つことにした。

その間、男達はもう一度儀式を行おうとする。

しかし、何も変化が起きず、不発に終わった。


そして一日が経った。

少女が動くことはなかった。

そこで男たちもようやく儀式に失敗したと結論付けた。


「あ~、めんどくせぇ」


男の一人が用済みになった少女を湿った地面に放り投げた。


ドサッと音を立てたそれは、うつろな瞳を空へと向ける。


「ま~た探さなきゃいけないのかよ」

「まだ見つかりますかね?」

「探すしかないだろ、少し休憩したら出発するぞ」


男達は仕事を完遂するために、再び死体探しに向かった。


「......ア......アア......」


このとき、彼女の変化に気づいている者は一人もいなかった。

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