02 絶体絶命
(………ウゥ…)
ドクロは背中にひんやりとした感触を覚えると、いつの間にか寝ていることに気づいた。
(......ん?)
しかし、そこは森ではなかった。
辺りは暗く、カビと埃が混じった独特の刺激臭が鼻をつく。
おそらく、地下室とかそんなところだろうか。
(……?)
先ほどまで森にいたはずなのだが。
それが、なぜだか全く見知らぬ場所で寝ている。
一体どうゆうことだろうか?
胸騒ぎを覚えたドクロはとっさに起き上がろうとするが……
(ッ!?あれ!?)
動かない。
指一本動かすことすら出来ない。
まるで石にでもなってしまったかのように、身体を動かすことが出来ない。
(なんでっ……!?)
全身が冷たくなっていくのを感じる。
なぜ身体が動かない。
そもそもさっきまで森にいたはずなのになんでこんなところにいる?
混乱する頭で必死に考えるも、何もわからない。
「あー、つっかれたー」
ふと、足元から男の声が聞こえてきた。
声、いや足音を聞くにあと2人はいるだろうか。
3人の男たちがこちらに向かってきているようだった。
「あんだけ探し回ったのに、収穫1かよー。ついてねぇなー」
「そう言うなよ。この付近は教会の方も目を光らせているんだ。新鮮なのを一体見つけられただけでも上出来だろ」
男たちがなにやら不穏な会話をしている。
今、こんな目に遭ってるのも彼らのせいだろうか。
(森でいきなり襲われた、とか?)
ドクロは考えられる可能性をいくつか挙げた。
頭を強打された、状態異常系の魔法をかけられた、毒を飲まされた……等々。
しかし、その可能性は限りなく低かった。
頭を殴られた、というのであれば、あまりにも痛みが無い。
状態異常系の魔法に関しても、あの男たちの魔力から魔法を使えるとは考えにくい。
だとすれば……
(毒を飲まされた?)
考えられそうなのは、これぐらいだろうか。
とはいえ、これも正しいとは思えない。
何かを飲まされた、のであれば多少なりとも抵抗するはずだが、そんな記憶は全くない。
というよりも、そもそも森で誰かと会ったという記憶がない。
そもそも身体が無傷であることからも、襲われたと考えるのが間違っている可能性が高い。
(それじゃあ、何らかの理由で動けなくなったところを連れてこられたとか……?)
となると、森で一体何が起こったというのか。
ドクロは自分の行動を振り返った。
(でも、森での出来事なんて、鳥の骨を見たあとに、ヘビの骨を見て、そのあとにトカゲの骨を見て……)
……ヘビ?
(そうだ、ヘビ!)
思い出した。
あの時、少し変わったヘビに噛まれたのだ。
一応、初級回復と中級解毒をかけたのだが……。
(身体が痺れて、動けなくなって)
ドクロの頭にその時の記憶が鮮明に蘇る。
ヘビの「骨」を観察した後、しばらくブラブラしていると、トカゲを見つけた。
当然、透視を行って「骨」を眺めていたのだが、思うにあの時点ですでに毒は全身を巡っていたのかもしれない。
トカゲの「骨」に満足し、立ち上がろうとした際に、身体を上手く動かせなかったのだ。
それの原因がヘビによるものだと頭によぎったときには、既に全身は毒に侵され、一歩も動くことが出来なくなっていた。
そこでドクロは冷たい地面にうつ伏せに倒れ、そこで自分の中にある骨を鮮明に感じ、死が近づいているのを悟って――
(あん時だァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!)
ドクロは全てを思い出し、心の中で絶叫をする。
そして教会に行かなかったことを後悔した。
(やっぱちゃんとイリアちゃんのとこに行っておけば......!!)
あの人だったら、おそらく誰であろうと治してくれただろう。
気まずいからという理由で行かないべきじゃなかった。
ドクロは頭を掻きむしりたい気分に襲われる。
(ッ!?いや、ダメだ!悲観的になっちゃ!何か、何か考えないと......!!)
しかし、ドクロはすぐさま切り替え、打開策を練り始める。
このままでは何をされるか分かったものではない。
最悪の場合、ここで死ぬ可能性だってある。
それだけは何としても避けるべく、ドクロは必死に頭を回す。
しかし、男の口から信じがたい言葉が出てきた。
「んで、どうしますボス。あの女の死体」
「予定通りだ。術をかけて使役するぞ」
(何か!!……......え?)
ドクロは一瞬、男の発言を理解することができなかった。
死体?
一体どこに死体があるというのか。
それに使役って……
「ちゃんと動いてくれますかね?なんか動いた瞬間壊れそうな気がしますけど」
「馬鹿だなァお前。さっきまで生きて動いていたんだ。動くに決まってんだろ」
ドクロは頭の中で男たちの会話に出てきた単語を拾い集める。
教会。新鮮。死体。使役。
先ほど男たちの会話に出てきた単語。
バラバラのピースが一つにまとまっていく。
そこから導きだされる答えは一つだった。
(……アンデッド)
そのことにドクロが気づいたのと、男たちがドクロを囲むようにして立ったのは、ほぼ同時であった。
前話に出てきた蛇のモデルはそれぞれオオカミヘビ(無毒)とアマガサヘビ(有毒)です。