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(……え)
一瞬、何が起きたのか理解できずに呆然とする。
(消えた⁉)
それから、外套がないことに気づいたドクロは部屋の四方八方を見渡した。
しかし外套とそれを着込んだモノらしきものはどこにも見当たらない。
(少し目を逸らしただけなのに......!!)
ドクロは先ほどまであったはずの外套が消えたことに驚愕する。
ほんの一瞬、視界から外れただけだ。
にも拘わらず外套は音もなく消え去った。
まるで魔法でも使ったかのように。
ドクロの脳裏に転移装置や自身が使った魔法が思い浮かぶ。
(いや、それはないか……)
だがその考えをドクロは即座に否定する。
この部屋に転移装置はないし、加速魔法に関しても不死者でない限り瞬間移動に近い芸当を行うのは不可能であるはずだ。
(......というか)
ドクロはその場に立ち尽くす。
すると壁や床が軋む音が流れ込んできた。
(なんで加速魔法が解けてんの⁉まだ全然余裕だったのに!!)
あの外套に触ったせいだろうか?
一応、魔法が何らかの拍子で解除されてしまう可能性は考えていたが……
これは流石に予想外だ。
(こうなったら...…!!)
幸いにも、まだ魔力は残っている。
これならば再び発動することもできるはずだ。
「加速魔法!!」
ドクロは魔法の詠唱を唱える。
しかし……
(あ、あれ!!)
魔法が発動しない。
(お、落ち着け!!もう一回!!)
ドクロはもう一度魔法を発動させようと試みる。
(なんで⁉)
だがまたしても魔法は発動しない。
それからドクロは何度も魔法を発動させようと試みる。
加速魔法、加速魔法、加速魔法...…
しかし何度やっても魔法は成功しない。
部屋の中で詠唱の言葉が空しく響くだけだ。
(どどど、どうしよう...…!!)
念のために襲撃される旨を記した紙を置いてはきたが...…
これでは加速魔法を使っている間に襲撃者を倒すという作戦が台無しだ。
ドクロは後悔すると、自身の手を見つめる。
(こんなことなら触らなきゃよかった……!!)
もしかすると、魔法を強制的に解除する効果でもあったのだろうか。
このままでは先生たちの手を煩わせることに……
(......いや)
ここでドクロは最悪の事態に気づく。
それはあの外套を着ていたモノがあの組織の女が言っていた襲撃者だった場合だ。
そもそもここはネクロ・レギオンが管理している場所のはず。
内装を考えるに、堅気の人間がここにいるとは考えにくい。
(ヤバ……!!)
もしあの外套を着ていたモノが襲撃者だとしたら……
かなりマズいことになる。
なにせ一瞬にして姿を消してしまったのだ。
先生達が教会に助けを求める前に避難所に辿り着いても不思議じゃない。
(早く行かなきゃ……!!)
ドクロは扉の方を向くと、慌てて店を出ようとする。
「ウウ……」
「ッ!?」
その時、再び部屋に男の呻き声が聞こえてきた。
ドクロは足を止め、声が聞こえた方へ振り向く。
(……)
外套が消えたことに驚いて気が回らなかったが……
この部屋に誰かいるのだろうか?
ドクロが訝しんでいると、
「誰か……いるのか……?」
と尋ねる声が聞こえてきた。
(やっぱ誰かいる!!)
ドクロは声が聞こえる方へ急いで向かう。
(な!?)
すると、目の前に複数の男たちが床に倒れこんでいるのが見えた。
ほとんどの者が失神している。
「大丈夫ですか!?」
咄嗟にドクロは男たちの方に駆け寄ると、その身を案じる。
「た、助けてくれ……」
男の中の一人が声を振り絞るようにして呟いた。
目をしまうための窪み―――眼窩を構成する「骨」のうち、底側にヒビが入っているのが見える。
症状から見るに、おそらく眼窩底骨折だろう。
「一体何が……」
「そんなの……俺が聞きてぇよ……」
男は震える腕を伸ばすと、扉がある方角を指さした。
「仕事に行こうとしたら……青黒い……ボロボロの服を着てた奴にやられたんだ……」
(それって……)
間違いない。
あの外套のことだ。
ということは、あれを羽織っていたのは「人間」だったのか。
「どうしてそんなことに……」
「知るか、そんなの……」
男は苛立たし気に答えた。
(怪我を負わされたあと、ここに連れてこられたのか……?)
「それよりも……早くなんとかしてくれ……」
「ああ、はい!今すぐ……」
ドクロは男に急かされると、手をかざす。
そして自身の一番得意な骨折の治療を……
(って馬鹿か私はぁぁぁぁ!!)
ドクロは避難所にいた少女に回復魔法を使って黒焦げになったことを思い出す。
(ど……どうしよう……)
このままでは重傷を負うのは自分の方である。
正直言ってあんな目には二度と遭いたくない。
それに……
(今は時間が惜しいのに……)
さっきまでとは打って変わって余裕がないのだ。
怪我をした人を見かけたら回復魔法をかけてきたが、それが裏目に出てしまった。
(ううう...…)
とはいえ、彼らを放置するのは危険だ。
命に別状はないだろうが、不必要に苦しませてしまう。
(ううう...…!!)
ドクロは苦渋の判断の末、回復魔法を使うことに決めた。
この際、黒焦げになるのは我慢しよう。
「中級回復!」
男に手をかざし、魔法を唱える。
しかし―――
(で、出ない……)
回復魔法が出せない。
「中級回復!初級回復!初級回復!初級回復!」
何度唱えようとも、魔法が発動しない。
(そんな……!!)
ドクロの中に焦燥感が生まれる。
やはりあの外套には魔法を使えなくする力があったのだろうか。
「おい……」
「す、すみません!すぐに人を呼んできます!」
ドクロは即座に応えると、すぐさま立ち上がる。
(あああ……私の馬鹿ぁ……)
よく考えたら最初から避難所に向かいつつ、道中で会った人に魔道具店に怪我人がいることを伝えればよかったんだ。
(なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう……)
ドクロは急いで外に出るべく、ドアノブに手をかける。
ガチャ
そのとき、男の方から音声のようなものが聞こえてきた。
『おーい、そっちの状況はどうだい?避難所にはもうついたかな?』




