19 加速魔法
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(―――加速魔法?)
目の前の少女が魔法を唱えた瞬間、女は呆気に取られる。
確かに加速魔法は魔力を消費すればするほど、加速できるスピードと持続時間が大きくなる有用な魔法だ。
特に戦いを生業とする冒険者パーティに一人でも使えるものがいたら重宝されることは間違い。
しかし悲しいかな、この魔法には大きな弱点が二つある。
一つ目は消費魔力が大きいこと。
並みの魔法使いでは数秒程度しか維持することが出来ないぐらい魔力の消費が激しいのである。
そして二つ目はどれだけ魔力を消費しようが伸ばせるスピードや持続時間には限りがあるということである。
限界まで魔力を消費したとしても上げられるスピードの倍率はせいぜい5倍が限度。
持続時間もせいぜい30秒ほどしか上げることができない。
故に一瞬の判断が命取りになる戦闘ならともかく、移動にはあまり向いていない代物である。
ましてやここから同居人に伝えに行くなど―――限りなく不可能に近い。
(とはいえ―――)
相手は不死者とされる存在。
油断など出来ようものか。
女は目の前の少女の姿を逃すまいと、じーっと目に焼き付ける。
白い髪に、褐色の肌。
あどけなさが残る顔立ちからは、小さな八重歯を覗かせている。
「............」
女は瞬き一つせずに少女を見つめる。
「.............」
もしかすると、こちらを警戒しているのかもしれない。
今のところ少女が動く気配はない。
「............」
魔法は既に発動しているはずだ。
だが、それでもなお少女は動こうとしない。
「............」
少女は先ほどから微動だにせず、そこに立ち尽くしている。
一体、いつになったら動くのだろうか―――。
「............」
ドクロが魔法を唱えてから6秒。
結果は―――何も起きなかった。
(なんだ、つまらない......)
どうやら、上手くいかなかったらしい。
女は期待外れの結果に肩透かしを行う。
(まぁ、魔法に失敗はつきものだしね)
責めるのも酷か。
と女は施設の壁を見て思い―――。
「「「「「「「「............ッ!?」」」」」」」」
いつの間にか、ドクロの姿が消えていたことに気づく。
「き、消えた......?」
「ど、どこ行ったんだ!?」
周囲の者たちが次々に驚きだす。
「えーっと......転移装置が作動した可能性はっと......」
困惑する彼らとは裏腹に、女は転移装置の方へ向かう。
「……使われた形跡は残ってないね」
どうやら転移装置は使っていないらしい。
だとしたら、ドクロはどこへ消えてしまったのだろうか?
「............」
考えられるとしたら、やはり加速魔法しかないだろう。
ドクロが不死者になったことで、強力な魔法が放てることは既に判明している。
ともすれば、支援魔法の加速魔法が強化されていても不思議じゃない。
「.......中々やるじゃないか」
これは正直、予想を遥かに超えてきた。
あながち、逃げ切るというのも嘘じゃないかもしれない。
「面白くなってきたね」
女は楽しそうに笑うのだった。
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(せ、成功した......!!)
ドクロは走りながら、自身の魔法の結果に満足をする。
(まさかこんなに上手くいくなんて!!)
予感はあった。
不死者になった今なら加速魔法の欠点をなくすことが出来るんじゃないかと。
結果は大当たり。
想像以上の効果であった。
"加速魔法!"
魔法を唱えたとき、最初は自分でも失敗したと思った。
なぜなら加速魔法をかけたとき特有の、あの万能感がなかったためである。
故に、自身に魔法がかけられているという確証を持てずにいた。
しかし、それが勘違いだとすぐに気づく。
いつの間にか目の前にいた女をはじめ、後ろに控えていた構成員たちの動きがピタリと止まっていたのだ。
おそるおそる動いてみるが、彼らはなにも反応を示さなかった。
目の前で手を振ったり、話しかけても同様である。
そこでようやく、自身の魔法が成功したことに気づくのだった―――。
(早くここから逃げないと!)
ドクロは一秒でも早く脱出をするべく、出口になりえそうな場所を探す。
「...............」
すると梯子のようなものが目に入った。
ドクロは壁にかけられたそれに足をかけ、一つずつ昇っていく。
(ここは......)
梯子を上りきると、見覚えのある場所に辿り着く。
そこはドクロが禁術をかけられた場所―――不死者に変えられた場所であった。
(こんなところに飛ばされてたのか......)
ドクロはあの日の出来事を思い出す。
ここで禁術をかけられ、失敗したとして森へ捨てられた。
そして何日もの間、地面に横たわっていたのだ。
(今は考えている暇はないか)
まさかさっきの場所と繋がっていたとは驚きだが、今はあまり重要じゃない。
あれが夢ではなく現実である以上、ここから森までのルートは把握できている。
幸い、町からはそう遠くはない。
(......よし)
今のところ追手のようなものは来ていないが、魔法が切れないという保証もない。
ドクロは先生達のところに向かうべく、全速力で走っていった。




