01 違和感
(うーん……いつもは「骨」を見たら気分も晴れるんだけどなぁ……)
ドクロは飛び去っていった宝石鳥を見送った後、適当な岩に腰をかけ、空を見上げていた。
危険なモンスターや動物が生息していないこの森は、「骨」を観察するにはうってつけの場所である。
故に、彼女は気分転換に「骨」を見るためにここへ足を運んだのだが……
(あー......ダメだぁ......)
肝心の気分が晴れることはなかった。
(私なりに考えてたつもりだったんだけどなぁ……)
ドクロは昨日の出来事を思い出す。
彼女の育ての親でもある、孤児院の先生であるサユリ。
そしてドクロが通っている学校の担任であるイリア。
その二人が話をしている場面が脳裏に映し出され――
(はぁ……これからどうしよう......)
ドクロが物思いに耽る、
その時だった。
「いたっ」
右手にちくり、とした痛みが走る。
そちらを見てみると、白黒の縞模様が特徴的なヘビが右手を噛んでいた。
「ヘビッ!!」
ドクロは目にもとまらぬスピードでヘビを鷲掴みにすると、噛まれないように頭を軽くつまむようにして抑えこむ。
そして瞳に魔力を込めて透視能力を発動させると、身体の中に隠された「骨」が露わになった。
「こ、これは……!!」
堅牢さを感じさせつつも、しなやかな動きを実現させるために組み上げられた数多の椎骨!
アーチ状に生えた肋骨の曲線美!
そして極めつけは……
「……あれ?」
ここでふと、ドクロは小さな違和感を覚える。
(頭骨ってこんな形だったっけ?)
それはほんの小さな違い。
常人ではまず気づかないであろう差であった。
(…………)
ドクロは透視能力を解除すると、手元のヘビをまじまじと見つめる。
「………?」
白黒の縞模様。
間違いなく、この森に生息している蛇の特徴である。
しかし、いささかその模様の数が多い気がする。
それに、先ほどにも感じた、頭骨への違和感。
個体差というには明らかに違う気が……
(いやいや、まさか)
毒は持っていない。
ドクロはそう思うことにした。
理由はもちろんある。
彼女は昔、この手のヘビに何回も噛まれたことがあったが、いずれも大事には至らなかった。
その答えは簡単だ。この地に住まう蛇には毒のない種しか生息していないのである。
強いて言うならば、感染症のリスクがあるが、それも即座に治癒魔法を使えば問題ない。
(………)
ただ、この森に生息しているヘビと似たような特徴を持つ、毒蛇の存在が脳裏にチラつくが……。
(確か、あの蛇はこの辺には生息していないはず)
図巻にはそう記されていた記憶がある。
具体的な生息地は覚えていないが、確か距離的には馬車で移動したとしても、数ヶ月はかかる計算だったはずだ。
少なくとも、この森にいる可能性はゼロに近いだろう。
(……まぁでも噛まれたには噛まれたし。念のため初級回復と中級解毒でもかけとくか)
ドクロは掴んでいたヘビをリリースすると、噛まれた箇所に手をかざす。
「初級回復!中級解毒!」
そして魔法を発動すると、右手が淡く光りはじめ、傷がみるみるうちに修復されていった。
(これでよし、っと)
とりあえずの処置はこれでいいはずだ。
あとは教会にも行って……。
(……やっぱ教会はいいかな)
いくらなんでも心配しすぎか。
ドクロはその時、そう思った。
(もうちょっとだけ、「骨」を見てから帰ろう)
彼女はガチガチに固まったお尻を持ち上げると、軽く背伸びをする。
そして再び「骨」を見るために、森の中を探索するのだった。