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12 変容

「そんな!?回復魔法が効かないなんて!?」


キアムは目を大きく見開くと、口元を手で覆い隠した。

目の前にいる少女の身体からは細々と白い蒸気が出ている。


「ダメよ!!こんなところで死んじゃダメ!!」


キアムは再び手をかざすと、回復魔法を唱えた。


上級回復(ヒール)上級回復(ヒール)上級回復(ヒール)上級回復(ヒール)上級回復(ヒール)上級回復(ヒール)!」


キアムは自身が長年かけて磨いてきた回復魔法を惜しみなく使用する。

仮にも彼女は聖女。

回復魔法の効力は誰もが認めるところである。

しかしそれでもなお、少女の怪我は一向に治らなかった。


(ア˝...ア˝ア˝......)


一方、ドクロは回復魔法をかけられるたびに虫の息になっていた。

部屋の中で「ぷしゅ~」という音が空しく響き渡る。

全身を丸焼きにされた豚とはこんな感じなのだろうか。

身体のあちこちがとんでもなく熱い。


「ああ、なんてこと......!!私じゃ手に負えない......!!!」


やがてキアムは回復魔法を唱えるのをやめると、その場に呆然と立ち尽くした。


「一体どうしたら......ッ!!......ハッ!?」


キアムは何か策を思いついたのか、バッと顔を上げる。

そして即座に出口に向かって駆け出し、


「今からイリア様を呼びに行きます!!少しお待ちください!!」


と大声でその場にいる全員に伝えた。


薄れゆく意識の中、ドクロは心の中で安堵する。


......そっかぁ。

イリア様かぁ。

イリア様なら安心だなぁ――――――――――――――――――――――――――――――――――――




....................................................................................................................................................................................................................。





「やめてええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」


ドクロは自分でもビックリするぐらいの大声を出した。


「......ッ!?じゃ、なくて。ぜんぜん、大丈夫でーす!!おかげさまで、元気になりましたー!!」


ドクロはニコッと笑うと、精一杯のアピールをした。


「......ほ、本当?本当に、大丈夫なの?」


キアムは立ち止まると、不安げにドクロに尋ねる。


「本当ですよー!!ほら!!」


そういうと、ドクロは自身の素肌を見せた。

先ほどまでは明らかに焼け焦げていたそれが、今はほどよく日焼けした程度に戻っている。


「わざわざイリア様の手を煩わせるべきじゃないですよー!!それよりも......今は.私じゃなくて、彼の方を優先すべきだと思うんです!!」


ドクロはマクスの方を指さした。


「実はさっきドラゴンと戦って......ところどころ火傷してるみたいで!!」

「え?............ッ!?まぁ!?なんてこと!?」


キアムは急いでマクスのもとに駆け付けると、回復魔法の準備をした。


「ごめんさいね!!気づいてあげられなくて!!」

「え?ああ、いや、別に......」

「見たところ、そこまで深くは焼かれていないみたいね......大丈夫よ!!すぐに治せるわ!!初級回復(ヒール)!!」


キアムはマクスに回復魔法をかけた。

すると先ほどのドクロの時とは異なり、みるみるうちにマクスの怪我が治っていく。


「すごい......」


スフィーは感嘆の声を漏らしていた。


マクスは避難所に来る前にスフィーから治癒を受けている。

しかしそれでもなお、完璧に治ったわけではなかった。

回復魔法といえど、怪我を治すのは容易ではない。

それをキアムはいとも簡単に成し遂げたのだった。


「他に怪我をしている方はいるでしょうか!?」


キアムはマクスの治療を終えると、他に怪我人がいないか呼びかけた。


「......あの、少し皮膚が痛いんですけど......いいですか?」

「もちろん!!違和感のある方は、私のところに並んでください!!」


一人、また一人とキアムのもとに列がなされていく。


(ふぅ......よ、よかったぁ......)


ドクロはその様子を見て、ホッと胸を撫でおろしたのだった。


もしもイリアが呼ばれて回復魔法などかけられたりしたら、あのドラゴンのように灰すら残さず消滅していただろう。

なぜだかそんな気がする。


(それよりも......)


さっきのはいったい何だったのだろうか。


回復魔法を使った瞬間、内側から爆発したかのような衝撃が襲ってきた。

そして回復魔法をかけられた瞬間、炎で焼かれるような痛みが襲ってきた。


治癒魔法でダメージを受ける。

これじゃまるで、アンデッドみたいな......


(......あ)


ふいに、あの時に見た夢を思い出す。

毒ヘビに噛まれて動けなくなったとき。

見るからに怪しい仮面をつけた男たちが、死体をスケルトンに変えるとかいう術をかけてきた変な夢。

あのときに味わった、想像を絶するような痛み。


あれはもしかして......


(夢じゃなかった?)


「ドクロちゃん、本当に大丈夫?」

「え?」


ドクロが物思いに耽っていると、スフィーが心配してきた。


「その......さっき突然叫んだかと思えば、光りだしたから......なにかあったのかなって......」

「そうだぜ。それに、回復魔法かけられてる時もなんか虫の息だったじゃねぇか。どうしたんだ?」


いつの間にかマクスもこちらに来ていた。

アリア、ネイザル、ヴォウマはキアムのところに並んでいる。

おそらく、念のためにとマクスが並ぶように言ったのだろう。


「あー......えっと......それはぁ......」


ドクロは必死に言い訳を考えた。


「実はさっき、うっかり透視を解いちゃったんだよねぇー!!」


てへっとドクロは舌を出した。


「ハァ?なんだよそれ?」

「じゃあさっき光ってたのは......」

「あーあれね!!私も今初めて知ったんだけど、透視の加減を間違えると内側から光って爆発するっぽいんだよねー!!」


ドクロはアハハと笑った。


「いやー!!危ぶなかったなー!!キアム様がいなかったらあと少しで死んでるところだったなー!!」

「ド...ドクロちゃん......」

「お前......そんな一歩間違えたら死にかけるようなもんを毎日使ってたのかよ......」


苦し紛れの言い訳だったが、二人は一応納得したようだった。

おそらく、透視......より広義に言うなら魔眼について疎いからだろう。

ちなみに透視の原理についてだが、ドクロ自身もよく分かっていない。

幼少期に練習したらいつの間にかできるようになっていたので、具体的な仕組みについて知らないのはある意味当然の話だ。

とはいえ流石に、透視の加減に失敗したところで体内で爆発など起こったりはしない。


「あ、そうだ!!私ちょっとお花摘みに行ってくるねー!!」


ドクロは無理やり話を切り上げると、足早に出口に向かおうとする。


「あ、おい!!」


マクスが呼び止めてきたが、ドクロはを強引に突破した。


「もし先生が戻って来たらそん時はよろしくー!!」

「おねーちゃん......」


さきほど膝を怪我していた少女がドクロに話しかけてきた。


「んー?どうしたのかなー?」

「えっと、その......」


ドクロが膝を上下させながら振り向くと、少女はもじもじとしながら俯いている。

しかしやがて顔を上げると、一言だけ呟いた。


「膝......ありがとう」

「......うん!!どういたしまして!!」


ドクロは笑顔で答えた。


「でも一応、キアム様にも見てもらってね!!」


そう言うと、ドクロはすぐさま外へ飛び出すのだった。

ひとまず、書き溜めていた部分を公開しました。

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