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冒険者と連れ去られ

 夜中、レニーは準備を始めた。荷物の中から骨格を誤魔化せるローブと香水を出す。

 武器や道具は置いていく。怪しまれない為には必要なことだ。


「好きなものは果物、嫌いなものはネズミ、昔はやんちゃで木登りとかをしてた、ねえ」


 リディアとその両親との会話を思い出しながら頭の中でどう演技しようか考える。


 声は、まぁおそらく部下を寄越してくるだけだろうから声を若干高くすればいいだろう。知り合いでない限り知られてないはずだ。


 ノックの音が聞こえ、振り返る。


「どうぞ」


 扉が開くと、リディアが入ってきた。


「眠れないのかい」

「寝れると思う?」


 寝れないんだな、とレニーは思った。

 とりあえず近くにあったイスをリディアに近づける。


「座るかい?」

「あ、ありがとう」


 おそるおそるといった感じでリディアが座る。


「荷物持っていかないんだよね」

「そうだね。戻れなかったら売り払ってくれて構わない」

「どうしてそんな平気そうなの」


 レニーは首を傾げる。


「平気だから」

「だって、シガットは何度も冒険者に討伐依頼が出されて、それでも討伐されない男なんだよ」

「そりゃ初耳だ。まぁ、等級が低かったんじゃないかな。あとは油断だね」

「……油断?」

「モンスター退治をしてきた冒険者と、村人とか商人とか戦闘能力の低い相手をしてきた盗賊どっちが強いと思う」


 リディアは人差し指を顎に当てる。


「……冒険者?」

「そうだ。だから油断する。ちょこっと盗賊を追い払えた経験があって、モンスターに慣れてれば、育ったスキルツリーの差でどうにでもなる、と思う。思うが現実そんな甘くない」


 レニーはベッドの上に並べたローブと香水を指差す。


「こんな準備なんかしない」

「……レニーさんは、弱いの」


 歯に衣着せぬ物言いに思わず笑った。


「冒険者の基準で言うと一人前さ」

「じゃあなんで準備するの」

「キミの替え玉やるから。あと、この方が相手の油断を誘えるから」


 相手の油断しきったところに攻撃を仕掛けられる意味合いは大きい。

 モンスターと違い、盗賊は会話ができる。従って弱々しい演技をすれば、こちらをナメて、隙だらけになる。


 盗賊退治は嫌いではない。こんな自然な流れで奴らの根城に侵入できるのなら願ったり叶ったりだ。


「キミは明日生きられるんだ、気にせず寝ていい」

「でも、レニーさんが死ぬかもしれないじゃない。私の……せいで」


 泣き出しそうな表情で拳を握りしめ、胸に当てる。


「冒険者っていうのはそういうもんさ。それに賊を倒すのは得意でね」


 レニーは好戦的な笑みを浮かべ、リディアに言った。


「だからその優しさは他の人に向けるといい」




  ○●○●




 翌朝、レニーは村の入り口で立っていた。村人から譲ってもらった簡素な布の服から黒いローブを羽織り、フードを目深に被る。


 香水でわずかに花の匂いが自分から香るのに眉をひそめる。

 誤魔化すためとはいえ、あまり好きではない。

 後ろにはリディアの父親がいて、リディアとその母親は家で隠れていた。


 やがて遠くの方に影ができ、一団が姿を現す。


「やつらだ」


 レニーは人差し指を自分の顎に当てる。


 なるほど。身だしなみに気をつけてるわけではなさそうだが、腰に下げた武器などはしっかりとしていそうだ。ただの山賊であれば間に合わせのような質の悪い武器を使うことだろう。それか農具とか斧だ。


 しかし彼らはどれもこれも剣を持っていた。

 まともに扱えるかは別だが。


 一番先頭を歩いていた男が目の前までたどり着くと足を止めた。


「リディアってのはこいつか?」


 姿勢を低くして顔をのぞき込まれる。軽く握った両手を胸の前で合わせて、半歩ほど後ずさる。


「そ、そうだ。娘のリディアだ」


 手が伸ばされて、フードを外される。それから顎を掴まれてぐっと引き寄せられた。


「あ、あっ」


 なるべく弱々しい声を出しながら目を泳がせる。


「髪が短いようだが?」

「つい最近切ったんだ」

「ふぅん。まぁいい。やれ」


 男の後ろから二人出てくると両手を縄で縛られる。それからひとりに縄を引っ張られると両手の間から伸びた縄がピンと張った。


「よし行くぞ」


 縄を強く引かれ体が釣られて動く。

 どんどん村から離れていく。何度も振り返って村を確認する。


 ……よし。


「これからたっぷり可愛がってやるからな」


 縄を引っ張る男がいやらしい笑みを浮かべながら言う。肩を抱き寄せられる。


「ひっ」


 鳥肌が立つ。

 レニーは感情を押し殺しながら役目に徹した。


 少しの辛抱だ。

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