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冒険者とトマトソース

「今日はやけに嬉しそうにしてるけど、何かあった?」

「ううん。思い出してただけ」


 ジェックスとの喧嘩から数日後。

 レニーとフリジットはギルドとは離れた場所で昼食をとっていた。ちなみに提案してきたのはフリジットだ。ギルドだとジェックスに絡まれる可能性があるからだという。


「どう? ここのパスタも結構いいでしょ。トマトソース凄くおいしいの」

「うん、いいね。気に入った」


 ダークブラウンの円形テーブルに二人で向かい合って座っていた。全体的に色が暗めで明るすぎず、陽の光はしっかり入ってきている為、陰湿な感じではない。落ち着いた雰囲気が好印象だった。


「冒険者関連の人もいないし、話も気軽にできるね」

「あれからジェックスはどうだい」


 仕事の時間はほぼ全て一緒にいる。仕事後も受付嬢が使う寮まで送っていって、休日もなるべく共に過ごしていた。それでもレニーが全ての時間を共にできるわけではない。


「今のところ何にもないね。キミのおかげ」


 指をからめながら、フリジットは心底安心したように呟いた。


 喧嘩で打ち負かしてから、ジェックスがフリジットに声をかける回数はほぼなくなった。常にレニーが付き添っているのもあるが、フリジットを巡って争い、レニーが勝ったという噂が広まっていたからだ。


 新しくできる支援課の手伝いをしていることも、恋仲であることも周知されている。


 もっとも、受付嬢仲間には仮の関係であることはバレているらしいが。そもそも、受付嬢たちで相談した結果の依頼だったらしい。


「でも怖いからしばらくこの関係は続けさせてね」

「ま、解消したらすぐアピールするだろうし、いいんじゃないかな」


 パスタをフォークに巻いて食べる。口いっぱいにトマトソースの甘みが広がった。素材そのままの味が舌を楽しませる。


「意外と早く解決しそうで拍子抜けだなー。割とレニーくんと一緒なの苦痛じゃないし。君は大丈夫?」

「今のところ。飽きたら言うよ」

「うわープレッシャーかかる」


 言葉とは裏腹に楽しげな表情だった。


「まさか受付嬢になって付きまとわれるとはね。冒険者だとさほどしつこいのなかったんだけど。パーティー組んでたからなのかな」


 冒険者の恋愛事情を、レニーはあまり把握していない。ただ言えるのは依頼主と仲良くなって引退したり、パーティーメンバーでくっついたり、形は様々だ。ただ、パーティーメンバーで恋愛するとトラブルも増えるが。

 パーティーを跨いでの恋愛はほとんど知らない。やはり一緒にいる時間をつくりたいのだろう、いつの間にか同じパーティーになっていることはあった。

 カットサファイアで構成されたパーティーなど、声をかけづらいのではないだろうか。


「そういえば、どうして冒険者やめたんだい。カットサファイアなんて引く手数多だろうに」


 レニーが質問すると、フリジットは嬉しそうに頬を綻ばせる。


「お、私の事興味ある?」

「大体のことには興味あるよ」

「えーうそだぁ」

「それで、どうして受付嬢になったんだい」

「冒険者になりたてのころ、受付嬢の人がすごく親切にしてくれてね。私も、ベテランになったら受付嬢になって駆け出しや困っている冒険者を助けたいって思ったの。ちょー強い受付嬢ってかっこいいでしょ。支援課も、私が提案したんだ。ほら、カットサファイアだから発言力あるし、ギルマスも元パーティーメンバーだから要求通りやすいし」


 懐かしむように天井を見上げながら、フリジットは続けた。


「言い方は悪いかもしれないけど、ギルド職員って軽視されがちじゃない」

「否定はしない」

「でも私が働けば地位向上に役立てたりできないかなーって」

「……ここのギルドは冒険者の待遇が良い。支援課が始動すればさらに良くなるだろう。受付に女性が増え始めたのも、ギルマスが積極的に現場の人間の待遇を良くしようとしてるからだ」


 ギルドの運営の裁量はほとんどがギルドマスターに任される。税で売上の何割かは持っていかれる為、ギルドそのものの経営に余裕があることは少ない。受付の人数が少なかったり、報酬が少なかったり、弊害は様々だ。だが、このロゼアではほとんどない。


「支援課の仕事、元々は受付嬢やりながらキミが負担してたんだろう? 全部じゃないだろうけどさ」

「そうなの。だから今まで以上に力を入れられるし、仕事の負担も減る。ギルマスさまさまだね」

「フリジットが頑張ったからさ」


 冒険者、という職が指す通り、冒険者が一つの場所に留まる職業ではない。レニーは別のギルドで依頼をこなしてきた経験も多くある。その中で、ロゼアはトップクラスに質が良かった。


「頑張ったかいがあったよ。嬉しい」


 フリジットはほんのり顔を赤らめた。


「でも、レニーくんも地味に周りよく見てるんだね。私の名前覚えてなかったのに」

「名前を覚えるのが苦手でね」

「覚えてくれてると思ったんだけどなぁ。あのとき気づいてくれたし」

「あのとき?」

「何でもないよーだ」


 フリジットはいたずらをする子どものように舌を出す。

 何でもないなら深く聞かなくていいか。

 レニーは空になった皿を前に祈りを捧げ、フリジットの目を見る。


「ところでさ、提案なんだけど」

「うん」

「それぞれひとりの時間つくってみない」

「さっそくあきられた!?」


 今にも立ち上がりそうな勢いのフリジットに、レニーは苦笑する。


「ちょっと確認したいことがあるのさ」

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