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冒険者と思いつき

 依頼が終わる頃には夕方になっていた。ギルドまでポストを連れて帰ってくる。


「おかえりなさいませ、レニーさん」


 茶髪のツインテールの受付嬢に依頼の報告を済ませる。薬草の査定などはギルドに預けて他のギルド職員に任せる。


 護衛任務に関しては本人の報告書が必要だった。それを速やかに書き上げていたらしいポストは受付嬢にそのまま渡す。


「とても有意義な時間でした、ありがとうございます」


 報告手続きを済ませ、ポストが頭を下げてきた。レニーは首を振って否定する。


「ただの依頼だし。もしこれが野盗討伐なら護衛依頼受けなかったから」


 護衛は無論、守りながら戦わなければならない。大事な商品を運搬する必要がある商人や、貴族など護衛対象を守る必要があるのだ。


 襲われる危険性のある依頼にわざわざ連れて行く意味はないし、重要性もない。討伐というのは己が攻めに行くのだ。


 物資を運ぶわけでも守る対象が商人でもなし、わざわざリスクのある依頼で守る対象を引き連れていく人間がどこにいようか。


 その点採取依頼であれば戦いを避けられる場面が多いし、戦いとなってもグラファイトで対処可能な魔物がほとんどだ。依頼の取材、であればこういった依頼が限界であろう。


 守りながら戦う、というのは当たり前だが難しいのだ。人間はその場で思考を巡らせたとき護衛まで完璧にこなせるほど器用ではない。だからこそパーティーで行うほうが護衛は安全だ。


 レニーはソロでも護衛をしているが、守る対象から敵を離す選択肢も普段なら取れる。取材は間近でないと意味がないため、危険度が高い依頼での護衛は受けたくなかった。


「ふあぁ。それじゃ」

「あの、夕食はどちらで」


 レニーが別れようとすると、ポストが呼び止めてきた。無言で酒場の方を指差す。


「不躾なお願いですが、ご一緒しても……?」

「取材の続き?」

「正直いうとなるべく協力的な方と話ができるのが好ましいというか」


 レニーは顎に手を当てて考え込む。


 協力的な冒険者。

 依頼ではないので、得はあまりない。


「軽くなら奢ります」

「のった」


 金銭的に得があるなら話は別だ。

 酒場ロゼアに通じる扉を開き、一緒に酒場に入る。


 店員の案内で二人席に案内される。

 客はまばらだった。冒険者が騒ぎ始めるのは夜だ。


「レニー」


 静かな部屋に響く、鈴のような声。視線を向けるとルミナがいた。


「その女の人、誰」


 視線をポストに向けながらレニーに聞いてくる。


「やぁルミナ。彼女は記者だって。冒険者の本を書くために取材中なんだって。今日それ関係の依頼終わらせてきたところ」


 レニーが説明するとルミナは頭を軽くポストに下げる。


「ボク、ルミナ。ルビー冒険者」

「これはどうも。レニーさんに取材させていただいたポスト・トウカンと申します。お礼でお夕飯を、と」

「ボクも一緒にいていい?」


 ポストの視線がレニーに向けられる。瞳には好奇心がにじみ出ていた。


「質問攻めされるかもよ」

「がんばって答える」


 両手の拳を握りしめて胸の前に置くルミナ。レニーは頷いて他の空いている席から椅子を一脚持ってきた。


 先に注文を済ませて、ポストが話を始める。


「おふたりはどんな関係で」

「ソロ仲間」

「ギルド所属のソロ仲間同士」


 ルミナ、レニーと即答する。


「お二人でお仕事をするときも」

「ある。レニーと仕事するの、楽」


 ほうほう、と頷きながらポストはルミナに質問を続けていく。


 ギルド所属というのもあって、ギルドの宣伝にもなると思っているのか面倒くさがる様子もなく普通に答えていた。


 真面目なルミナのことだ。特にしつこく付きまとわれたりしなければ協力的なんだろう。


 言葉数は少ないがコミュニケーションが嫌いなわけではない。苦手なだけなのだ。慣れれば話しかけられるし、話しかけられれば応じる。


 それぞれのメニューが目の前に置かれる。レニーは海鮮パスタ、ルミナはハンバーグ、ポストは厚切りサンドイッチだった。

 ポストのサンドイッチはパンの部分が軽く焦げ目がつくくらいに焼かれていてチーズや肉、野菜が挟まれている。それが三枚ほど綺麗に並んでいた。


 飲み物は全員エールだった。

 それぞれが食べ始める。ルミナは表情に乏しいが、美味しいと感じているようだ。対照的にポストは頬を綻ばせて食事を楽しんでいる。


 レニーも静かにパスタを食べ始めた。

 海鮮の旨味が凝縮された汁が、麺に絡んで美味しかった。


「あぁ」


 レニーは思い出したように声を漏らす。そして、ポストの方を見た。


「タダで話を聞ける手段、あるかも」

「本当です!?」


 身を乗り出しそうなポストにレニーは告げた。


「ここで酔っ払いの相手、できる?」


 レニーが自分の考えを説明するとポストは好奇心に表情を輝かせて、胸を叩いた。


「やってみます!」

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