冒険者と悩み
「半端だから強い一撃がないのさ」
レニーが嘆くように呟く。
クーゲルは興味深げに肘を立てて顔を覗き込んでくる。魚料理は食べ終えていた。
「なら俺が教えてやろう。魔弾系の新たな魔法を。上位でもいいぞ」
親指を立て、己を強調するクーゲル。
魔法は始位、下位、中位、上位、特位の五つに分かれる。威力や効果の強さだけではなく魔法の難易度を示すものであり、冒険者で大半は中位まで使えれば上々といったところだ。
始位は村人でも使えるような火を起こす等単純なもの。下位は発動に手間のかからないマジックバレットのような戦闘でも使える魔法。中位、上位はそれよりも威力や規模等が単純に強くなっていたりする。
特位は儀式を必要としたり、特別な魔法が分類される。
大半の冒険者がトパーズまでと言われるこの冒険者界隈。一方で大半の魔法使いは中位の魔法使い止まりとなる。
メリースのように上位を連発できるのは、はっきり言って化け物レベルだ。
「上位って、オレ、マジックバレットとカースバレットしか使えないよ?」
レニーの使う魔法ではネガティブバインドやシャドーステップ、使わなくなったシャドードミネンスが中位にあたる。
つまり、攻撃手段で言えば下位の魔法のマジックバレットにカースバレットしかない。
中位ではバレットではなく、強魔弾という魔法がある。レッドロードが使っていたものだ。マジックバレットよりも弾が大きくなりやすく、また火力も高い。
レニーがマグナムの魔法を使わない理由はそこまで威力を求めていないこと、速度が遅くなることが大きな理由だった。
そして、エンチャントカートリッジに刻まれた属性攻撃は全て強魔弾系統のものだった。
魔力を通せば勝手に発動するし、早撃ちはできない。となれば、習得するだけ無駄なのである。下位だからといって敵に通じないわけではない。
なのだが、魔弾でもエンチャントカートリッジでも通じない相手となるとレニーは夜や洞窟などの影が広範囲に支配下に置ける場でしか相手にできない。影の尖兵によるバフと己をわざと追い詰めて狂性魔力で魔力を高め、エンチャントカートリッジをピンポイントで射撃する必要がある。
「何を教えるか、お前さんのスタイルを見極めて考えてやろう」
魔法をどう習得するか、それは発動方法の書かれた魔法紙や本をギルドや魔法店等で注文して取り寄せるか、人に直接教わるかが基本になる。
独学では限界がある為、教わる方が適切な魔法を覚えられたりする。何より、一枚きりの魔法紙でもそこそこの値段がするのだ、本になると相当になる。
従って魔法使い系は特に師弟関係が多いロールでもある。
「スタイル、か。魔弾の専門家に教われるのならこれ以上のことはないけど」
「代わりに、杖を造った錬金術師を紹介してくれ。紹介だけでいい」
無邪気な表情でクーゲルは手を合わせる。レニーのクロウ・マグナは魔弾に向いた杖だ。バレットウィザードのロールとあらばほしいだろう。
立てかけられた長杖を見る。
随分使い古されているようだ。魔物の素材は特殊なシートで自然治癒を促し、修復自体が可能だ。何度も繰り返しているとさすがに劣化してくる。
その劣化が、色のくすみや劣化割れという小さなヒビで一目でわかるほどだ。相当使い続け、使い込んだのだろう。
「その杖、随分馴染んでいそうだけど」
「あぁ。昔引退した鍛冶屋に造ってもらってな。メンテはできるんだが新規造形できるやつがいない。バレットウィザードっていってもよう、普通の杖使うのが一般的だからな」
だから、と。
クーゲルはレニーの杖に熱い視線を送る。
「そいつを見たときビビッと来たぜ。俺と同じやつがいたってな」
クーゲルの杖は稲妻のような折れ曲がりをした持ち手をしていた。どうやらレニーのように杖の先を前に向けるように持つための形状のようだった。恐らく折れ曲がっている真ん中を持ち、前腕に沿う形で持ち手が延びているのだろう。
レニーのように片手でマジックバレットを撃つためではなく、両手だろう。長さも、一般の魔法使いが持っているような足先から肩辺りまでの長さを基準につくられている。
「で、スタイルってどう見るんだ」
「決まってる。依頼さ」
クーゲルは酒を煽り、ジョッキをテーブルに置くと、人差し指をビシッとレニーに向けた。




