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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
ワイルドハントの話
64/343

冒険者と酔っ払い

「スピー」


 酒をいつもの三倍のスピードで飲んでいたルミナはテーブルに伏せてもう眠っていた。レニーはまた解散しはじめのころに起こすかなと思いながら、頬杖をついて適当につまみを食べていた。


 さっぱりしたマリネの味付けと魚のつるんとした白身肉の感触が食べやすく、気が付いたら二杯目を頼んでいた。


 美味い。


「やぁやぁ、レニーくん。楽しめてるかな?」


 赤ら顔でフリジットがやってきた。ジョッキを両手に持って、テーブルに置く。やたら上機嫌でイスを持ってくるとレニーの隣に座った。


「ふふん」

「キミは楽しそうだね」

「レニーくんは飲まないの? ほれぇ」


 片方のジョッキをレニーに押し付けるようにおいてくる。


「飲みな、飲みな! 介抱してあげるから思いっきりさぁ」

「逆の末路しか見えないんだけど」


 ジョッキの水面に視線を落とす。レニーに差し出されたほうは量が減っていた。


「自分で頼むからキミのはキミで飲みな」

「私の酒が飲めないってぇ?」

「口付けてるでしょこのジョッキ」


 レニーが指摘するとフリジットはひったくるようにジョッキを取ると傾けた。飲みきって、口元を拭う。


「ペッジさぁーん! レニーくんのとこにキンッキンに冷えたエールお願いしまぁーす!」


 店員がジョッキを置いてくれ、空になった食器を下げてくれる。


「ルミナさんもレニーくんも大手柄だよ」

「役に立ってないけどね」


 デュラハンの討伐程度で大量のアンデットを相手にしながらレプリカント・ドラゴンゾンビを倒しきったルミナほどではない。ノアのようにアンデットを葬りながらリッチに一太刀浴びせたわけでも、メリースのようにリッチを倒したわけでもない。貢献度としては大したものではない。


「あのねぇ、レニーくん。ワイルドハントの中で生き残れるだけでも凄いんだから! トパーズ冒険者なら死を覚悟するレベルなんだからね」

「他の三人が強いだけさ」

「冷めてるぅー! レニーくん冷めてるぅ」

「よく言われる」


 ルミナもノアもメリースも英雄になれるような強い冒険者だ。レニーは違う。カットルビーに上がったからといってそれは変わらない。

 賞金首も、ワイルドハントも一人では到底立ち向かえるものではなかった。

 じっとフリジットを見る。

 カットサファイア級。誰よりも上の存在で、レニーからすれば雲の上の存在、のようなものだ。


「どうしたの、私の顔何かついてる?」


 顔を赤らめながら胸を庇うように手を置く、フリジット。


「いいや。何でもない」


 酒を呷る。


「店員さん、おかわり」


 追加されたジョッキの半分ほどを飲んで一息つく。


「レニー」


 声をかけられて目を向けると、メリースが両腕を組んで立っていた。


「最後の一撃、助かったわ。一応礼を言っておくわね。それじゃ」


 メリースはそれだけでいうと、立ち去っていった。フリジットは嬉しそうにレニーの腕をひじでつく。


「ちゃんと役に立ってるじゃない。もっと自分に自信持ちなよ」


 レニーは呆けた状態でメリースの立ち去った先を見ていた。今まで対抗意識を燃やされたことはあっても礼を言われたことはなかったからだ。

 それが意外だった。


「これから楽しみだねぇ。ワイルドハントを退けたメンバーの中にギルド所属が二人いるんだもん。きっと冒険者も今以上に増えるし、宣伝効果抜群だよ」


 だからありがとうね、とフリジットがウィンクした。




○●○●




 頭が痛い。

 なんかフラフラする。夜風に頬を叩かれながら朦朧とする意識の中で、レニーは視線をこらした。

 広場だ。


 夜中のせいか冒険者以外は集まっていない。目の前には空間をある程度確保してメリースが立っている。


 顔が真っ赤だ。

 というかレニーもメリースも互いに千鳥足だった。


 飲みすぎたか?

 額を抑えながら、レニーは記憶を辿ってみた。


 あぁ、そうだ。

 テーブルにジョッキを叩きつけられながら早撃ちの勝負をしろと言われたんだった。


 レニーとメリースの中間にはノアとフリジットがいる。フリジットは赤ら顔のままニコニコしていて、ノアはいつも通りだった。酔ってないのはノアだけらしい。


「準備はいいですかー!」


 やたらテンション高めで呂律の回ってないフリジットの声が響く。周りの冒険者たちは賭けを終えたのか、「メリース頼んだぞ」とか「レニー勝てよ」とか好き勝手に言っている。


 腰に何度も手を当てて、杖の位置を確認する。

 ここじゃない。確かここ。あ、間違えた、ここか。


 パンパンパンと腰を何度も叩き、最終的に杖にたどり着く。


 勝てる自信が全くわかない。

 というか意識が飛びそうだ。


 とてつもなく眠い。


「いつでも来いってのよ!」


 体を左右に揺らしながらメリースがフワッとした口調で言う。抑揚がぐちゃぐちゃで最後には裏声になっていた。


「レニーくんは!?」


 フリジットに聞かれ、なんとか頷く。


「よしじゃあ行くぞ」


 ノアがコインを弾いてそれを見る。

 不思議なものでコインが宙を舞った瞬間に、急激に集中力がコインに注がれた。目線でコインの回転数を把握し、落ちる時間を予測する。


 そして地面にコインが落ちた瞬間、メリースが魔弾を撃ってきた。

 レニーももう魔弾を撃ち終わっている。


 互いにふらつき、魔弾を撃った瞬間に倒れた。


 魔法の相殺された爆発音のようなものが周りに響く。


 冷たい地面に横たわりながら夜空を見上げた。


 あー星が綺麗だなぁ。


 なんてぼんやりと考える。


「どうよぉお!」


 メリースが大声を張り上げて勝敗を確認する。


「同時だね」

「同時ですね」


 周りの冒険者たちが盛り上がり、再度勝負を求めるコールを始める。


「やったぁ! 並んだわよ! さぁ、次こそは勝つんだから」


 レニーは仰向けから横に体の向きを変え、メリースの方を見る。

 変な方向を見ながら目を輝かせて明後日の方向へ語りかけているメリースの姿があった。


 あぁ、ダメだわ。


「無理」


 手を挙げてひらひら振る。それで精一杯だった。


「誰か水ぶっかけるか、飲ませて」


 手が落ちる。


「ノア、私勝つから見ててね!」

「メリース、それ俺じゃなくて噴水だから。あー、解散解散! 酒場戻るよー!」


 ノアが呆れたように大声を上げる。

 これほど頼りになる男が今いるだろうか。


「レニーくんは私が連れてってあげるね……ヒック」


 フリジットに片手で持ち上げられて担がれる。

 情けない気もするが、酒場で水を飲めれば落ち着けるだろう。素直に有難い。


 喧騒は終わりを見せず、冒険者たちの夜はまだまだ止まない。


 空に浮かぶ三日月が今日を笑っているようだった。

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