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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:二号店の話
342/343

冒険者とドレス

 たどり着いたのは、エレガレという店だった。デザインの洗練されたドレスやスーツが展示されており、レニーとは全く縁のなさそうな場所だった。


「こちら、貴族向けのパーティードレスやスーツを扱っているエレガレでございます」


 手で店を示しながら、フリジットは自慢げに言う。


「……ここに服作ってもらうの? 資金足りる?」

「そこはお店側のご厚意でして、材料費控えめで格安でやっていただけます」


 それでも値は張りそうだが、フリジットの様子を見るに心配するほどではないのだろう。ルミナの視線はドレスに向けられている。

 フリジットは扉に手をかけ、店の中に入っていく。ルミナもレニーも続いて入った。


「いらっしゃいませ」


 笑顔で女性で迎えてくれる。落ち着いた雰囲気の女性であった。


「ドロレシア。今日はよろしくね」

「待ってたわよフリジット。任されたわ」


 どうやらフリジットの知り合いらしかった。


「こちら店主のドロレシア。で、こっちがカットサファイア級の冒険者ルミナさんとルビー級のレニーくん」


 ドロレシアは優雅に頭を下げる。ルミナもレニーも同じように返した。


「大物連れてきたわね」

「ふふん、だっていいでしょ?」

「そうね。ルミナ様はとびきりの美人だし、レニー様も中々……」


 フリジットとドロレシアの会話を聞きながら、店内を見る。正面にカウンター、両サイドにドレスがいくつか並べられている。店自体はそこまで広くない。カウンター横に、男性用の試着室、女性用の試着室と左右に扉がある。


「では早速採寸しましょうか。フリジットとルミナ様からで」

「はーい」


 フリジットが手をあげ、ルミナはコクリと頷く。


「レニー様は少し待っていてくださいますか」

「わかりました」


 無論、先に自分をやれと言うつもりなどない。女性の試着室にフリジットとルミナが案内され、店にはレニーだけになる。


 カウンターに呼び鈴が置かれているので、客が来たらそれを鳴らすのだろう。


 飾られているドレスやスーツを眺めるくらいしかやることがない。レニー自身、ファッションに関してはさほど、である。


 他人を騙すために格好を変えることはあれど、基本機能性を重視する。とはいえ、見ている分には良いなと感じられることもある。


 とはいえ、衣服を眺めて時間を潰せるほど種類があるわけでも、レニーの造詣が深いわけではない。どれも綺麗な服だな、と感心する程度である。


 そのため、レニーはただ待つしかしなかった。




○●○●




 採寸だけにしては時間がかかるな、とレニーが疑問に思ったころ、試着室の扉が開く音がした。


「おまたせー」


 フリジットの声がして、目線をドレスから試着室の方に向ける。


「わりと時間かかっ……」


 レニーはそこまで言って、黙り込んでしまった。


 なぜなら、フリジットもルミナもドレスを着ていたからだ。

 フリジットは落ち着いた雰囲気の紺色のドレスを着ていた。普段の明るくて若々しい雰囲気から、大人らしくシックな雰囲気を纏っている。肩周りは透けのある薄い生地を使っているようで肌が見えているが花の刺繍が施されているのでそこまで目立たない。

 胸下あたりで生地が変わっているのか、そこが少し締まっているようだが、ドレスの裾まで緩やかなでボディラインを強調しないデザインをしていた。


「どうですか、待った甲斐ありましたか」

「……うん。綺麗だ、ふたりとも」


 レニーはそう返すのが精一杯だった。レニーの言葉を受けて、ルミナは顔を真っ赤にして俯く。


 ルミナの方は淡い緑のドレスだった。スカート部分に花の刺繍があり、膨らみをもたせているようだった。全体的に柔らかい印象を受ける。普段よりも体のラインがはっきりわかるためか、控えめのデザインでありつつもルミナのスタイルの良さが際立つドレスになっていた。


 ふたりとも、じっと眺めていたいくらい、似合っていた。


 あまりジロジロ見るものではないのかもしれないが。


「うん、ふたりともとても良いですね。眼福というものです」


 満足げにドロレシアが頷く。


「レニー様もそう思うでしょう?」

「はい。とても」


 ルミナは恥ずかしいのかフリジットに寄る。フリジットの方は誇らしげに胸を張った。


「レニーくんもスーツ試着してごらん。せっかくこういう店に着たんだからちょっとは雰囲気楽しまないとね」

「オレは別に」

「見たいよね、ルミナさん?」


 フリジットはルミナに顔を向けて、同意を求める。ルミナは上目がちにレニーを見た。


「……うん、見たい」


 レニーは頭の後ろをかく。


「あー、お願いしても? 買うわけじゃないんで迷惑じゃなければ」


 ドロレシアは笑顔で頷いた。


「もちろん。服を着て確認する、というのも大事なことです。試着室へどうぞ」


 ドロレシアに案内され、レニーは試着室に入る。


 もう少し見ていたかったというのは想いは、呑み込んでおく。




○●○●




 まずは採寸を受ける。

 巻き尺を使って肩や腕の長さ、胸周りや腰まわりといった部分の大きさを測られる。


「……スタイル良いですね」

「どうも」


 スキルで性別偽造があるため、体型を維持しやすいというのもある。性別を誤認させるには体型も重要になってくるからか、食生活が極端に崩れたりしない限りは問題ない。


「冒険者にしては細身ですけど、前衛職じゃなかったりするんですか」

「前衛だったりそうじゃなかったり。ソロなので」

「ルミナ様もソロでしたね。少し体に触れても」

「構いません」


 肩を揉まれたり、手首を掴んで持ち上げられたりする。


「なるほど。ありがとうございます」


 ドロレシアはレニーから離れると試着室の奥に向かっていった。そこには衣類がかけられているスペースがある。


 そこからスーツの一式を持ってきた。レニーの近くにあった台に順番にのせていく。


「ではこれに着替えてください。着る順番は上から順々の方が楽です」

「はぁ……わかりました」

「わからないことがあればおっしゃってくださいね。では、失礼します」


 レニーの目の前に仕切りが広げられる。仕切りの先で待機している、ということなのだろう。

 衣服を脱ぐ。元々ラフな格好であったために冒険者の装備のように手間取ることはない。レニーの装備は比較的脱ぎ着は容易なのだが。台の空いているスペースに自分の衣類を置き、スーツの一式を着ていく。

 白いワイシャツに黒いベスト、ダークグレーのズボンとジャケットといったセットだった。ベルトをきつめに締め、見かけだけの紫色のネクタイを装着する。首に輪をかけるだけである程度締まり、結ぶ必要が全くなかった。苦しければ少し引いてみると緩む。


「やっぱ動きづらいな」


 腕を上げたりして感触を確かめる。ともかくジャケットが重苦しい感じがして苦手であった。


 仕切りを開ける。


 ドロレシアはレニーに振り返り、笑みを浮かべる。


「とてもお似合いですよ。おふたりに見せに行きましょうか」

「はぁ……」


 面白いものなどないだろう、と思いつつ試着室を出る。


「おまたせ」


 談笑していたのかドレスのふたりがレニーに振り返る。


 そして固まった。


「……え」


 すすっと近づいたフリジットはレニーの格好をまじまじと見る。


「なんだい……?」

「レニーくん、こういうのもイケるんだ。普段ゆるい雰囲気だから全然想像してなかったけど。うーん……髪とかセットしたい……」

「それは褒めてるのかい?」

「褒めてる、むちゃくちゃ褒めてる」


 ほう……と声を漏らしながらあちこち見られる。


 ふとルミナに目を向ける。なぜか驚かれて目をそらされた。


「その……カッコイイ……」

「ありがと」


 よくわからないがふたりの反応が悪くなさそうなので良しとしよう。




○●○●




 元の服に戻り、店を出る。


「じゃ、当日よろしくぅ」

「任された」


 ドロレシアが胸を叩くようなしぐさをする。

 フリジットが手を振りながら離れたのでレニーも軽く頭を下げてから店を後にする。


「んー、ふたりともこの後予定ある?」


 背伸びをしながらフリジットが聞いてくる。


「ないよ」

「ない」

「じゃあ飲みに行こうよ」

「一応仕事中なんじゃないの」


 フリジットは上機嫌に指を振る。


「それがー今日はこれで終わりなんだなぁ、直帰というやつです」

「ふーん。じゃあ行きますか」

「この間のお店、おいしかった」

「ではそこにしましょう! レッツゴー」


 実際の仮装はどんなものになるのだろうか。


 そんなことを思いながらも、足は店に向かっていった。

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