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冒険者とプロミネンス

 フリジットは深呼吸をしながら右拳に左手を添える。


 全身から炎が湧き上がり、そして右拳に集中していく。


 いつか見た魔法に似ていた。


 過去に見たときは今ほど装備が整っていなかった。しかし威力が破格であったのをレニーは覚えている。


 今の装備で撃てば、どれほどの威力になるのか。


「──レニーくん、キミは力を抑えすぎだ」


 唐突にドレマに言われる。


「キミはたぶんあのパズズに太刀打ちできないと思ってるんじゃないかな」

「……実際そうでしょ」


 パズズのパワーは桁違いだ。フリジットのように真正面から受けられれば話は別だが、レニーの場合はかすっても終わりだろう。加えてあれだけフリジットとやり合えている。タフさは言うまでもない。


「でも僕からすれば君でも十分対応できると思うよ。僕やフリジットほどじゃないけどね」


 パズズは羽を激しく動かしながら真上に飛ぶ。黒雲を突き抜け、遥か上空へ。


「パズズの武器は風を操る魔法と脚だ。あの感じは蹴りが来るはず。普通なら地形すら変えてしまうほどの一撃になる。レニーくんなら撃たせない、が対策になるかな」

「そうだね」

「ま、それが一番さ。でもたまには撃たれても()いと思わないと、抑え込むのがクセになっちゃうぞ」

「……それは強いから言える理屈だ」


 相手を正面から迎え撃つから強さがあるから。勇気と実力があるから、それができるのだ。レニーにはない。自分の選択肢を増やして相手の選択肢を潰せるか、それがレニーの戦い方だ。


 フリジットの右拳が太陽のように光り輝く。魔法で迎え撃つつもりなのだろう。

 拳を構えて上空を睨む。


「他人の可能性を信じてるなら自分の可能性も信じるといいよ。これは天才だからじゃなく人生の先輩としてのアドバイスだ」

「……どうも」


 フリジットは何かを確認すると、拳を地面を抉るように振るう。そうして全身を使ったアッパーを放った。


 それが急降下して落ちてきたパズズとぶつかる。


「──プロミネンス」


 あるのは爆発と閃光。


 ドレマの結界が機能しているのか、激しすぎる閃光に目がやられるほどではなく、爆音に鼓膜がイカれることもない。


 爆発が晴れると、黒焦げになったパズズと、無傷のフリジットがいた。


「ふぅー」


 倒れるパズズ。どう考えても生きてはいないだろう。口からも煙が出ている。原形があるのが不思議なくらいだ。


「勝ちぃ!」


 上半身をこちらに向けてフリジットが拳を振り上げた。




○●○●




 フリジットは酒場で飲んでいた。ドレマと二人で、だ。

 ローカスト・プレイグは無事消滅し、ギルドには感謝状が、フリジットたちには多額の報酬が支払われた。

 

「いやぁ、久々に依頼をやれて楽しかったよ。やっぱりフリジットは強いなぁ」


 ほろ酔いのドレマは上機嫌に言う。


「ローカスト・プレイグじゃなければもっと良かったんだけどなー」


 フリジットはフルーツビールを一口飲む。

 レニーはこの場にはいない。というか、ドレマに誘われたので飲んでいるのだ。ドレマが呼んでいないのならレニーを呼ぶ理由はない。


 久々にパーティーメンバーと飲むのも良い。


「ドレマ。どうしてレニーくんを依頼に参加させたの?」


 フリジットはずっと疑問だったことを口にした。ドレマであればいくらでも協力者を頼めただろう。そうでなくとも一人でもどうにかできたであろうし、レニーと縁が深いわけでもない。


「理由は色々あるよ? デュアルマジックをやるには魔力を同調させなきゃいけない。相性もあるし、メリースちゃんかレニーくんの二択になるわけ。メリースちゃんは合わせてくれるし合わせやすいし、レニーくんは質が似てるから合わせやすい」

「魔力の質、似てるんだ」

「そーそー。初めて会ったときに感じてね。相性がいいなと。で、レニーくんの魔力を使わせてもらってパズズ相手の魔力を温存しようとしたわけ。普通に強いから余力は残しておきたいしね」

「なるほど」

「あとは、見てもらおうと思ってね」

「見てもらうって、それはまたどうして」

「接した時間は短いけど、そこそこ彼のこと気に入っててね」


 ドレマはフォークで肉を取ると、それを食べる。おいしそうに頬をほころばせた。


「スキル失くなったでしょ?」

「そうだね」


 スカハ関連のスキル。レニーが持っていた、スカハから受け取ったスキル。それがある日を境に失くなった。


「取り戻せはしないけど、代わりを得るきっかけになればってね。刺激って大事だから」

「そっか。ありがとう、気にかけてくれて」

「僕が気になっただけさ」


 ドレマは酒を煽り、追加を注文した。

 レニーは着実に強くなれてはいる。本人は特に英雄になりたいだとかそういうタイプではない。ただ、冒険者はいつ死んでもおかしくはない。何かしら強くなれるきっかけは多いほうがいいだろう。


「ところでさ、フリジットは彼が好みなの?」

「何が」

「レニーくん、好きなんでしょ」

「そりゃ……うん」

「へぇ、あのフリジットが恋愛をする時代になったのか〜」

「なんか言い方が大げさなんですけど」

「きっかけとか、僕にも教えてよ。知りたいなぁ」


 好奇心に満ちた目が向けられる。


 フリジットは酒を一気に飲み干すと、勢いに任せて喋ることにした。久々の交流だ、たまにはいいだろう。


 酔えば恥ずかしくない。


 …………たぶん。

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