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冒険者とパズズ

 レニーは思考が停止した。

 明らかにレニーではできない現象が目の前に起こったからだ。


 バッタは黒く染まり、そして燃えて消失していく。

 嵐が闇に呑まれ、崩壊していく姿は、この世の終わりのようであった。レニーのルナ・イクリプスではこんなにも大量の相手を対象にはできない。全てドレマの魔法あってのことだ。


「……やば」


 思わずそう呟いてしまっていた。


「ほら簡単でしょ?」


 ドレマが隣にやってきて胸を張る。崩壊していく嵐を眺めながら、レニーは呆然とするしかなかった。


「それが言えるのはあなただけだと思う」

「あっはは! 大天才だからね」

「それにしたって、スケールが大きすぎるわよ。どうやったらこうなるんだか」


 フリジットがドレマの隣に来る。腰に手を当てて、丘の先を見ていた。


「レニーくんの魔力ほとんど使っちゃったけどね。いやぁ、さすがだね。影の掌握めっちゃ楽だったよ」


 ドレマの言う通り、レニーの魔力は残っていなかった。まぁ、レニーの魔力を全て使ってもあの大群は処理しきれないため、有用なら使ってくれて構わないのだが。


「ま、でも全滅とまではいかなかったから……」


 ドレマはフリジットとレニーに触れる。そして二人の体に、淡い黄色の光が宿る。


「フリジットに後は任せようかな」

「これは?」

「加護の魔法だね。ここら一帯に雷落とすから。雷除け」


 レニーの疑問にドレマが笑顔に答える。そして後ろにさがっていった。


「レニーくん、下がってもらっていい? 危ないかもしれないから」


 フリジットが拳を突き合わせながら言う。


「あぁ、うん」


 戸惑いながらもレニーは下がることにした。


「フリジット」

「なぁに」

「気を付けて」


 フリジットは一瞬呆けた後、強く頷いた。


「任せなさい」


 できることはもうほとんどない。ドレマと共に距離を取る。ドレマについていくと、かなりフリジットから離れる形となった。視界の奥に小さくなったフリジットがいる。


 腕を組んで、何かを待っているような体勢だった。いつの間にか戦闘ができるような位置取りになっている。


 ドレマのおかげで大群のほとんど倒せたといっても、強力な部類の敵はまだ残っているだろう。


 何よりパズズとやらはドレマの残滅する対象にはなかったようだった。この現象を引き起こしている元凶であろうし、先程の攻撃は通じない類なのだろう。


 やがて、闇が晴れる。嵐は闇が攫っていったようだった。

 暗雲が太陽を隠す。

 風が起こり、()()が響く。何かの羽音ではない、風の音がそうなっている。耳障りだ。


 そして巨大なバッタの魔物数匹を引き連れて、それはやってきた。

 人型でありながらも、拳だけで人を潰せそうな巨体。獅子のような顔、頭頂部に生えた角。サソリのような尾を持ち、そして、バッタのような羽を広げていた。


「あれが、パズズだよ」


 ドレマがそれを指差し、教えてくれた。


 パズズはこちらを確認すると大きく口を開け、地響きのような咆哮をあげる。空気が振動し、強風がレニーたちを襲った。フリジットはびくともせず、ドレマはレニーごと魔法による結界で防いでくれる。


「――ライトニングジャッチメント」


 ドレマが魔法を名唱すると、雷がパズズたちに落ちる。周りのバッタの魔物はそれによって落とされるが、パズズは急降下し、雷を避けながらフリジットに拳を叩きつけてきた。


 フリジットは両腕を立ててパズズの拳を受ける。装備から蒸気が吹き出し、攻撃を完全に受けた。


 パズズは攻撃を防がれたことなど意に介さず、連続して拳を叩きつける。フリジットは何度か防御を行い、大振りな叩きつけに合わせて拳を振り上げた。


 大きな衝撃音が響く。


 パズズのほうが拳を弾き上げられ、怯んだ。その背中に雷が落ちる。


 パズズに効いた様子はなく、羽を大きく広げ、咆哮をあげる。風がレニーたちを囲むように巻き起こり、結界となる。雷が落ちるが、パズズに届かない。


「ちぇ、もう対策されちった。まぁ、残党処理するからいいけど」

「……あいつ強いな」


 もしもレニーが戦うとなれば、まともにやり合うのは難しいだろう。


「パズズはルビー級パーティーでも撃退して休眠させられれば御の字だからね」

「フリジットは平気なの?」

「平気だよ。レニーくんの魔力のおかげで僕も魔力の残量に余裕あるし、サポートできるから。ダメそうならサポートいれるさ。それに――」


 パズズは両拳を振り上げて叩きつける。フリジットはバックステップで避けてみせると、間髪入れずに飛び上がった。叩きつけられた拳を踏み台にし、パズズの眼前に迫る。


 そして殴った。


「――殴り合いでフリジットが負けるとこ、見たことないしね」


 バランスを崩し、後ろによろめくパズズ。


 フリジットは着地し、構え直す。追撃を警戒したパズズがサソリのような尾をフリジットに飛ばしていた。人の腹部を刺し貫けそうなほど凶悪なものであったが、フリジットは踊るようなターンで避ける。


 体勢を立て直したパズズに対して、フリジットは手招きをする。


 パズズは拳に風を纏わせて、フリジットに叩きつける。フリジットは腰を深く落とし、右拳を振り上げた。


「ランドスパウト!」


 フリジットが魔法を発動させる。拳の威力に合わせて風を巻き起こす魔法。

 フリジットも、パズズも拳に寄って竜巻を起こした。両者の間に二つの竜巻が起こり、互いを食い合う。パズズはその中を突っ切ってフリジットに噛みついてきた。


 フリジットはその牙を掴んで、止める。


「……そーれっ!」


 首を捻り、その巨体をひっくり返す。パズズはその力に抵抗せずに転がると、四肢を地につけた。


 パズズがフリジットを睨む。


 フリジットはその場でステップを刻みながら拳を顔に近づける。


「……ふー」


 深く息を吐く。


 しばらく睨み合いが続いたが、先に動いたのはパズズだった。

 距離を取り、大きく叫ぶ。


 風がパズズに集まり出す。


 何か大技をしてくるのだろうか。

 レニーはドレマをちらりと見る。余裕そうに戦闘を眺めていた。フリジットは構えたまま、パズズの動きを見ている。


 レニーであれば大技は中断させたいところだが、戦っているフリジットが考えなしに様子を見ているということはないだろう。


 パズズは風を纏い、体が活性化しているのか角や羽、体の筋などが青く光り始める。中でも足が光り輝くほどで風もそこに最も集中しているようだった。


「ドレマ! 聞くけど結界は!?」


 振り返らず、フリジットが大声で聞く。


「大丈夫ー! 思い切りやっちゃっていいよ! 天変地異でも起こらない限り安全だからー!」


 ドレマも大声で返す。


 ……なんというか次元が違った。


「ようし、じゃあぶっ放すぞー!」


 フリジットは腕を回しながら元気よく言った。

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