冒険者と対応希望
レニーは酒場にて自分の冒険者カードを眺める。
すっかり見慣れた赤い冒険者カードには今まで空白であった項目に文言が追加されていた。
引き取り手:ギルドロゼアを希望
その一文だけであった。それでも数年空白であった欄が埋まったということに少し違和感が残る。
「何、見てるの?」
「……ルミナ」
声をかけてきたのはルミナだった。レニーと同じソロの冒険者だ。レニーの向かいの席に手をのせる。
「座っても、いい?」
「どうぞ」
ルミナはこくりと頷くと向かいの席に座る。
「死亡後の希望っていうのを出したんだ。遺体の引き取り手にロゼアを指定しただけだけど」
「……希望、出してなかった、の?」
「あぁ、うん。身寄りもないし」
レニーがそう言うと、なぜかルミナはむすっとした。
「お墓決めてないなら国へ連れてく」
「エルフの国? 場違いじゃないかな」
「女王さまは喜ぶ」
会ったことのある人物を出されて、レニーは笑うしかなかった。
「随分と買われたもんだ」
「ルビー冒険者。当たり前」
「そうかな」
「そう」
断言されると返す言葉もない。
「希望決めたの、どういう流れ?」
「スキルを研究してるっていう人が来て。死後、体を解剖させてほしいって言われたんだ。断ったんだけど」
「うん。断る、大事」
「解剖の件、受けるかどうか迷ってるときにフリジットに声かけられてね。話したらここを引き取り先にすれば、って言われて、そうするかって」
「……そう」
「ま、墓の場所とかは全然なんだけどね。死んだら適当にやってくれるだなんてありがたいことだ」
「レニー。前に葬式の話、した」
言われてレニーは過去を思い出す。死にかけたときにルミナにそんな話をした記憶があった。
「笑う人も、泣く人も、いろんな人が必要だって」
「例え話ね」
「いっぱい泣く」
ルミナは恥ずかしげもなく、至って真剣にレニーを見た。
「いっぱい泣きたいから。顔、ちゃんと見させてほしい」
「……ルミナ」
「死なないのが一番。けど、何もないのは、もっと寂しいから。だからレニー、希望出して良かった」
「……死なないよう気をつけます」
「レニー、無茶するから。心配」
拗ねたように呟くルミナ。それを見て、レニーは笑った。
「長生きできるようがんばるよ。ルミナにもっと笑ってほしいからね」
レニーがそう言うと、ルミナは微笑んだ。
「うん、がんばって」
覚醒。
そんな胡乱なものに頼るつもりはない。
ただ。
あまり心配させないためにも、悲しませないためにも。
少しでも強くあらねば、と。
ソロ冒険者レニーはそう思った。




