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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:本部調査の話
325/343

冒険者と本部員

 その日、ギルドは慌ただしくなっていた。かくいうレニーも、その慌ただしさの中にいる。


「それで支援課の活動というのは基本的にギルド依頼のものを優先的に受けるという形でやっていると」

「そうなりますね」


 酒場にて。レニーはメガネをかけた女性と会話をしていた。格式高いローブに、ベレー帽を被った女性は、ギルド「本部」の職員だ。


 冒険者ギルドの形は多岐にわたる。レニーの所属するロゼアは、レニーにとっての活動拠点であり、ロゼア職員にとって本拠地といえる場所である。しかしそのギルドも「本部」に認可されたためにギルドとして運営される。冒険者は国を跨ぐ仕事である。それを仕事として今の形に整えていった場所が本部だ。


 二年に一度程度のペースで本部が調査にやってくる。ギルドの体制や他との提携具合などの確認、冒険者のギルドに対する満足度など、現状の確認がほとんどだ。


 あまりに問題があれば指導が入る。これはギルド側の問題に対するものであって冒険者側の問題に対する指導ではない。

 つまり冒険者側の問題は現地か冒険者同士でどうにかするしかない。


「ギルド所属とのことですが、ギルドロゼアに何か不満は」

「ないですね。良くしてもらってます」


 相手の女性はマジマジとレニーの表情を確認してくる。


 調査に嘘が含まれていないか、相手側は慎重に言葉を読み取ってくる。メモを細かく取り、何度も頷く女性。


 数十年前は嘘を判定できるマジックアイテムを使用していたらしいが、必要以上に職員に威圧感を与えるものであった。使用する側もそれなりの技術が必要であることと、嘘の判定をすり抜けて、最初から最後まで嘘で通した冒険者がいたので使用を中止したらしい。


 そのため、多数の証言から矛盾点が出てきたり、明らかにおかしい様子でない限り、追及されることはなくなった。


 ……あんなもの、無くて正解だと思う。


「フムフム……以前カルキスに滞在していましたがなぜこちらに」

「環境ですね。保護した子どもをどこに預けるかで探し回ったらここに落ち着いたんです」

「子ども……? ギルドで対応できなかったので?」

「ひどく怯えていたので。親もわからないし、仕方なく」

「ほう」


 メモが進められる。


「ギルドに押し付けられたというわけでは」

「ないですね」


 即答する。


 女性はメガネを取ってため息を吐いた。


「問題なさそうですね。では調査は以上になります。ご協力ありがとうございました」


 メガネをかけ直し、頭を下げる女性に、レニーも頭を下げた。


「それにしても」


 女性は周りを見た。


「さすがと言いますか、随分環境がよろしいようで。羨ましい限りです」

「疲れたのなら甘いものでも食べては?」


 女性は自分の肩を揉みながら首を振る。


「いえいえ、仕事がまだあるので」

「調査中ということでどうです?」


 レニーが提案すると、女性は口を開けたまま固まった。


「……そうしますか」


 周りを確認してから女性は呟いた。


「あなたも何か頼んで頂けると怪しまれないで済むのですけど」

「喉が乾いたので、飲み物でも頼みますよ」

「では、調査中のオトモということで。飲食は特に禁止されていませんから」


 女性がフッと微笑む姿を確認しながら、レニーは店員を呼んだ。




○●○●




 女性はチョコレートをつつきながら、アイスティーを楽しんでいた。レニーもゆっくりアイスティーを飲んでいる。

 息が詰まるようであった女性の雰囲気もいくらか柔らかくなっている。


 雑談を交わすでもなくそれぞれが休憩をしている、という感じであった。


 そんな二人の間に影ができる。


「調査中失礼」


 声をかけられる。視線を向けると、女性の眉が若干下がった。

 男性だった。黒髪に、整えた髭、身だしなみには気をつけているらしい。スーツをキチッと着こなし、姿勢はひどく正しい。


「レニー・ユーアーンというのは彼で?」


 男性がレニーを手で示し、女性が頷く。


「えぇ、彼がそうです」


 男性はレニーと女性を交互に見る。テーブルに並べられたものを確認し、口を開く。


「……随分くつろいでいるな」

「えぇ。彼、話しやすいので」

「問題がなければすぐ終わる調査のはずだが」

「あら。私の仕事に何か不満でも? ギルドの環境調査ですもの。こうした時間も必要ですよ」


 休憩であることを怪しまれないか気にしていた割に、毅然とした態度で返す女性。中々気が強いのかもしれない。男性は言い返す言葉を持たないのか短くため息を吐いた。肩を上げて、レニーを手で示す。


「彼はいつ頃自由になるので? 別口の研究に協力してもらいたいのだが」

「研究?」


 レニーの問いに男性は頷く。


「スキルツリーの研究だ」


 それは、完全に予想外の言葉であった。

 女性は優雅にティーカップを置く。


「十分ほどお時間を」


 女性の返答に、男性は腑に落ちないといった顔をしつつも、その場から立ち去るように体の向きを変えた。


「ここの応接室を借りている。あとで受付嬢から案内してもらってくれ」

「……はい」


 男性は立ち去っていく。

 女性は卵型のチョコレートを一口食べると、レニーにこう言った。


「気に入らなければ断って構いませんからね。なにせ調査とは関係ないので」


 女性の遠慮ない物言いに、レニーは苦笑いするしかなかった。

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― 新着の感想 ―
調査員の女性から作者の色というか、らしさが滲み出る一話だった。最後の5〜6行までくると読んでいる間にリラックスしたのか力まない笑みがうかんだよ。ちょっと疲れがとれたわ
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