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冒険者と難儀

「これ、うちじゃ直せないぞ」

「へ?」


 馬車の修理を請け負う店。男の店主からそう言われたレニーは眉を下げるしかなかった。広い小屋のスペースに屋台がどんと置かれている。


「造りが特殊なのはいいんだ。色々直せはする。なぜか付いてる引き出しやら火を起こす場所やらが厄介だ。貴族向けでもこんなのはつけない」

「車輪のほうがガタ来てるだろ? そこらが直せれば良いんだ」


 ちょい、と背伸びをしながらザンマが言う。


「ところどころ危ないところだぞ? もうこいつは全部バラして新調するのをおすすめするね」

「といっても、直せないんでしょ」


 店主は腕を組んで、唸る。


「場所は貸せるが、まぁ難しいな。見た目だけ真似る形になっちまう」

「……職人ここに呼んでも良い?」

「縁があるなら構わねえよ。そっちの料金は持たないがね」


 レニーは隣のザンマに目を向ける。


「いくら持ってる?」

「待ってろ」


 屋台裏側にまわり、下のほうでガチャガチャとやるザンマ。やがて両手で抱えるほどの大きな木箱を持ってきた。


「こいつで全財産だ」


 木箱を開けると、大量の貨幣が入っていた。中を確認してみる。全部本物、個々でも使えるものだ。これだけあれば、新調できるだろう。


「戻しといてくれ」

「あいよ」


 木箱を屋台に戻すザンマ。

 レニーは屋台を眺めながら、頭に数人思い浮かべた。




○●○●




 全員連れてきた。


「へえ、食事処兼荷車か。出店と随分違うな」


 解体用のナイフ等を購入して世話になっている鍛冶屋のジンガー。


「なんだこの引き出し!? いいのかね? 好き勝手見るぞ!?」

「お、おう。新しくしてもらえるんなら」


 錬金術師でレニーのクロウ・マグナを作製したエレノーラ。


「ほぉ、パズル式の金庫ってやつか」

「小さな調理場だね」


 魔器が作製できる店を切り盛りしているニコイル、後継ぎでレニーのミラージュ()を作製したニーイル。四人が屋台をそれぞれ見ては、ザンマに質問攻めしている。


「初めて、見る」


 そしてなぜか途中で出会い、流れでついてきたルミナがいた。


「で、直せそうなの?」


 レニーが四人に聞くと、互いに顔を見合わせた。


「俺は刃物がメインだからな。金具とかで困れば融通してやれるが……新しい包丁がほしいとかならできる」

「あ、ほしいぞ」


 ジンガーの言葉に、ザンマが反応する。


「じゃ、うちの店見てもらって選んでもらう感じだな。屋台に関してはここの連中の方がなんとかできる面が大きいだろう」

「鉄の細けえ加工はジンガーに任せたいね」

「ニコイルがそう言うなら、まぁ指示があれば加工して調整する感じか」

「引き出しはどうにかできそうだね」

「食料保存のための回路は任せてもらおう」


 どうやら新調できそうだった。


「レニーってすげえやつなんだな」

「これでもルビー冒険者でね」


 ザンマの呟きに、レニーは返す。


「どんくらいすげえんだ?」

「実質上から三番目の等級だね」


 紫色等(トリスティン)級なんて幻レベルのものを数に入れても仕方がない。


「そりゃすげえ」


 レニーはずっと無言のルミナに目を向ける。ま、専門外な事柄で言葉出ることもないのだろうが。

 レニーだって、あの四人がわちゃわちゃと話し合っている内容は全く理解できない。それでもルミナはじぃっと、屋台を見ている。


「ラーメン……」

「食べたいの?」


 こくりと頷かれる。


「まだ壊れちゃいないし、食料もあるからつくれるが?」

「店主の許可を得なきゃだね」

「いいの?」


 ルミナがザンマを見上げる。


「おう。お嬢さんのご要望とあらば何度でも」


 力こぶをつくり、そこを叩くザンマ。


「じゃ、店主に頼みに行くか」


 ルミナの要望に答えるため、あとは場所借りについて相談するため、レニーは店主と話をすることにした。


 その後、後悔するとも知らずに。




○●○●




 行列ができていた。

 どうしてこうなった、とレニーは頭を抱える。

 修理のために馬車を置くだけ、のはずのスペースに人だかりができ、香ばしいラーメンの匂いが充満していた。


「ひとり一杯限定なー。食材尽きたら何もできねえから」


 場所を借りることにし、新調の相談も済ませたザンマは早速ラーメンを振る舞い始めた。

 ルミナは一口食べると、目の色を変えて夢中になった。よほど気に入ったのか、そのままの勢いで、三杯ほど食べていた。それからその様子を見て、ジンガー、エレノーラ、ニコイル、ニーイルだけではなく店主も食べ、店主が店員に広め、そして噂か知らないが明らかに店員じゃなさそうな者も混ざり、混雑になった。


 ザンマは表情ひとつ変えずにラーメンをつくり、食器を洗い、拭いて温風の魔法で乾かし、また振る舞う。


 誰もが美味かったと帰っていく。まぁ、気持ちはわかる。


 手伝おうかザンマに聞いてみたが、「俺が全部やれるから気にすんな」と傍観することになってしまった。


「はーい。食材尽きるから今の客で終わりだよー! 解散解散!」


 ザンマが手を鳴らし、客を散らせる。


「儲けた儲けた」


 全ての客の対応が終わり、笑顔を浮かべて片付けに入る頃には昼から夕方になっていた。


「あの引き出し、結構もの入るんだな」


 ジンガーをはじめとした職人たちはみんな帰っていたので、居残り続けていたルミナに話しかける。ルミナはこくりと頷いた。


「ふぅーおかげさんで食材もだめになる前に使い切れたし、文句なしだ。ありがとな」


 額の汗を拭いながら、ザンマが言う。


「まぁ、立ってただけだから」

「おいしかった。しばらく、食べれない?」


 ルミナに問われ、ザンマは顎に手を当てる。


「そうだな。この辺で同じようにつくれる食材見つけるまでは何もできないな。ま、屋台新調するまでに見つけりゃいいだろ! 別に営業するわけでもないしな」


 ガハハと笑うザンマ。


「……また、食べたい」


 ルミナが拳を握りしめながら言う。


「食材探し、手伝う」


 食欲全開の申し出だった。ザンマにとってはありがたいものだろう。


「お、じゃあ頼もうかな」

「待った」


 ノリノリの二人に、レニーは割って入る。


「正式な依頼として出そう。その食材探し」


 人差し指を立てて提案する。ザンマは納得いかないようで眉尻を下げた。


「なんか問題あんのか」

「いいや。依頼にしてフリジットを巻き込もう。ついでに食堂を巻き込む。ロゼアは冒険者ギルドと酒場どっちもある」

「……うーん、手当たり次第探すより料理人から話聞けた方がいいか。そうすっか」


 レニーは軽く笑みを浮かべた。


「じゃ、決まりだ」

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