冒険者と道筋
レニーは食堂で、サンドを食べる。ブレメントは実家へ、女性の方はよくわからないが、少なくともここにはいられなくなった。
トパーズから資格を剥奪されるということは装備も没収される。強力な武器を所持する許可を得るための冒険者資格でもあるからだ。再度冒険者資格を取ることはできなくもないが、剥奪される前の地位に戻れることはないだろう。
あの様子だと、実力でなれていたわけではない。
「相席、してもいいかな」
声をかけられて、レニーは頷く。
「どうぞ」
レエーラだった。食事のトレーを手に持っている。微笑みを浮かべてレニーの向かい側に座った。
「その、凄い人だったんだね。レイ……レニーさんって」
両手を遊ばせながらレエーラが聞いてくる。
「さほどさ。レニーでいいよ」
「そ、そう? じゃあ、レニーで」
胸に手を当てて、ほっと安堵の息を漏らすレエーラ。レニーは気にせず、水を飲む。
「……戻っちゃうの? 自分のギルドに」
寂しげにレエーラが問いかけてくる。
「ま、ダンジョンも探索できる範囲では危険なさそうだし」
謎のモンスターはレニーによって討伐されたし、同じ個体がいるというわけではなかった。また発生する可能性はあるかもしれないが、しっかり管理されていれば大丈夫だろう。
今回、ブレメントたちの戦いがお粗末だっただけで、ロゼアで活動しているリンカーズというトパーズ級の冒険者パーティーなら対処できるレベルだ。つまり、連携がしっかりしていれば倒せる。
ブレメントが守るべきパールの冒険者を前に出し、さらには実力を見誤った結果でしかない。
このギルドもトパーズふたりを失ったとはいえ、権力にものをいわせていたものたちだ。圧力がなくなった分、健全な成長が見込めるだろう。
難しいようであればロゼアでもサポートすることになっている。
「もう少しくらい、一緒にいたかったなーなんて」
「悪いね」
笑い合う。
レニーはダンジョン探索を主とした冒険者ではない。ここでの問題が解決したのであれば、ロゼアのほうがずっと気ままに活動ができる。いる理由はないのだ。
「キミはここに留まるの? それとも探しに行くの?」
レニーの問いかけに、レエーラは黙り込む。レニーは食事を進めながら、静かに待った。
「ここにいながら考えてみようと思う。レニーがあの子だってわかれば一発なんだけど」
「……そういうのがわかる方法が見つかったら手伝うよ」
「ありがとう」
レニーには取り戻したい過去といったものがない。幼い頃の記憶はないし、そこから先は冒険者になるための記憶と冒険者になった後の記憶だ。
大事なものなのだろう、と予測はできても、それ以上にかけられる言葉はない。協力できそうであればするだけだ。
互いに食べ終わる。料金は支払済みであるし、札を横にすれば、食べ終わりを知らせられる。
「そろそろ行くか――」
「そうだねぇ」
互いに立ち上がる。
「じゃ、お互いの旅の幸運を祈りまして」
レニーは拳を軽く突き出す。
レエーラは一瞬驚いたあと、とびきりの笑顔を見せた。
「うん! 旅の幸運を!」
拳を付き合わせる。そして、別れた。
レエーラは受付に。
レニーは外へ、歩き出す。
――旅の道筋は人それぞれだ。




