冒険者とソロ
レニーは構えつつ、相手を観察する。四階を過ぎたあたりで武装を本来のものに切り替えていて良かった。時間はかかったが、こうして助けることができた。
魔物とは自然の一部。あれはどう考えたってただの魔物ではない。害しかない――モンスターだ。
「レエーラ」
前に踏み出しながら、レエーラに声をかける。
「その子連れて逃げろ」
「いやよ」
振り向く。泣き出しそうな、それでいて強い決意のこもった瞳がレニーを見ていた。
「レイニーはどうなるの」
「どうもしないさ。冒険者はいつだって同じさ。勝てれば生きるし、負ければ死ぬ」
――炎よ!
詠唱のようなものが聞こえる。モンスターの方へ警戒を向ける。白骨のうち、杖を持ったローブの白骨が巨大な火球を作り出しているところだった。モンスターは大技を使うつもりらしい。なら、魔法が完成する前に潰せばいい。
――La
長髪の白骨が歌うと魔法の障壁に魔弾が阻まれるが、二度、三度、と魔弾で撃ち抜いた。そして奥の魔法を潰す。
込められた魔力が固められず、火球が爆発する。防御魔法を咄嗟に展開したからか、相手は無傷だったが、衝撃までは殺せなかったらしい。軽くではあるが、バランスを崩し、巨体が傾いた。
明らかな隙だ。
「――オレはソロなんでね!」
カットレンジ。瞬間的な加速をする魔法でモンスターへ肉薄する。
モンスター本体はそれほど厄介ではない。問題は弱点を補い、そして強化している背中の白骨だ。個々で別々の動きをしているところから、白骨の役割はパーティーのように決まっているのだろう。なら、最初に狙うのは防御魔法を展開するあの厄介な長髪の白骨だ。
レニーの左右から、モンスターのハサミが迫る。レニーは跳び上がって、右からのハサミを踏み台にし、ミラージュで左のハサミを迎え撃つ。受けるというよりは、上から叩きつけた。その攻撃した反動で、レニーの体を浮かせる。そしてそのまま、長髪の白骨にクロウ・マグナを向けた。
「スタッカークレー」
拡散する魔弾が、長髪の白骨を穴だらけどころか破壊しつくした。間を縫うように兵士が斬りかかってくるが、レニーは素早く腕を引くと前蹴りを兵士に喰らわせた。
マナファイバーで編まれた靴は魔力で脚力などを強化できる。兵士が攻撃を咄嗟にやめて盾でレニーの蹴りを防いだ瞬間を狙い、脚力を強化し、無理やり蹴った。
兵士の白骨は耐えきれず、盾ごと左腕を砕かれる。
レニーは蹴った威力でそのまま後方に下がり、着地する。クロウ・マグナを位置調整のために軽く一回転させ、ホルスターに納める。
「あ、あんな簡単に……レイニー、あなた」
隣にいたレエーラが尋ねてくる。レニーは口元に人差し指を置いた。
「見ての通り心配ない。信じてくれるね?」
レニーの言葉に戸惑うレエーラだったが、すぐに強く頷いた。
「死なないでね」
「平気さ。あれくらい」
レエーラは少年に声をかけ、逃げる準備を始める。そして肩を組んで逃げ出した。
そこにローブの白骨が魔法を放った。追尾性のある数本の矢のような魔法だ。狙いは明らかにレニーではない。
「シャドーハンズ」
無数に生成したシャドーハンズによって、モンスターの魔法は握りつぶされる。その間にレエーラは逃走に成功した。
レエーラが遠ざかっていくのを確認し、レニーは頷く。
これで、巻き込む心配はない。
「――さて、守る手段はあるかな?」
自分の影にミラージュを突き刺す。そして黒い茨の鎖が、レニーの腕まで巻き付いた。
「ローズマンバ」
一直線に、ミラージュを投げる。通路いっぱいとばかりの巨体に、ローズマンバがまとわりつく。切断しようとモンスターがハサミや他の白骨で斬り裂こうとするが、無駄だった。
体に絡みつき、自由を奪う。そしてミラージュが背後で睨んだ。
「貫け」
腕を引く。
ミラージュがローブの白骨を貫きながらレニーの足元の床に突き刺さる。そしてモンスターに巻き付いていたローズマンバの棘が剣と化し、全身を貫いた。
――グゥウオオオ!
悲鳴のような声が響き渡る。足から振動が伝わるほどだった。レニーはローズマンバを解除し、クロウ・マグナを引き抜く。
ローズマンバが解除されても、モンスターは健在だった。全身厚い甲殻に覆われていたようで、穴だらけではあるものの、まだ生きている。背中の骨がカタカタカタと音を立てて動き出した。
一体何の骨なのか、大量の骨で何かを作り出そうとする。
しかし、その中心に黒点が撃たれた。それが骨を吸い込み、形成を阻害する。
「遅い遅い」
レニーはクロウ・マグナをしまいつつ、ミラージュを抜く。ミラージュ側のシリンダーを剥き出しにし、魔力を上乗せするカートリッジを差し込んだ。
そして、剣の先をモンスターに向ける。
「上位魔法二本仕立てだ。たっぷり味わうといい」
ミラージュの先に黒い球体ができる。
「ムーンレイズ」
そして魔弾が放たれた。
骨の形成を邪魔している魔弾とぶつかり合い、そして死の嵐を巻き起こす。
モンスターの全身を、魔力衝突による爆発が蹂躙した。
黒い魔力の奔流、その渦を眺める。
しばらくして嵐が収まった。
黒焦げになったモンスターは空けられた穴から黒煙を出しながら、ゆっくりとその巨体を崩していった。そして、全く動かなくなる。
「――討伐完了、かな」
レニーはミラージュを納め、静かに呟いた。




