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冒険者とスキル

 翌日、レニーはとある森に来ていた。

 フリジットとの「支援課」としてのお試しでの活動だ。安全性の確認が目的の為、森の調査と難易度以上の魔物がいた場合、討伐が目的となる。


 魔物というのは通常の動物よりも魔力を扱い、進化したものの総称を言う。知能に優れ、「魔法」を扱う魔物もいれば、凶暴化している魔物などそのあり方は様々である。


「フリジットは素手なんだね」


 前を歩くフリジットに声をかける。身に着けているのは、茶色い革製のグローブと受付嬢の格好(下手な装備より頑丈らしい)だった。


「私、拳に魔法のせたりして戦うからね」

「武器は」

「強いて言うなら解体用のナイフかな。ポーチに入っているよ」


 そういって腰に下げているポーチを指さす。


 マジックポーチだ。


 マジックポーチとは特殊な素材と刻まれた収納魔法により容量が大幅に増えたものを呼ぶ。自身の感じる重さや外見上は変化がなく、容量が大きいことから重宝される。


 だが当然、高価なものであり、荷物が増えがちな冒険者にはあこがれの一品だ。ポケットの量が多ければそれだけ小分けにできるが、見かけだけの偽物も流通している。


 コンパクトなサイズ感とデザインからマジックポーチは特に女性に人気がある。貴族相手のブランド品が出るほどだ。フリジットはそのブランド品を持っているようだった。


 一方、レニーはマジックサックという同じ効果のボンサックを背負っている。

 中に仕切りが一枚、外側にポケットのある黒いサックだ。三枠あることになる。食料品、依頼達成時の証明物品用、その他の三つに分けて入れている。


 仕切りもポケットもないタイプのマジックサックですら冒険者の稼ぎ三か月分と言われる。レニーのものはそれより二倍はするものを持っていた。恐らくだが、フリジットのマジックポーチはレニーのもののさらに数倍はするだろう。


「レニーくんは片手剣と杖? かな」

「あぁ。杖だよ」


 レニーは左腰のホルスターに杖を収納していた。持ち手(グリップ)部分が斜めになっており、長さもレニーの大腿部の半分あたりまで短めのものだ。シャフトの部分は通常の杖と違い、筒状の金属になっている。


 分類としてはショートスタッフだろう。魔法特化のロールではもっと長い杖を持つのがセオリーだ。ショートスタッフはあくまで特定の魔法を発動させること、または発動の補助をするのが目的であり、高威力の魔法を叩き込む魔法系のロールには向いていない。


 レニーは魔法系ではない為、ショートスタッフに留めていた。


 もう一つの武器は背中にあるカットラスだった。左側にマジックサック、右側に鞘に収められたカットラスとなっている。カットラスは刃が外を向くようになっており、振り下ろしでの抜刀がスムーズに行えるようにしていた。どちらも肩ベルトの背中部分で体に接続させている。


「陣形は私が前衛、レニーくんがサポートでいいかな」

「形式上は」


 ソロの冒険者としてはあまり連携らしい連携を取っていた覚えはない。いつもと違うことなぞ、レニーが軽くフリジットを気遣う程度だろう。


 ここは冒険者になりたての初級者から中級者まで世話になる可能性の高い森だ。深く潜れば危険な場所だが、潜り込まなければいい。


 ただ、それでも生態系というのはいつまでも一定というわけにはいかない。その為討伐依頼や、調査依頼は定期的にギルドに発注されている。


 慣れたように森を進むフリジットの足が止まる。


「ゴブリンの休憩地って感じね」


 ゴブリンは子どもくらいの背丈に尖った耳、裂けた口にくすんだ緑色の皮膚を持つ。皮膚の色は森での擬態の為だと言われているが研究者でもないレニーに真偽はわからない。


 ゴブリンはよく討伐依頼が出される魔物だ。ゴブリンたちは基本肉食で人間を襲う事もある。だから人間の被害も少なくないのだ。


 知能もそこそこあり、武器を自ら作成したり人間から奪って利用する。


 フリジットの横まで来ると、ゴブリンが焚火をしている姿が見えた。こちらが高い位置にいるということもあり、ゴブリンたちはレニーとフリジットに気付いていないだろう。


 寝ているゴブリンや見張りをしているゴブリン、ざっと数えて五匹いる。


「どうする? 私としてはダーリンの力が見てみたいかな」


 茶目っ気たっぷりに言われる。


「なら五匹()やろうか」

「りょーかい」


 レニーは姿勢を低めて、見張りが背を向けた瞬間に飛び降りる。常人では足の骨を折る高さだが、スキルツリーによって強化された身体能力とレニー自身の身のこなしで無傷での着地を成功させた。


 生物は皆、スキルツリーを持っている。スキルツリーこそが生きてきた証、そして強さを証明するものなのだ。第二の血管とも呼ばれるスキルツリーには、血の代わりに魔力が巡っている。

 

 本人の意識に反応してスキルを発動させることもあれば、無意識化に常時発動しているスキルもある。


 無数のスキルが同時に発動している為、その時に何のスキルが発動しているか説明できる者は非常に少ない。スキルは目視できるものではないからだ。


 レニーのスキルツリーに刻み込まれたスキルのうち、今発動したと断定できるのは「見極め」「紛れ込み」だろうか。


 見極めは真偽の見分けがつきやすくなる。また一瞬の判断、思考力を向上させ、安定化する効果がある。自分が敵地に潜り込む判断を、見極めのスキルによってほぼ反射的に導き出したのだ。


 紛れ込みは集団や建物などに侵入する際にあらゆる補正がかかる。例えば音を立てづらくしたり、気配を殺したりといった風にだ。


 このように、スキルツリーに流れ込む微量な魔力がスキルを発動させてバフ効果や補正をもたらすのだ。その為、どれだけ自分にあったスキル獲得ができるかどうかが、冒険者としての強さに直結する。


 レニーは見張りのゴブリンに即座に近づくと、背中からカットラスを引き抜いて斬り込んだ。


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― 新着の感想 ―
作家さんはベテランさんかな? とても読み易く話のテンポも素晴らしい、続きが気になる作品です。 気になったのは冒頭(1話目)に依頼された内容、彼氏のフリと有るけど、独身の女性にフリとは云え男の気配が付い…
[一言] これから精読して徐々に理解を深めようと思っております。ていうか、マジックポーチあったら便利だろうなと思ったり。 あと、文章の区切りが適度なので読みやすいです。私は一定のまとまりで区切るので…
[良い点] 三話まで読ませて頂きました。 ボーイミーツガールに始まりしっかりとアクションをしている作品になっていると思いました。 これからも楽しく読ませて頂きます。
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