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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:クラーケンの話
293/343

冒険者とクロウ・マグナブースト

 フリジットが水の中に入ってみると、意外と温かさを感じた。少なくとも水の中に入っていて、寒さを覚える時間は、通常時よりも大幅に遅くなるだろう。


「どうです? 着心地とか」


 プカプカと胸の上を水から出しながら、ネモヒラが聞いてくる。


「結構いいですね。水も思ったよりは冷たくないです」

「ここは浅いですが、中央に行くにつれてかなり深くなります。水上と水中の泳ぎは違いますから、それを少しずつ身に着けていきましょう。一緒にやるので、ひとまず一時間ほど慣れましょうか」

「はい」


 フリジットは水中で戦うことはあっても海中なんてものは記憶にある限りではない。ここはネモヒラの指導に従って覚えていくしかないのだ。


「では、私の手に捕まってもらって」


 差し出されたネモヒラの手に捕まる。そうして、手を引かれながら、フリジットの訓練が始まった。




 ○●○●




 女性に聞くのも失礼な気がしたので黙ってはいたが、あの格好は恥ずかしくないのだろうか。着てみるとそうでもなかったりするのだろうか。


 泳ぎを教えてもらっているフリジットを眺めながらレニーは思う。


 そんな中、デュロモイが咳払いをする。


「さて、いきなり長距離に挑戦するのも大変なものだろう? 少し慣らしをしてみるのはどうかね」


 デュロモイから提案され、レニーは組み上げたクロウ・マグナブーストを見下ろす。確かにエレノーラに頼まれて試しで使用したくらいで、慣らしたこともなければ必要性に駆られて使用したこともない。


「的は何かありますか」

「ここにいる」


 デュロモイが胸に手を当てた。


「……えっと、よろしいので?」

「構わんよ。軽い模擬戦としよう。とはいえ全力は困る。加減はしてくれたまえ」


 そういうと、腰の軍刀(サーベル)に手を当てながら、レニーから離れていく。魔力の渦を纏っていきながら、ゆっくりとサーベルを引き抜き、そしてレニーに振り返った。オーラストリームという、魔力を身の回りに纏って自身の攻撃を強化したり、相手の攻撃を弱める技術だ。


「距離はこのくらいで良いかね」


 さほど大声を張り上げたわけではないが、声がよく通った。少し羨ましいと思う。

 遠いが、早撃ちでも狙える距離だ。


「はい!」


 レニーはクロウ・マグナブーストを構える。上部の円筒状の部分(スコープ)を覗き込むと、裸眼であるよりもデュロモイが大きく捉えられた。


 魔力を回す。


 軽くマジックバレットを撃ってみた。通常よりも大きめのマジックバレットが光の筋をつくる。


 速度は一瞬だ。常人からすれば気付いたころには光の筋で体を貫かれている、というスピードだろう。


 しかしデュロモイは体を傾けて避けていた。遥か後ろの壁でマジックバレットが弾ける。さすがに丈夫らしく、目立った傷はなかった。


 二発目を撃つ。デュロモイが目を凝らす様子がわかった。すっと、軍刀で斬られる。光の筋がいくつにも分断され、デュロモイのオーラストリームに絡め取られて散らされる。


 ニヤリと、デュロモイの口角が上がった。


「レニー殿! もう少し、強くても良さそうだ」


 両手で軍刀を持ち、頭上から前へ向けて突きの構えを取る。


「……うーん、どう撃つか」


 撃つ魔法をカースバレットに切り替える。闇属性の魔法のほうがレニーの魔力は変換しやすい。


 別に勝ち負けを争っているわけではない。だが、ろくに使い方を把握しているわけではないので、戦い方の模索は必要だろう。


 試しに足元を狙ってみる。


 デュロモイは足を上げるだけで避けた。着弾して四散する魔力にはオーラストリームで散らせて無力化する。少し前に元騎士の強盗どもを相手にしたが、明らかにそれらより強い。


「スタッカークレー」


 拡散していく魔弾を撃つ。通常より広範囲かつ長距離に弾が飛んでいく。デュロモイは身を回転させながら剣撃と共に魔力の渦を激しくすると全弾を散らすことに成功した。


「ふむ。レニー殿。動いて近づいて仕掛けてもいいかね?」

「わかりました。構いません」


 デュロモイが走り出す。全力というわけではないからかスピードはない。むしろ緩やかだ。


 カースバレットに切り替えて撃ち続ける。膝、肩、腹、と。何度も狙ってみるが最小限の動きで避けられる。距離が半分になったところで、レニーは射撃をやめた。


 肩に当てていた部分を離し、今度は脇を締めて挟み込む。そして姿勢を落とした。


 デュロモイが間合いに入ってくる。すっと、迷いのない一撃が振るわれた。


 そこでレニーは飛び上がった。攻撃を避けつつ、シャフト先を地面に向け、デュロモイの頭上を狙う。


「――ほう」


 興味深げに笑みを浮かべながら、デュロモイは軍刀を振った勢いのまま身を反転させ、そのままレニーが立っていた位置に滑り込む。即座にレニーの射線から抜けた形になった。ただ、レニーはその後に着地を済ませる。そしてデュロモイの目と鼻の先にクロウ・マグナブーストのシャフトを向けていた。


 剣の間合いよりも内。オーラストリームで抵抗感が強いが、レニーがしっかりクロウ・マグナブーストを保持しているので、ブレない。


「なるほど。わかった降参だ」


 軍刀を下げ、デュロモイが言う。レニーはクロウ・マグナブーストのシャフト先が上に来るように持ち上げる。


 デュロモイは鞘に軍刀を納める。


「かなり加減してこれであれば、問題はなさそうだ。貴殿の判断力もかなりのものだ。狙いが正確ゆえに避けられる。だから、狙う必要がなく防御の難しい間合いで攻略する。ふむ、我が軍にほしいくらいだ」

「ま、戦争とかやる気はないですし、面倒なのでお断りしておきます。ところであなたも、相当に強いですね」


 普通は狙いがわかっても「最小限の動きで避けよう」とは考えない。戦いの動きの無駄が一切ない。洗練されていた。


「ルビーの冒険者に言われるとは光栄だ。機会があれば一度本気で試合をしてみたいものだ。中々に、楽しそうだからな……うん、たまには運動も良い」


 デュロモイが唇を舐める。レニーはそんなデュロモイの姿を見て、確かに楽しそうだと思った。

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