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冒険者とオーラストリーム

 赤い剣がルミナの体を浮かせる。


「くっ」


 そこから叩きつけるような二撃目に、ルミナは地面に縫い付けられた。ギリギリと刃を震わせながら相手の重い剣を止める。


「いいねいいねェ。もっと滾らせてくれ!」


 大剣の重さに任せた大振りの猛攻にルミナは抵抗できずに防御に徹するしかなかった。例えルミナのスピードの方が上だったとしても、ベルリゲンの剣が追いついてルミナにダメージを与えるだろう。


 パワータイプのスキルに、オーラストリーム。ルミナと同じような重戦士。

 同じタイプとなってくれば、どちらのパワーが上かにかかってくる。ルミナのスキルは巨大な敵を相手にしたときに最大限発揮される。対してベルリゲンは……ルミナよりも対人に優れている。


 ルミナはレニーのように魔法で翻弄できるわけでもなく、ノアのように剣の技量に優れているわけでもない。


 剣技で負けていれば、その分瞬時の判断で遅れが出てくる。


「オォラァ!」


 薙ぎ払いに切り返す。ルミナとベルリゲンの大剣が交差し、衝撃波で周りに風を起こした。


 まるて嵐がぶつかり合っているかのようだ。


 バランスを崩すルミナに対し、ベルリゲンは一歩踏み込んで突きを出してくる。拳を握りしめ、踏ん張ると、ベルリゲンの大剣を横から殴った。軌道を反らしたものの場しのぎでしかない。


 ベルリゲンは予想内だったのか、殴られた衝撃を利用して剣を戻し、身を一回転させると、振り下ろしてきた。


 ギロチンのように、ルミナに刃が降ってくる。

 ルミナは咄嗟に飛び退いて避けた。刃が地面に大傷をつくり、ゆっくりと持ち上がる。


「――降参しろ」


 今までとは違う。強い圧力を持って言われる。脅しに近い。汗を拭うルミナに対して、ベルリゲンは余裕がありそうだった。


 こんなに強いなんて予想外だ。


「しない」


 ルミナは霊服の封印を解除した。

 封印霊服。ルミナの装備している防具の種別だ。封印を解除することで強力な効果を得られる。


 ルミナが身につけていた胸当てや手甲が解除され、スリットスカートがふくらみを持つ。ドレスのように様変わりしたルミナの姿に、ベルリゲンは口笛を吹く。


「封印霊服か」


 霊服は普段、胸当てや手甲を主とした防御力増強のためにルミナの魔力を使用、貯蔵している。それを、ルミナ自身に還元し、魔力を増強するのは封印解除後の装備だ。そして、ジャイアントキリングが発動した際に、体が反応して爆発的に生成する魔力をコントロールするための補助的な機能もある。戦闘能力は上がるが、防御力は犠牲になる。


 絶大なパワーアップというよりはパワーアップに伴うコントロールのための封印霊服であった。


「それで、何ができる? どうせ冒険者だ。大したことはできねえだろ」

「オーラストリーム、みたいな?」

「あぁ、そうだ」


 冷え切った声音で、ベルリゲンは断言する。


「身体能力強化しかできないお前らとは違うんだよ」


 ベルリゲンの圧が増す。


「オーラストリームだけで遊んでやってたが、俺様はどっちもできる」


 魔力の色が濃くなった。今まで本気でなかったということなのだろう。


「俺様の女になれ、嬢ちゃん。そうしたら、もっと楽しい毎日を教えてやる。ここで殺すには惜しい」


 余裕を見せるベルリゲン。実際、それだけの実力はある。対人においてはルミナより上だろう。


「死んでも、いや」

「そうか」


 ベルリゲンは大剣を握りしめると、その場から掻き消え、瞬時に間合いを詰めてきた。大振りの一撃が、常人では避けられない速度で襲いかかる。


 まともに受ければルミナの体は原型を留めていられないだろう。それが吸い込まれるようにルミナに迫り――


――そしてそれを片手で受けた。


「な、に……?」


 ベルリゲンの表情が驚愕に染まる。

 封印霊服は、封印を解除すれば魔力のコントロールを補助してくれる。そしてオーラストリームは、()()()()()()()()()()()()()()()だ。


――金色(こんじき)の魔力の壁が、一撃を阻んでいた。


「それくらい、ボクもできる」


 ベルリゲンは大剣を押し込もうとするが、ビクともしない。ルミナはレギンエッジすら使わずに、魔力だけで受けきっている。


 魔法は使えないが、魔力の総量は膨大だ。


 魔力のコントロール。単純な言葉ではあるが多種多様だ。魔法のように放出や固定化するものもあれば、身体能力強化のように魔力量の調整で循環速度をあげたりする場合もある。


 そして体外で魔力の流れをつくるオーラストリームも、当然コントロールの技術だ。


 身体能力強化は結局、循環する魔力量を増大させたり速度を上げて、獲得しているスキルや身体機能の働きを強めることで起こる。ルミナは今までこれに頼っていた。称号スキルであるジャイアントキリングと、大物相手に発動する重戦士としてのスキルが強かったというのもある。


 ジャイアントキリングの効果は絶大だ。そして強い魔物となると大型のことが多い。ゆえにルミナは、イメージや別の操作技術が求められる魔法が苦手なことも手伝って、力押しが多かった。


 魔法が苦手だからといって魔力のコントロールまで諦めるのは早い。実際ルミナはできないわけではないのだ。


 今のような対人では、ルミナは十全に力を発揮できない。今までは格下ばかりで問題なかったが、それで一度死にかけた。


 スキルの関係で全力出せずに死にました、だなんて言えるはずもない。


 だから負けないために、身につけた。ルミナができる、新しい手段を。


「冒険者、舐めすぎ」


 拳で大剣を弾く。


「ぐおっ?」


 大きくのけぞるベルリゲン。

 黄金の光をまといながら、レギンエッジが振るわれた。


 横に払う。


 ベルリゲンは弾かれた大剣に素早くオーラを纏わせて、振り下ろした。

 赤い閃光と黄金の光がぶつかり合う。


「――おおぉ、おぉおおおおおお!」


 両手に力を込め、ベルリゲンは押し切ろうとする。ルミナは凉しい顔のまま、レギンエッジに魔力を通す。レギンエッジにはめ込まれた青い石が赤くその輝きを変える。


 一撃必殺(ぶった斬る)


 赤い光を、黄金が呑み込んでいく。


 そして決着を告げるように朝日が空を照らした。

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