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冒険者と報酬のない依頼

 それは、レニーがルミナと魔物討伐に向かい、依頼を終えた帰り道での出来事であった。

 村にある教会。その経営をする神父の家で、二人は一晩泊まることになっていた。テーブルを挟んで神父と向かい合う。


「おふたりとも冒険者とおっしゃっていましたね」

「そう」


 ルミナが神父の問いに肯定をする。


「お願いがあるのです。ですが、これには報酬がありません。用意できない、というのが正しいです」


 震える手を重ねながら神父が暗い面持ちで切り出す。レニーはルミナと顔を見合わせた。


「どうぞ。おっしゃってみてください」


 レニーは促す。ひとまず話を聞かないことには始まらない。


「七日後、山賊がここに攻め入ります。それを退治していただきたいのです」

「……数は」

「五十はいるかと……自分でも無茶なお願いということはわかっています。断られても、仕方のないことです」


 声を絞り出しながら神父は続ける。


「騎士崩れの、そこらの野蛮人とは比べ物にならない武装と規模の集団です」

「強盗騎士ってことか」


 強盗騎士。

 国に使える兵である騎士の中でも、法や仕組みの穴を利用して悪事を働くものを言う。騎士崩れというからにはもう騎士ではない者たちなのだろうが、武装が現役と変わらないのであれば、強盗騎士という認識でいいだろう。


 ここらは森林地帯が多く、山もある。賊が潜むには悪くない地域だろう。


「村中集めても足りないであろう金と、食料を要求されました。できなければ襲うと」

「……依頼は、間に合わないか」


 七日という期日がある以上、依頼が承諾されてギルドに張り出され、冒険者が受けるまでに間に合うかすらわからない。国に助けを求めても同様だろう。


「そちらのお嬢さんは体には見合わない大きな剣をお持ちだ。おふたりとも冒険者としてかなり強いのでは」

「まぁ、ルビーとカットサファイアですから」

「上から数えた方が早い、です」

「おぉ、やはり」


 神父は両手を合わせて神に感謝するようなしぐさをしたが、それも一瞬であった。


「お望みの報酬があればご用意しますが、何分、すでに何度か被害に遭っておりまして。この村で用意できるものなど」

「受けます」


 ルミナが、断言した。


「報酬、いりません。受けます」

「おぉ、ありがとうございます」


 神父が深々と頭を下げる。ルミナは心配そうにレニーを見上げた。


「レニー。どうする?」

「強盗騎士から武装奪えば元取れるでしょ」

「盗賊の発想」

「だってならず者(ローグ)だし」


 元騎士ということはそれなりに上等な武器、防具があるだろう。戦闘で傷物になってもある程度は売れるはずだ。全員がしっかり武装しているかは定かではないが、五十人規模であれば、まぁ、売れるだろう。強盗をしているのなら他にも売れるものがあるはずだ。


「と、いうわけで受けます。神父」

「神の導きとあなたがたの慈愛に感謝いたします……!」


 レニーが言うと、神父は涙を流した。




 ○●○●




 翌日、レニーとルミナは準備を始めた。

 残り六日、という期日がわかっていることは大きい。であれば、事前に準備もできる。村中の家を周り、前日から家を守るためのバリケードを築くことを提案する。村の侵入口はいくらでもある。主要な通路をバリケードで塞ぐよりもその日に家に閉じこもれるように準備するほうが良い。従軍経験のある敵だ。下手に村人たちに戦闘させるよりも閉じこもったほうが安全である。


 あとは、家に押し入られたときに武器となるものだ。足止め、逃げるため、追い出しに使えればいい。武装と経験の差から村人が賊を倒すことは不可能だ。

 何も剣を持ち出せ、というわけではない。農具であれば武器になりうる。ただ、それだけでは心もとない。皆武器を振るうことに慣れていないであろう。だから手軽に投げつけられるもの、石などを予め集められるだけ集めておくように言った。尖らせた木の枝などでも良い。とにかく視界を遮ったり、邪魔をできればいいのだ。その間に、ルミナかレニーが駆けつけてどうにかする。


 もし期日以前に賊どもが来た場合でも、すぐに家に駆け込むようにする。何かあれば教会へ報告しにくる。これを周知すればとりあえずどうにかはできるだろう。


 冒険者は外部の人間だ。ましてや、多勢に無勢の中勝てるのか、という危惧もあるだろう。故に、説明の際にはレニーと神父、ルミナと修道女のセットになるようにした。神父は村人から信頼を得ているらしく、疑いの目はいくらか薄れさせることはできた。レニーの考えであるから、レニーが一番細かく説明できるということも、説得力を上げる要因にはなっただろう。

 ルミナに関しては、レギンエッジ(大剣)を片手で振ってもらえば、わかりやすい。片手で扱うことが困難な武器を軽々振り回せれば、力のほどはわかってもらえるだろう。


 一通り村中で説明が終われば、あとは教会で待機する。一日一回はレニーと神父で村人たちの様子を確認し、何かあった際でもルミナが対応できるような体制にする。

 夜間はレニーとルミナが交代で見回りをする。


 ひとまず、動きがあるか、期日まではこうすることにした。

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