冒険者と試行回数
魔弾を撃つ。
レニーの撃った魔弾はメリースに当たろうとしたところで魔書の結界に阻まれる。クロウ・マグナで連射した魔弾は全てピンポイントで魔書に防がれた。
メリースは腕を組んだまま、視線だけがわずかに動く。レニーが横へ跳ぶと、地面に雷の魔法が着弾した。
レニーの左後方だった場所に、別の魔書が浮かんでいる。それが二撃目の雷魔法を放ってきた。レニーは自身の影の位置を確認しつつ、そこへミラージュを突き刺す。
「ぐっ」
雷光へ向けてミラージュを振るう。振るわれたミラージュから、影が弧を描くように飛び散った。斬撃を飛ばしたかのようなそれは、雷光を相殺する。
シャドースプラッターという、己の影に触れて飛ばす魔法だった。魔力の操作の度合いによって目眩ましから刃のような攻撃性のあるものまで調節可能という話だったが、メリース相手にはミラージュから飛ばす斬撃という用途でしか使っていない。
「もらった!」
両手で火球を生成したメリースが叫ぶが、レニーの手からミラージュが放たれた。腕には茨の鎖が巻き付いている。
「ローズマンバ」
「げぇっ!」
ミラージュがメリースの周りを取り囲み、茨の鎖がとぐろを巻く。メリースの魔法は茨の鎖に防がれ、そして飲み込まれる。
「これで結界ごと」
「――舐めんじゃ、ないわよ!」
茨の鎖が押し広げられる。両手を左右に突き出して、メリースは防御結界を広げているようだった。茨の棘が伸びようとして防御結界に穴を空けようとする。
隙間から見えるメリース付近の空間に魔書が見当たらない。メリースの目線を辿るとレニーの真横に魔書があった。
「スパイラル!」
貫通性に優れた魔弾で魔書を撃つ。それで動きが止まったことを確認し、茨の鎖を辿って走る。
落ちるミラージュが防御結界に阻まれている空中。そこへ飛び込む。
ローズマンバが結界を破壊しきれずに解除され、ヒビだらけの防御結界の上にミラージュが突き刺さっていた。その柄に、レニーは踵落としを叩き込んだ。
結界が破れ、メリースの頭上がガラ空きになる。メリースのすぐそばにミラージュが突き刺さった。
「しまっ――」
「はい、おしまい」
レニーは着地をするとこつんとメリースの頭に杖の先を当てて、それからミラージュを引き抜いて鞘に納めた。
その場にメリースがへたり込む。
「う、ぐ……」
悔しげに地面を睨みつけるメリース。土を握りしめて、歯噛みするほどであった。
レニーはなんとなく、メリースの目的がわかってきた。
魔書を自在に動かして、あらゆる状況下、方向から魔法を放っていきたいのだ。一冊の魔書が敵を追い詰め、もう一冊がメリースの防御に専念する。それを基本形に状況に応じて魔書とメリースが攻撃や防御を行っていく。
これでもしノアが危ない状況に陥ったとしても攻撃役で飛ばしていた魔書を防御役に切り替えてノアの盾になれるだろうし、己はもう一冊で身の安全を確保しつつ、隙を見て集中砲火が可能だ。
「も、もう一回やるわよ!」
「無理だけど」
レニーはクロウ・マグナをホルスターに戻す。
「ハァ!? もう疲れたって言うんじゃないでしょうね」
「魔力すっからかんだし、疲れた」
両手を挙げて降参の意を示すレニーに、メリースはむくれる。
あれから十数日は付き合っているが、かなり集中力が必要らしく、レニーに勝つことが難しいらしかった。
レニーの方も非常にギリギリである。頭痛のするくらい試行と魔力を回しきっての結果だ。少しでも油断すれば負けていた。
ひとえにメリースが二冊を同時に扱えていないことや、最大限の魔法と魔力を出し切っていないことで勝てた戦闘だ。
おそらくメリースの理想形が実現すれば、本当に手も足も出ないだろう。そしてメリースは理想形にたどり着くだけの「余地」がある。
魔書とは二冊同時使用と言っても使う魔法に合わせて切り替えを行い、隙を埋めていくための同時使用である。メリースが行おうとしているのは真の意味での同時使用だろう。魔書を二冊同時に操りつつ、己自身も動く。操るだけの思考、魔力の分配……単純に考えても体が三つほしいだろう。本人が出せる最大火力は間違いなく落ちるが――魔物を倒す上で常に最大火力を撃てればいいというものでもない。
先ほどのメリースの戦い方でさえ、トパーズ程度の冒険者では歯が立たないであろうし、メリースの真似をして実際に行える魔法使いは世界中で考えたとしても指で数える程度だろう。
レニーは座り込む。そして、左手を見た。無理やり魔力を押し流して撃ったスパイラルの影響で、左手が痺れていた。
「……はぁ」
「何勝ったのにそんな辛気臭い顔してんのよ。ムカつくんだけど」
「いや、追い抜かされるのが見えてるのに浮かれていられないさ」
メリースは全力ではなく、技術を新たに開発しているところなのだ。その通過点でしかないレニーの全力。勝てていても喜べる要素は微塵もない。
「空、遠いなぁ……」
大空を見上げながら、レニーは遠い目をするしかなかった。




