冒険者と夢見
それはもう、何年も前の話。
「レニー坊のカットトパーズ昇格を祝って、かんぱーい!」
「カンパーイ」
ジョッキを当て、小気味よい音が響く。レニーはいつも通りのテンションのまま、昇格試験の結果を真っ先に聞いてきて喜んできたラウラと飲む。
「かーっ、たまんないねぇ!」
「酒、飲みたいだけじゃないの」
冷めた目でレニーが言うと、ラウラは指先で頬をつついてきた。
「もぉ、素直に喜びなさいよ。昇格だよ、昇格。かーっ、ついに等級があたしより上かぁ。奢るから好きなもの食べな! あ、高すぎるやつはなしね」
ラウラが明るくいうと酒場の店主が呆れた顔になった。
「ウチにそんなもんはねーよ。飲みすぎて介抱されるんじゃねえぞ」
「はーい」
元気に手を振り上げるラウラ。まるで自分が昇格したかのようなテンションであった。
「やることが変わるわけじゃあるまいし……」
「冒険者たるもの英雄への第一歩は喜ばなきゃ」
「別になりたいわけじゃない」
レニーにとって教わることができた生きる手段というものが冒険者というだけだ。生活できればそれでいい。
「もう冷めた目しちゃってぇ。冒険者なんだから夢見なよ」
「ラウラも夢見てるの」
レニーの問いにラウラは大きく胸を張って、拳で叩いた。
「おうよ! レニー坊がビッグになって、あたしに奢ってくれること!」
「……随分オレ頼りな夢だね」
「あっはは! レニー坊が優秀だから夢見させてもらってるよぉ〜、よろしくねぇ!」
ばんばんと背中を叩かれる。いつも明るいが、飲みのときは一層明るい。
「ついでに売れ残ってるあたしをもらってくれてもいいんだよ?」
「他の男捕まえな」
「年上は好みではない!?」
「……恋人が想像つかない」
パーティーで付き合っている人間などを見てはいるが、自分とはあまりにも違いすぎてまるで別世界の人間のように思える。
つまみを食べながらジュースを飲む。
ラウラは楽しげに酒を呷る。
「めでたいときは騒いだほうがいいのよ! 喜ぶのが苦手な人も周りが楽しんでれば、自然と楽しくなるしね! んじゃ一気イキまーす!」
赤ら顔でだんだん酔いがひどくなっていくラウラ。レニーはその姿を眺めながら、もしかして介抱する羽目になるのではないか、と半ば諦めながら思った。
手元のジュースは、知らぬうちに空になっていた。




