表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:どこかの話
269/343

冒険者と城へ

 用意された白湯に手をつける。程よく温かく、落ち着かせてくれた。


「村を出ていけ。ここのことは忘れろ」


 ヴィルは大きくため息を吐き、向かい側に座る。ヴィルの家の中だ。眉間に皺をよせ、両手を組む。


「……どうして」

「グルーマの強さを見ればわかるだろう。勝てるか?」


 瞬きのようにグルーマとの戦闘が思い起こされる。

 レニーより早い魔弾。あれはおそらくお遊びだ。数ある魔法の中で、最もレニーの動揺を誘えたから、それを見せつけてきただけなのだろう。ロールは魔道士(メイガス)か、それに近いだろう。


 部下を監視できるマジックアイテムか、魔法。それを使いこなす技術。空中を移動する魔法に、即座に発火させられる魔法。


 魔法使いとして間違いなく上位だ。あの様子だと戦い慣れもしている。


「沈黙が答えだな」


 テーブルを手で叩く。


「魔法使いの戦い方は多彩だ。特にグルーマは」

「良く知ってるね。昔は冒険者だったとか」

「……まぁな」


 怒りを滲ませながら、ヴィルは頷いた。


「立ち入ったことを聞いてもいいかい」

「なんだ」

「息子さんは?」


 黙り込む。


「答えたくないなら、それでいい。別にオレの結論は変わらない」


 白湯を飲み干す。そっとテーブルに置いて、真っ直ぐヴィルを見つめる。


「死ににいくようなもんだぞ」

「いつだって同じだ」


 にべもなく答える。


「違う。明らかなリスクがある。グルーマは凶悪なことは十二分にわかったはずだ。トパーズ冒険者でも歯が立たない」

「それは体験談?」

「……あぁ」


 両手を広げて、それから観念したように言う。


「息子の、だ」


 レニーは前のめりになる。


「二年前だ。グルーマはここにやってきて、そこに住み着いてた賊共の頂点に立った。今じゃ女王気取りだ」

「……お似合いだ」

「立ち向かうべきだとは思った。けどな、おりゃ反抗するには年老いすぎたんだ。無理だった。下っ端の弱いやつは追い出せても、腕っぷしに自信のあるやつは通用しねえ」


 拳を握りしめて、それを震わせる。ギラギラした瞳が、レニーに向けられた。


「息子が帰省して、倒すと言ってくれた。自慢だったよ、おれなんかよりずっと才能があって、パーティーも全員トパーズで……」


 濡れた瞳に、レニーが映る。


「次の日、首が並べられてた」


 一音一音、絞り出すようにヴィルが言った。


「絶望に染まった顔を、よく覚えている。満足げな、あの女の顔も」


 塞ぎ込むように俯く。


「敵の根城に突っ込むというのはそういうことだ。ましてや、ソロなら確実に待っているのは死だ」

「……確かに」

「ならなぜ突っ込もうとする!?」


 テーブルを叩いて叫ぶ。

 レニーは静かに立ち上がる。床に置いたマジックサックとミラージュを背負い、ホルスターにクロウ・マグナを突っ込む。


「あー……うん。ちょいと前。依頼で行った国で覚えた言葉があるんだ」

「……なんだ」


 背中を向けて、扉に手をかける。そして一度振り返る。


「一宿一飯の恩義」




  ○●○●




 城門の前に立つ。

 ミラージュを担ぎ、大股で近寄る。城門の柵が挙げられ、地獄の口が開けた。

 数十人の武装した賊どもがレニーを迎える。


「さて、と」


 レニーは焦ることもなく、群れへ近寄っていく。


「スキルを失くした分、取り戻さないと」


 鼻歌を奏でながらミラージュを振るう。


 レニーは別に、正義感に溢れているわけでもない。無謀なわけでも、勇者なわけでもない。


「ルビーになると強化痛が恋しくなるもんだ」


 冒険者は死線を好む。


――ただそれだけだ。




  ○●○●




 城の玉座に、グルーマは座っていた。


「あら、意外と早く来たのね。操り人間(マリオネット)、手強かったでしょうに」

「随分といろんな魔法が使えるみたいだね。人を操る魔法か。賊ども全員、同じ攻撃パターンだった。統率が取れていて強いのかもしれないね。でも、予想外ってもんがない。素人より楽だったよ」


 レニーは疲れたとばかりにミラージュを近くに放る。その様子をグルーマは訝しげに見た。


「どうしたの、メインウェポンを捨てちゃって」

「面倒になった。城中罠だらけで、賊共の相手もした。最後のボス戦……がこの上なくだるい。だから早撃ちで勝負しようかなって」


 ホルスターに納められたクロウ・マグナを二回叩き、持ち手に手のひらを押し付ける。


「オレと一曲に踊りませんか、お姫様?」


 レニーは意地の悪い笑みをたっぷり含ませて言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ