表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:どこかの話
266/343

冒険者とどこかの出来事

 レニーが村にたどり着き、ひとつの家の扉を叩くと、中から強面の男性が出てきた。白髪で、腰の曲がった老人だった。左目に傷があり、閉じられている。右の瞳の光は強く灯っていた。


「夜分に申し訳ありません。泊まれるところを探しておりまして」

「……宿はねえぞ」

「アテになりそうな家とかあれば、教えていただければ」


 睨まれる。あまり好意的な印象は抱かれていないのかもしれない。冒険者としてこういう目を向けられるのは珍しくもないため、気にはしないが。そも、知らぬ人間が泊めろと言ってくるのだ。警戒されても仕方がない。


「……ひとりか?」

「えぇ。食料とお金、どちらが良いでしょうか。お礼はできます」


 レニーの提案に、老人は眉をしかめ、しばし考えてから口を開いた。


「食料だな。薬草はあるか」

「ある程度は」


 老人は頷く。


「空いてる部屋がある、泊まっていけ」


 レニーは野宿も視野に入れていたのだが、一軒目にして快く了承されるとは思わなかった。心の中で幸運に感謝する。


「ありがとうございます。オレはレニー・ユーアーンっていいます。よろしくお願いします」

「敬語はいい。むず痒くて仕方がねえ。おりゃあヴィルだ。ヴィル・ストーン」


 レニーは頭を下げた。




  ○●○●




 翌日は朝からヴィルを手伝った。仕事の邪魔にならない程度に、軽い手伝いを行う程度だが。


 井戸の水くみに向かうと、村の女性達が井戸の近くで会話をしているようだった。


「おはようございます」


 あいさつをすると、皆戸惑いがちに頭を下げる。


「あんた、水くむつもりかい」


 非難するように、女性のひとりが聞いてくる。


「ヴィルさんの手伝いでして。一泊させていただいたので、お礼に」

「あぁ、ヴィルさんの……」


 女性が悲しげにヴィルの家の方を見る。レニーは気にせず水をくんだ。


「ヴィルさん、どうだい」

「どうっていうのは?」

「無愛想だろう?」


 心配するように言ってくる女性。レニーは苦笑した。


「良い(かた)ですよ」


 無言のことが多いが、こちらを気遣ってくれるような態度でいることが何度かあった。食事の味を気にしたり、部屋が居心地悪くなかったか聞いてきたりと。


「お借りしたお部屋も随分綺麗でしたし」

「……息子さんの部屋かな」

「息子、ですか」


 外見から推察できる年齢を考えても、いておかしくないだろう。村の何処かに住んでいるのだろうか。


 レニーが女性に疑問を伝えようとしたところで、悲鳴が聞こえた。


「やめてぇー!」

「勘弁してくれ! 頼む!」


 懇願するような叫び。どう考えてもただ事ではなさそうだった。


 女性たちの顔が青ざめ、震えだす。


 レニーはゆっくりと、桶をおいた。声の方向へ歩き出す。


「あ、おい! あんた!」

「様子見てきます」


 ふらふらと手を振りながら、レニーは元凶に向かった。




  ○●○●




 広場に夫婦がねじ伏せられている。食料を持った男たちが夫婦を囲み、嗤っていた。夫婦は涙を流している。


 レニーは周りを確認する。村人たちはことの行方を気にしているようだが怯えて家から出ている様子はない。


「そこまで持っていかられたら、生活が」

「税ってやつさ。なぁ」


 泣く夫婦を男たちが嘲る。


 身なりを確認するが、武器を持っているし、服装も真っ当ではない。ここらで活動している賊だろうか。


 レニーは渦中に歩み寄るべく、足を踏み出す。


「――てめえら、好き勝手やってんじゃねえぞ!」


 野太い声が響いた。


 声の主は――ヴィルだった。怒りの形相のヴィルが、斧を担いで歩いてくる。


「くそじじい」


 その姿を見て、男のひとりが悪態をつく。


 ヴィルは夫婦の前に立ち、怒鳴る。


「奪ったもん置いていってもらおうか」

「はん! 誰が従うかよ、ジジイが!」


 男どもが、食料を置き、武器を引き抜く。鉈や斧、剣……人数は六人ほどだ。


「死にたくなけりゃ、頭を下げな」

「はん誰がてめえらなんぞに」


 ヴィルを脅迫する男たち。


「――頭を下げるのはキミらだ」


 そのうちのひとりの肩に、レニーは手を置いた。


「なん――」


 男が振り返った瞬間、レニーは無言のまま殴り倒した。くるりと身を回転させて、男が気絶して倒れる。


「おまえ……」


 ヴィルがレニーの顔を見る。


「ふたりを安全なところへ」


 ヴィルは頷き、ふたりを連れて行く。その間に、レニーは男どもに囲まれた。


「今日は死にたがりが多いなァ!」

「俺らに逆らってただで済むと思うなよ」

「……全く」


 レニーはため息を吐く。


 武器は持っていない。そもそも水をくみにきたのだ、レニーは。持っているはずがない。


「死ね!」


 レニーに剣が振り下ろされる。

 素早く右へ避けると、そのまま相手の額を掴み、後頭部を地面に叩きつけた。もしかしたら死んだかもしれないが、レニーにとってはどうでもいい話だ。殺されるかもしれない状況でかまっていられない。


 とはいえ、素手であってもレニーは、相手に欠片も恐怖を抱かない。


「脅しなんてあくびが出るほど聞いたさ」


 冒険者であるレニーにとって、賊の相手なぞ朝飯前だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ