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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:スウィートハートの話
259/343

冒険者と収まり

 あくびをする。


「落ち着く……」


 久々のロゼアの酒場で、レニーはくつろいでいた。酒場の喧騒が、耳に心地よい。

 アイリスの依頼は無事達成。前払いの依頼だったために報酬は支払われていたが。オーナーからの追加報酬もあって、割の良い仕事ではあった。


 ダイグももう付きまといはしないだろう。目をそらしていた事実に、気付いたのであれば。目を覚ますきっかけにはなれたはずだ。


 恋は盲目。過ぎれば厄介なことをこの上ない。


「レニーくん。座ってもいい?」


 フリジットが、トレーを持ってやってくる。


「どうぞ」

「えへへ。ありがとー」


 ニコニコしながらトレーを置いてフリジットが座る。サンドイッチのようだった。


「ねぇ」

「なーに?」

「オレのこと好きになって、それで辛くない?」


 デイリスやアイリスとのやり取りを思い返しながら、レニーは聞く。

 フリジットは首をかしげた。


「どうして、そう思うの」

「いや、中途半端な関係だし。オレ、気持ちに答えられない可能性の方が高いし……」


 ルミナもそうだ。好きとは言ってくれた。レニーは同じ「好き」を返せているわけではない。


 報われてほしい、幸せであってほしいふたりではある。だから余計に、自分を好きになって、辛くないのだろうかと。


 フリジットは腕を組んで考え込む。


「うーん。辛くない、っていうのは嘘になるかも」


 その言葉を聞いて、レニーの胸中に罪悪感がわいてくる。


「でもさ、それ以上に凄く……うん、幸せ」


 噛みしめるようにフリジットが呟いた。


「気持ちを伝えても嫌がられないし。ルミナさんとも仲良いままでいられるし。気持ちが真っ直ぐなままというか。飾らなくていいし、焦らなくてもいいから。だから一番気楽でいられるかも。レニーくんも気楽な方がいいでしょ?」

「……まぁ」


 今はベストな関係だと感じられているのかもしれない。ただ、レニーの中ではダイグの姿と、涙を流しながら謝っていたデイリスの光景が脳裏にちらつく。


 そのうち何か、気づかずに。見落として、狂ってしまうのかもしれない。


 フリジットは目を丸くしながら、レニーの顔を覗き込んだ。


「…………不安に、なっちゃった?」


 レニーの表情から何かを感じ取ったのか、フリジットが問いかける。複雑な胸中を言語化するのは難しかったが、端的に言ってしまうのであればそうだ。レニーは、素直に頷く。


「そっか」


 優しい声音で呟かれる。


「幸せだよ」


 ふわりとした笑顔で、フリジットは強調する。


「嘘じゃないの、レニーくんならわかるでしょ」

「そうだね」

「そうやって他人(・・)のことなのに心配してくれるところとか、本当に――」


 フリジットは口元に手を当てて囁く。


「好きだよ」


 喧騒の中に溶け込むように、ひっそりと好意を告げられる。

 心の底から幸せそうに、温かな笑顔のままのフリジットに。レニーは釣られて笑みを浮かべる。


「そっか。なら良かった」


 言いようのない、不思議な感覚がレニーの心にわく。少なくとも嫌な感覚ではない。むしろ温かった。


 十年、とフリジットは言った。


 その後も、ずっと、こうやって話ができる仲ではいたいなと。レニーは改めて思った。

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