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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:スウィートハートの話
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冒険者とモヤ

 朝になると、身動ぎをして、アイリスが目を覚ました。


「おはよ」

「ふぁ……おはようございます」


 目をこすりながら、アイリスがレニーにあいさつをする。そして瞬きをした。


「――あ、すすすいません!」


 ざっと離れて、立ち上がるアイリス。レニーは軽くなった肩を回した。


「寝れたかい?」

「は、はい。おかげさまで」


 顔を赤らめて、両手を合わせる。レニーは特段気にせず、立ち上がった。


「ま、お姉さんのことは任せなよ。どうにかするから」


 レニーがそういうと、アイリスは笑みを浮かべた。


「――はい」




  ○●○●




 デイリスと共に、アイリスを見送り、帰路につく。今日は休日であった。軽く食料を買って、家を目指す。


 道の真ん中で、男がひとり。


 立ち塞がるように出てきた。デイリスの表情が明らかにこわばり、そして、レニーはデイリスの前に立つ。


 男はガタイが良く、目つきが鋭い。レニーを睨むように見下ろしてきた。


「デイリスさん。その男は」

「――妹の友人です」

「恋人じゃないんだな」


 言葉に圧がある。ほっとしたように息を吐く男と対照的に、デイリスはレニーに隠れる。


「話がしたいんだ。デイリスさん」

「悪いけど、こっちは何もないの」

「少しでもいいんだ、頼む」


 付きまとっていたのはこいつだろう。レニーはどうしたものかと、考える。デイリスに視線を向ける。明らかに怖がっていた。


「悪いが、彼女はキミと話したくないらしい」


 レニーが口を挟むと、相手は眉間に皺を寄せる。


「きみは関係ないだろ」

「キミ、店を利用禁止になったのに関わってきただろ。だからオレがここにいる。要は男払いだ」


 相手は痛々しい表情を浮かべる。


「どうして、そこまで」

「わからないか」

「あぁ、わからないね。きっとこれは、誤解なんだ。話せばわかる」

「……そうか。なら、キミの言い分とやらを聞こうか」


 買い物袋をデイリスに渡しながら、レニーは相手を警戒したまま、話を続ける。


「……俺には金がある。デイリスがあんな仕事しなくてもいいように、養っていけるんだ。絶対に幸せにしてみせる」

「わかりやすいやつでありがとう。今の一言だけで、もうキミの価値はこれっぽっちもないってわかった」

「何……?」

「キミの価値はゼロだ。わかったら帰れ」


 手を振るレニー。


「デイリスさん、そいつはなんなんだ。急に現れて、好き勝手」


 デイリスに向かって文句を言いながら相手が歩み寄ってくる。手が伸ばされて、レニーはそれを弾き上げた。


 バチン、と。音が響く。


「どけ」

「狂人に付き合わせるつもりはない。痛い目見たくなかったら――」


 殴られた。横に殴り飛ばされ、地面を転がる。


「レニーさん!?」


 悲鳴に近い声だった。周りがざわめく。

 視線を動かす。相手は、気まずそうにレニーから目をそらしている。


「――平気だ」


 レニーは立ち上がる。殴られた頬を拭い、砂利の混じった唾を吐く。


――痛かった。


「キミ、仕事は何」

「パン屋だ。その前は……冒険者」

「へぇ。等級は」

「カットルビーだ。もう何年も前の話だがな。だからもう、資格はない」

「右脚の怪我が原因かい?」


 相手が右脚に視点を落とす。


「わかるのか」

「膝の動きがぎこちなかったからね」

「あぁ、そうだ。こいつが原因で引退した」


 即答だった。


「嘘だね」

「……は?」

「キミは今首を振った」


 首を指さしながら、レニーは言う。


「頷かなかった。言葉とは反対の動きだ」

「だからなんだ」

「体は無意識に動く。本音が出るんだ。だから、嘘だ」


 視線がきつくなる。


「だったら、何だってんだ」

「何も? ただ、モヤモヤしてるならとっておきの解決方法がある。オレはルビー冒険者だ。で、キミは元カットルビー」


 ぴくりと、相手の眉が反応する。


「オレはならず者(ローグ)だ。で、キミは何だった?」

「戦士だ」

「なら、こうしよう」


 己の拳を自分の手に叩きつける。


「喧嘩をしよう。もちろん殴り合いだ。身体能力だけで争うなら、キミの方が有利なくらいだろ。オレが勝ったら、何も聞かずに諦めろ。キミが勝ったらデイリスさんに話を聞いてもらう。いいかい?」


 相手は戸惑っているようだった。レニーを殴った手を見て、それからデイリスを見る。


「デイリスさん」


 レニーが呼びかけると、デイリスがレニーを見る。


「いいよね」

「でも……」

「こいつが一番平和的だ。グダグダするより良い。女の前(・・・)()恥を(・・)かけば(・・・)、出てこれないだろ」

「あまり、無理しないでね」


 レニーは頷いて、相手に向かって言う。


「人気のないとこでやろう」

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