冒険者と給仕モドキ
オーナー室にて、マジマジと見つめられる。
オーナーは髪を後ろで上げて纏めた美しい女性だった。赤いドレスを着ており、力強さと美しさを際立たせている。
「うーん、あなた女装できる?」
「できなくはないです」
「できるんだ!?」
隣にいたデイリスが口元に手を添えながら驚く。妹の受付嬢そっくりの驚き方だった。
「給仕メインで働いてもらおうかしら」
「そのほうが自然で済みますからね」
「でもうちの給仕って見習いのところもあるから。見て盗めって。場合によってはお客様に呼ばれるわよ。声は低めだけど疑われはしなさそうね。接客はできるかしら」
「見て盗みます」
「やるんだ!?」
顎に手を当てながら歩み寄られる。
「着替えとかは時間ずらして調整するとして……一回女装してもらおうかしら。服は指定するわ、貸し出すから安心して」
「どうも」
「じゃ、こっち」
オーナーに案内されるまま更衣室に連れて行かれる。中を見て誰もいないことを確認したオーナーが中に入るように促す。
「デイリスはちょっと見張っててもらえるかしら」
「は、はい」
更衣室に入ってみると衣装がいくつも並んでいた。ドレスや先ほどのうさぎの衣装や猫耳などもある。
「匂いは……うん、ナチュラルね。香水でも使ってるのかしら」
「一応」
「そこらの女性よりは髪も肌も手入れしてるみたいね」
「毛が生えた程度に」
「どれ。袖をまくっても」
「え? どうぞ」
腕を前に出すと袖を捲られる。
「……生えてないわね。なんかスキルある?」
「性別偽造」
「そりゃ好都合。じゃ、着るのはこれで」
並べられた衣装の中から白いブラウスと黒いスーツが引き出される。スカートタイプだった。
「あ、動きやすいほうがいざというときに助かります」
「じゃあ、こっちね」
スカートからパンツスーツに切り替えられ、靴も高いヒールではなく、低めの革靴を持ってこられる。
「……というかサイズわかるんですか」
「えぇ。わかるわよ。観察眼と鑑定眼のスキルあるもの。スリーサイズまでばっちりよ。知りたい女性のスリーサイズはあるかしら?」
「ないです」
「ちなみにあなたのスリーサイズは」
「いらないです」
オーナーは不満げに頬をふくらませる。
「大事よ? 服を選ぶとき、特に下着ね。あとは体型維持を考えるときも、知っておいたほうが美しくなれるわよ」
「いえ、特に目指してるわけではないので」
「残念。素質ありそうなのに」
「男ですよ?」
オーナーは色っぽい笑みを浮かべて、レニーを妖しく見つめた。
「イケるわ」
「……冒険者なので」
他の素質は特に求めてない。
気を取り直すように、オーナーは表情を素に戻すと、服をレニーに渡した。
「これに胸パット詰めて、あとは真珠のネックレスつけて、香水は……」
「……は?」
どこまでやるつもりだ。
○●○●
更衣室を出るとデイリスが目を輝かせた。
「えっ、えっ!? レニーさん!?」
「……なんかもう、慣れたな」
女性用スーツに着替えたレニーの目は感情がなかった。いつもは誤魔化すはずのボディラインは腰回りを絞って胸パットを使用したことで女性らしいラインになっている。若干開いた胸元には真珠が輝きを放っており、耳にはシンプルなデザインのイヤリングがあった。
「えっ、可愛い……ていうか足のラインとかキレイ……」
レニーは後ろから胸を掴まれる。オーナーだった。
「どうかしらこの胸パット。だいぶ本物に近い感触と形なのだけれど」
「そっすか。セクハラですよ」
胸から手が離れる。
「名前どうしようかしら」
「リジーでいいです」
「よし決定」
知り合いも入ってくるような場所ではない。仕事だと思えば割り切れる。露出が過激な服装であったり、ロゼアの受付嬢の制服のような可愛さのある服であれば別であるが、やる必要があるのであれば女装自体には抵抗はない。悪質な客をデイリスから守ることもできるだろう。依頼は護衛と変わらない。
「これは着せ替えを楽しみたいわね」
「ワタシで遊ばないでください」
「おっ、早速一人称変えてくれて素晴らしいね。素っ気ない態度はまぁ需要無くもないわ」
いらない需要だ。供給するつもりはない。
「よし、じゃあデイリスとお店の雰囲気を体感して来なさい。給与は多めに出すわ」
「了解」
「ほらデイリスも。戻って仕事ね。ちゃんと仕事仲間にはリジーちゃんを紹介すること。護衛の冒険者だってね。私も明日皆に伝えておくから」
「は、はい」
「はい、じゃあ行ってらっしゃい」
手をパンパンと叩き、オーナーは二人の背中を押した。
○●○●
紹介されるたびに驚かれる。
「え、男の子? こんな可愛いのに!?」
「え、冒険者? ムキムキじゃないのに」
冒険者にどんなイメージを持っているか知らないが、そんな反応が多かった。
それからは主に、デイリスの近くについて給仕の仕事をやるということになった。とはいえ、急遽参加するうえに正規の従業員というわけではない。教わりながらできる範囲でやるという形にはなった。
「……どう? この仕事」
人が途切れたタイミングで、そばに寄ってきたデイリスが聞いてくる。レニーは周りを観察しながら、口を開いた。
「やりがいはあるのかな。楽しそうにやってる人も多い。客も支払ってる値段に見合うだけの満足感は得られているみたいだ。割高だと思ったけどね」
「はは、女の子は高いんだぞ」
肘で突かれる。
「――元々、妹をいい仕事に就けるために始めたの」
「そりゃ大成功だね」
受付嬢の姿を思い浮かべながら返答する。
「えへへ、自慢の妹だよ。受付嬢も大変らしいけど、それでもいい仕事だから」
「キミは自分のこと考えないのかい」
言外にもっといい生き方があるのではないかと、そう尋ねる。逆恨みで命の危機を感じるほどならやめたほうがいいのではないかと。レニーの問いに、デイリスは首を振る。
「人と話すの楽しいし、私で癒やされて笑顔になる人もいるってわかったら、なんかこの仕事好きになっちゃって。オーナーがいい人なのもあるけど」
「やけにノリノリで女装させられた気がする」
レニーの呟きにデイリスは吹き出した。
「あの人、女性は美しく輝いてこそ! とか、女性は可憐で華やかであってこそ! とかいってみんなコーディネートしたりしているのよ。ここにある服、高いでしょうに。しっかり管理して、サイズも調整できるものだったり、サイズをいくつか用意してたりで、ぴったりなものを選ぶの。鍵付きの倉庫にもっと服があるのよ。ここの服、その日限定の特別なものもあるし、シーズンごとで切り替わる服もあるのよ。ちなみに今日は限定の日」
「毎日その服は困るね」
「目のやりどころに?」
からかうように問うデイリスに、レニーは首を振る。
「着心地、悪そうだし、寒そうだ」
「着る側の目線!?」
驚いてから、懐かしむような顔になって、デイリスは話を続ける。
「――それに。お客さんともたくさん思い出あるんだよ? 誕生日祝ってくれたり、逆にお客さんのことで喜ばしいことがあったら一緒に祝って、楽しんだり。お仕事だから大変なこともあるけれど、それでも好きだからやめたくないの。今だけの特権なのかもしれないけど、なら今思い切り楽しんでおきたいし」
その語りには、心から仕事のことを想っていることがわかった。仕事に誇りを感じているのか、大事に感じているのか。
仕事としてある以上、誰かを支えたり、助けたりするのだろう。サービスを受けるものもそうだが、仕事として請け負う側もそうだ。デイリスは、きっとこの仕事に救われたことがあるのだろう。
レニーも冒険者として生きていて救われたことがある。
「そうなんだ。オレも、冒険者稼業はそこそこ好きでね。思い入れもある」
「なら一緒だね」
ふっと、優しく微笑まれて、レニーも同じように返す。
「あぁ、同じだね」




