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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:スウィートハートの話
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冒険者と距離感

「じゃ、先にどうぞ」


 ニッコリ微笑まれながら座るように勧められる。レニーはソファタイプの席に座った。目の前のテーブルは円形で、席は半円状だった。


「えと、隣いいかな?」


 不安げにデイリスが聞いてくる。


「……ちょっと離れてくれれば」

「じゃあこのくらいかな」


 ひとり分のスペースを開けて、デイリスが座る。


「レニーさんって呼べば良い?」

「そうだね。それで」

「うん、じゃあレニーさんで。わたしのことはデイリスでいいからね」

「わかった」


 テーブルに肘を置き、前かがみになるような体勢になるデイリス。見える肌面積が自然と増える。レニーは周りを見た。男女の距離感が近い者ばかりだった。

 ここに来る前の、フリジットの言葉を思い出す。


『どうせだからサービス受けてきたら? 彼女ほしーってなるかもしれないし、そう思ってくれたほうが私たちも都合良いし』


 ぽんと、こういうところを体験してこいと言えるのは自分を信頼してくれているからだろうか。


「で。デイリスさんの困りごとは」

「二ヶ月前くらいに利用禁止にした客がいたの。しょっちゅう指名してくれて。最初はいいお客さんと思ったんだけど。そのうち仕事をやめて付き合うように言ってきて。説明はしたんだけど、凄く強引で」

「誰かさんを思い出すな」


 自分がかつて殺した男を思い出しながら、レニーは天井を見上げる。


「利用禁止にして一ヶ月は何もなかったんだけど。なんか、外で声をかけられるようになって、それで怖かったからなるべく店にいるようにしたの。ここ、お風呂とかもあるし。早朝に帰ったりしてどうにか。でも、お客さんとのデートで視線感じること多くて。建物の影からこっち見てて……」

「うわぁ」


 聞いているだけでもおぞましい話だった。


「で、その妹が受付嬢だから。その、そういう悩みとかも依頼にできるのかなって。まさか、ルビー冒険者が来ると思わなかったけど」

「冒険者には変わりない」

「うん、でもびっくりしちゃった」

「何が」

「思ったより可愛いから」


 楽しげに言われる。


「ね。冒険者について教えてよ。ちょっと気になる」

「じゃ、恋人のフリの話でもしようか」

「え、なにそれ。依頼で来たの」

「そ。それとも魔物討伐の話のほうが良かったりする?」

「恋人のフリの話のほうが気になる! 教えて教えて」


 ぴょこぴょことうさぎの耳が跳ねる。その姿に、受付嬢のくせ毛を思い出した。


「じゃ、軽く」


 レニーは適当に、依頼の話で時間を潰すことにした。




  ○●○●




 聞き上手だな、とレニーは思った。デイリスは興味ありげに話を聞く。こちらに体を向けて、前のめりになって関心があるという態度を全面に押し出す。


 こまめに頷き、リアクションもする。


――まぁ、レニーの話す内容がフリジットが付きまとわれていたときの話で、本当に興味があるのもあるだろうが。


 質問のタイミングも絶妙で、話を掘り下げようとしてくる。ときには自分の体験や感覚を話して共感を示す。


 会話のプロ、なのだろう。


「わたしも早く解放されたいなー」


 ひと通り話を聞いて、背伸びをするデイリス。手を下ろして座り直すついでに、ほんの少しだけ距離を詰めてきた。不快にならない程度、気付かない程度に。

 話を続けていけば距離が縮まっていくのかもしれない。視線でこちらの反応を観察してきているのがわかった。


「そんな依頼経験済みなら。レニーさんがいれば、安心できるかも」


 安堵の息を漏らすように、ほっと呟かれる。ただレニーの中では簡単な話ではなかった。


「ぶっちゃけるとキミを守るのは難しい」

「ルビー冒険者でも?」

「そう。まずキミが襲われる可能性がある。オレがいない間に襲われたらアウト」

「そ、そうね」

「相手がどこまでトチ狂っているかわからないからどんな手段でくるかもわからない」


 フリジットのときはフリジット本人の身の危険自体は正直心配するほどではなかった。しかし、デイリスは普通の女性だ。刃物ひとつで致命傷を負うし、首を締められたら抵抗できないだろう。


 |逆恨みが極まって殺しに来る《ジェックスとか》というのは珍しい話ではない。付きまとうレベル(ジェックスとか)になるとなおさらだ。


「相手が痺れを切られせて襲ってきたらいくらでもできる。重要なのは取り返しのつかない場面で襲われないことだ。場合によっては挑発するような行為をしたほうがいいかもしれない」

「例えば」

「人気のないところに行くとか」


 襲いやすい場面をつくれば、相手を誘い込める。

 デイリスの体が強張る。瞳は恐怖で揺れていた。当然だろう。


「……そういうことのないように一日中、キミについているのが一番リスクが少ないんだけど大丈夫?」

「おはようからおやすみまで?」

「そうなるね」

「良いけど、オーナーと相談しなきゃ」

「じゃあ、よろしく」

「この時間が終わったらね」


 軽くウインクされる。


「ちなみにお風呂とかトイレとか、そういうのも?」

「いや、家の外で見張れれば良い」


 怪しい人間が近づかなければいいのだ。外で見張れれば十分だ。


「いえ、さすがに外は……。守ってくれるんだし、わたしの家に泊まりましょう。妹には説明するから」

「キミがそれでいいのなら」


 男であるから自分も警戒されるべき対象だと思っているが、デイリスは受け入れてくれたようだった。


 あとは相手が動くまで様子を見るしかない。


 机上の話であればいくらでもできる。こちらは相手が本当はどんな人なのかすら知らない。ひとまず体制を整えられれば良しとしよう。

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