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冒険者とちょっとした過去の話

 無言で前を進む。後ろでは鼻歌が聞こえていたが、飽きたのかやめていた。


「ねぇ」

「なんだい」


 一度止まって振り返る。


「その杖ってここに来てからなんだよね。ここに来る前はどうしてたの」


 レニーは歩みを再開しながら記憶を辿る。


「最初は手だね」

「杖は」

「等級上がってからは使ったさ。中々合うものが見つからなくて苦労した」


 通常の杖から魔弾を放つ、これがレニーにとっては中々神経を使うのである。

 従って、過去のレニーは突き出した指の先から魔弾を放っていた。いわば、腕の延長としての認識が強かったのだ。確かに普通のショートスタッフを使えば威力は間違いなく上がるのだが、射撃までの速度が確保できず、扱いづらかった。


 ゆえに合うものを探したのだが、これも中々苦心したのだ。杖はもちろんのこと、短剣用のホルスターを杖の入れ物とし、どちらもとっかえひっかえした。


「カットラスは」

「似たようなのを使ってたけど、使い捨ててたかな。剣の時もあったし」

「そうなんだ、結構武器に悩んでた感じなのかな」

「悩んでたっていうか何も考えてなかったというか」


 鍛冶屋のジンガ―に武器を手入れしてもらっているのも、武器を酷使し過ぎて見かねた、彼からの提案(おなさけ)だった。


「カットトパーズから火力不足に悩み始めて、トパーズで本格的にって感じだったから。オレの限界ってここらなのかなって思った」


 道を左に曲がる。

 ならず者(ローグ)のロールの性質上、どうしても器用貧乏になりがちだ。サポート向きのスキルも、攻撃に適したスキルもバランス良く取得していけるが、極められるほど強いわけではない。

 魔法での攻撃手段で最適解が魔弾系統に落ち着いているが、正直一定以上の強さを誇る魔物にはまともなダメージにはならないだろう。魔物相手に戦えないこともないが、厳しいことに変わりはない。


「私はレニーくんもっと上に行けると思うけど」

「買いかぶりすぎさ」

「カットサファイア等級の受付嬢の言葉だよ? やる気出してもいいんだよ?」

「考えとく」


 等級ごとに圧倒的な差がある。トパーズで限界を感じていては上は難しいだろう。


「難易度高い魔物討伐してくれれば推薦できるんだけどね」

「一生縁ないかもね」

「でもさでもさ、ルミナさんいるじゃん。一緒に行かないの? っていうか仲良くなったきっかけとか、どういう関係なのかとか、いろいろ気になるんだけど」

「え? ソロ仲間」

「雑ぅ」


 知り合った頃はカットルビーだった気がする。ルミナに関しては気付いたら一緒に依頼をこなす機会が増えていただけだ。

 だはー、とため息だかよくわからない声を、フリジットは吐いた。


「あんな美人といてドキドキしないの? 付き合いたいとかさ」

「ない」

「えぇー、嘘ぉ」

「仕事で割り切ってる」


 お互いに食事以外あまりプライベートに踏み込んだことはない。ソロでの苦労を共感しあったり、達成した依頼の祝杯あげて食事を楽しんだり、その程度だ。

 逆に言えば、踏み込み過ぎない関係性に安心さえ覚えていた。


「女の子に興味あるの? まさか男」

「その先、言ってみな」


 ニッコリ、と。一度振り返る。

 フリジットは青ざめると、プルプル震えながら首を振った。


「ナンデモナイデス」

「賢明な判断ありがとう」

「じゃあさ、好みの女性いないの」

「考えたことない」


 恋愛を考えたこともない。興味もあまりなかった。

 それでも男の(さが)か、女性に対して何も感じないわけではなかった。


「逆に、キミはいるの。好みの男」

「え、私? 私は……うん、私もいないかな」

「ま、いたら依頼なんてしないか」


 見ず知らずの男に恋人のフリを頼む暇があれば、好みの男性を探して恋人にした方が早いだろう。

 右に曲がって真っすぐ進む。

 いつもは入り組んで遠く感じる道だが、会話をしている為かあまり気にならなかった。


「で。ルミナさんとはどこで出会ったの?」

「話戻ったね。酒場だよ」

「やっぱり相席なんだ」

「お互いソロだしね。ここに来たばっかりのときに話しかけて、相席してもらった」

「へぇ。依頼たまに一緒にやるのもそこからだったりするの」

「かもね」


 足を止める。

 行き止まりの区画に、店が一件だけあった。


「着いたよ、ここだ」


 レニーは、目当ての看板を指差す。そこには薬瓶が描かれていた。


「へぇ、ここ初めてだ。道具屋さんじゃないんだよね」

「薬とマジックアイテムが売ってるかな。杖と魔書とかも取り扱ってる」


 魔書とは、杖よりも詠唱の補助や効果の強化、安定性に長けた特殊な本のことを言う。魔法系のロールでは憧れの一品となっている。極端な話、魔法を発動する速さと安定性は魔書、威力を突き詰めるとしたら杖が向いている。杖よりも高額で本という性質上、破損しやすいというのもあり、扱いには慎重を要する。


「魔書もなんだ、凄いね。もしかしてメリースさんもここだったり?」

「そういえばこの前会ったな」


 メリースとは、現状、ロゼアで依頼をこなしている中で最強のルビー等級のペア「ツインバスター」の片割れの少女だった。魔書二冊持ちというとんでもない少女だ。もう一人はノアという両手剣使いの少年だった。二人とも無所属である。

 個人の戦闘能力だけで言えば一番にノア、二番にルミナ、三番目にメリースと言われている。ほぼ僅差だろうが。


「ま、入ろうか」


 レニーが促すと、フリジットが頷いた。

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