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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:スウィートハートの話
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冒険者と恋人代行の店

 応接室にて、フリジットとレニーは並んで座っていた。向かい側には、キノコのかさのような帽子を斜めに被り、白いブラウスに紺のワンピースを着た女性が座っている。


「……で、どなた」

「ちょっ! ひどいですレニーさん! 私です! こんなにチャーミングな受付嬢なんて滅多にいな」


 女性の視線がフリジットに移る。


「割といるかも……」

「あはは」


 女性は帽子を取った。頭頂部のくせ毛が跳ねるようにピンと伸びる。


「あ、受付さんじゃん。久しぶり」

「私の本体くせ毛!?」


 驚愕の表情を浮かべるカルキスの受付嬢。レニーが今のギルド、ロゼアに所属する前に滞在していた場所、カルキスにある冒険者ギルドで働いている受付嬢だった。いつもの仕事着ではないため、プライベートでこちらに来たらしい。


「冗談だよ。受付さんは無駄に印象に残るから覚えてる」

「無駄ってなんですか! ギルドの花ですよ!?」


 バン、とテーブルを軽く叩く受付嬢。


「仲、良いんだね」


 にこやかなまま、フリジットはレニーに言う。声は少しも笑っていなかった。受付嬢は自慢げに胸を張る。


「そりゃ、付き合い長いですし。賊狩りの二つ名を推したの私ですから!」

「あーそういやそんなこともあったね。割と便利だったよ」

「そうでしょうそうでしょう、ふふん。レニーさんはもっと私に感謝するべきです、えっへん」

「アリガトウゴザイマスー」

「うっわー凄い棒読み。久々ですねーこの冷めた反応は」

「話が進まないから本題入ってくれない?」

「ドライ!? いいじゃないですか。私、今長期休暇取ってるんですから無限に喋っても許されるでしょうに」


 本当に無限に話し続けそうだった。フリジットはなぜか頬をふくらませてレニーたちをジトっとした目で見ている。


「オレらはキミの相談を受けるという仕事なんだけど」


 別に会話自体は付き合っても構わないが、応接室で話し続けられても困る。


「レニーさんって、彼女います?」


 そっと内緒話をするように聞かれる。レニーはフリジットに一度視線を向ける。フリジットはニコリとしたまま、固まっていた。


「いない、けど……?」

「む。なんか歯切れ悪いですね」


 怪訝そうに顔を見つめられる。


「ちなみに、恋人ほしいとかないんですか?」


 口元に手を当てながら、からかうように聞いてくる。


「ない」

「なら大丈夫ですね」


 受付嬢は背筋を伸ばす。


「私のお姉ちゃん。助けてほしいんです」


 その顔は、いつも明るい受付嬢には珍しい、真剣な顔だった。


「お姉ちゃんはスウィートハートってお店で働いてですね。平たく言うと恋人ごっこをするお店なんです」

「娼館じゃなく?」

「基本的にそこまでじゃないです。手軽にお話して、デートしたり。人によってはまぁ、そういうことする人もいるんでしょうし、最終的に本当に恋人になる人もいなくはないですけど、恋人できたら普通退職なので。あ、でも特別な衣装を着たりしてサービスはしますよ」

「……楽しいの? それ」


 店ということはお金を払ってそういうサービスを受けるということである。レニー自身はあまり進んで受けようとは思わない。

 相手と特に親しいわけでもないのだ。


「レニーくんは私と恋人のフリしたことあるでしょう? 楽しくなかったわけぇ?」

「仕事を楽しむのとそれを目的にするのとじゃ意味合い違うでしょ。フリジットだからたまたまってこともあるし」


 むくれたフリジットと会話し、視線を受付嬢に戻す。


「……え、何その顔」


 戦慄したように唇を震わせる受付嬢がいた。


「こ、恋人のフリ……? レニーさんが? あのレニーさんが? こんな美人な方と……?」


 ぶんぶんと、レニーとフリジットを交互に見る受付嬢。


「え、なんか弱みでも握ったんですか」

「握ってない。男に付きまとわれてたから依頼を受けたことがあるだけ」

「レニーさんにそういうこと頼もうとしたの、私以外にもいたんだ……」


 衝撃、とばかりに呟かれる。


「え、フリジットさん……? フリジットさんはどうしてレニーさんに頼んだんです?」

「レニーくんの評判と状況ですかね。ソロですし」

「なるほど。というか親しげですね」

「親しいですからね。ね? レニーくん」


 ニッコリとフリジットから話を振られる。


「親しくなったね」

「でも恋人じゃないと。では、ますますレニーさんに頼れますね」


 安堵したように息を吐きながら、受付嬢は人差し指を立てた。


「話を戻すとですね。お姉ちゃんが仕事をする場所が場所ですから、勘違いする輩がいるんです。大抵はお店を出禁にしたりして、どうにかするんですけど」

「どうにかならなかったと」


 レニーの言葉に、受付嬢は強く、強く頷いた。


「手紙で定期的にやりとりしてるんですけど、怖いんですよ。本当の恋人だったと思い込んでるっていうか元彼ヅラというか。心配で休暇取ってこっちの方に来たのは良いんですけど、私でも限界あるじゃないですか。だから誰かに頼みたいんです。お姉ちゃんのこと、守ってくれるように」


 真剣な悩みであった。フリジットは身に覚えがあったのか、身を乗り出すように聞き入っている。


「家までの帰り道とか、守ってくれると。レニーさんに頼めば絶対負けないじゃないですか」

「まぁね」


 身近には自分より強い人間ばかりだが、そこらの大抵の相手には勝てるだろう。襲われても平気だ。


「ほら、依頼で関わっていくうちにお姉ちゃんの魅力にコロっとやられちゃう人じゃ困るわけですよ。ま、真っ当な恋愛ならいいんですよ? それならむしろウェルカムというか。レニーさんなら万が一コロっとやられてもルビー冒険者なのでそこらのろくでなしとかよりずっとお金あるでしょうから安泰ですし、私はお兄さん呼びができるので大歓迎なところありますし」


 受付嬢的にはほぼリスクがない、ということなのだろう。


「私の貯金、全部つぎ込むので、お願いします」


 頭を下げられる。レニーはフリジットを見た。

 フリジットは肩を上げる。


「受けるつもりでしょ?」

「まぁ」

「依頼として受理しましょう。書類は私が書きます」


 フリジットが言うと、受付嬢はパッと顔を輝かせた。


「ありがとうございます!」

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