冒険者とボックスステーキ
テーブルの上に皿が置かれる。プレートに乗せられた肉がまるで宝石のように輝いていた。
「わぁ、おいしそう!」
両手を組んでパッと明るい表情を浮かべるフリジット。視線を横に向けると、ルミナが無表情ながらも瞳だけは輝いていた。ルミナはフリジットが酒場ロゼアに入る前に誘ったため、今この場にいる。
レニーは視線を落とす。レニーの眼の前にも、プレートが置かれた。
「おまたせしました! ボックスステーキです……じゅるり」
持ってきた店員が明るく注文品を置いていった。
特製のソースと肉汁によって艶めいて見え、添えられた野菜によって彩りが加えられている。出来立てであることを知らせる湯気と、肉の匂いが食欲をそそる。隣には赤ワインがあった。
「食べましょう食べましょう! ね!」
上機嫌に促すフリジット。ルミナもぶんぶんと頷いてフォークを掴んだ。
ボックスカンガルーの肉を食べるのは初めてだ。レニーもフォークとナイフを持つ。一口サイズにカットされているため、フォークだけでも十分食べられる。
皆それぞれ、一口食べる。
「ん〜最高! さっぱりしてて柔らかいし、おいしい〜!」
頬に手を当てながら、満足げに感想を漏らすフリジット。レニーも同じ感想だった。
ルミナは目を輝かせて夢中になっている。
「おいしいな」
「へへん、私に感謝しなさい」
「フリジット、最高。お肉最高」
「ありがとう、フリジット」
「ふへへへへ。苦しゅうない、苦しゅうない」
口いっぱいに広がる肉の旨味に舌鼓を打つ。現地調査のご褒美としては破格であった。フリジットがボックスカンガルーを仕留めたおかげで、おいしい思いができた。
レニーだけでも狩れないわけではなかったが、苦戦はしただろう。肉の状態も多少悪くなる可能性があった。
カットサファイア。レニーとひとつしか等級の違いはない。しかし、強さの差は歴然である。フリジットのように真正面から魔物を相手取る強さはレニーにはない。
見ごたえのある戦いだった。あまり見られないフリジットの姿を見れて満足だ。
――それに。
レニーは肉を楽しむふたりを眺める。その視線に気づいたのか、フリジットと目が合う。ルミナはリスのように頬がふくらむほどに肉を頬張っていた。
「ありがと」
「何が」
「いい息抜きになったし。それに、みんなで食べるとおいしいね」
フリジットがウィンクをする。レニーは微笑みを浮かべ、肉にフォークを刺した。
「違いないね」
ゆっくり肉を味わい、ワインを飲む。
――みんなで食べるものはおいしく感じるものだ。
ソロの冒険者でも、それは変わらない。




