冒険者とお悩み相談室
それは、レニーがシーフードパスタを食べ終えて、帰ろうか追加で何か頼もうか考えていたときだった。
いろんなものが落ち着いて、レニー自身、いつものような生活を取り戻した頃。
「お悩み相談室レニーはここですか?」
そんな、素っ頓狂な言葉を浴びせられた。
頭に疑問符を浮かべながら声の主を見る。
疑問符が増えるだけだった。
ノアだった。ロゼアギルドを利用する最強ペアのツインバスターの片割れであるカットサファイアの少年だ。
「……違うけど」
暗い顔のまま相席を始めるノア。レニーの言葉は完全無視だった。
「メリースとケンカしたんだけど仲直りするにはどうしたらいいかな」
「……いや、すればいいじゃん」
ツインバスターの二人でもケンカはあるんだな、と思いながら至極どうでもいい立場ではあるので、普通に返す。
「いやでも、普通に仲直りしようとするとなあなあになりそうで」
「何でケンカしたわけ?」
もう半ば諦めでレニーはノアの話を聞くことにする。
「依頼でちょっとメリースが前に出過ぎだったんだ。それを注意したら開き直られて、あれこれ言い合いになっちゃって……」
レニーは立った。
「……惚気なら帰るけど」
「ちょっ……なんか奢るから」
座る。
「何系がいい?」
「アンチョビとチーズのピザとエール」
「俺もそれにしよう」
「大きいサイズ頼んで半分に分けでもする? オレはさほど食う気ないから」
「じゃあなんでピザなんだ……」
どうせ甘い話を聞かされるんだから塩辛いものの方がいい。ピザは気分なだけだ。
……とは言わなかった。
「まぁいいや。すいませーん!」
ノアが注文して、しばらくして注文品が届く。小皿にピザをのせながらレニーは口を開く。
「で、どうするの」
「仲直りしたいけど、もっと慎重になってほしいというか。メリースに怪我してほしくないしさ」
なんでケンカした。
塩味を楽しみながらエールを飲む。
「フツーにその話すれば?」
「メリースが完全にへそ曲げちゃって。同じようなこと言ったんだけどあんまわかってもらえてなさそうでさ」
「ふーん」
ノア的には詰みのようだった。
「まぁしばらくそのままでいいんじゃない? そのうち落ち着くでしょ」
「え……やだ」
「……は?」
今なんて言った?
「だってずっと一緒なんだよ? 冷たい態度取られると辛いし」
「……距離置けば」
「その間に変な男に捕まったらやだし」
何を言ってるんだこいつは。
どうやらケンカが相当堪えているらしい。普段なら絶対口にしないことがポンポン出てくる。
「三日続いてるんだ三日も。流石にどうにかしたい」
「間に誰か立たせれば? ……フリジットとかモーンさんとか」
支援課だし。既婚者いるし。そう思いながら提案したがノアの反応は微妙だった。
「レニーでどうにかできない?」
「いや面倒なんだけど」
「いやだってメリースと早撃ち勝負する仲じゃん。話持ち込めるでしょ」
「……ごちそうさま」
「待って待って! ホント! 頼むから」
……座る。
「……善処するよ」
「本当かい!?」
目を輝かせてノアが身を乗り出してくる。
ギルド所属ではないとはいえこのギルド最強のペアがケンカで力を発揮できませんというのは笑えない。
積極的にアプローチしなくとも勝手に修復されそうだが、頼まれたのなら少し声をかけるくらい考えよう。
見かけたら、の話だが。
○●○●
「――だいたいノアは心配しすぎなのよ! アタシだってちゃんと強いんだし、ちょっとくらい前に出たって平気なんだから! 一番危険なのは前衛のノアなんだから。アタシなんて全然ノアに比べたら安全なのにっ」
――だからなんで二人別々で来る?
翌日。レニーがシーフードパスタと海藻のサラダを食べている最中にメリースがやってきた。「ちょっと話聞きなさいよ」と有無を言わさずに座り、酒を片手に愚痴が始まったのだ。
声をかけるまでもなく、相手からやってきた。
「ちょっと! 聞いてる?」
「あーはいはい聞いてる聞いてる……」
「アンタはどう思う!? アタシ悪くないわよね!」
なんでケンカしたんだこいつらと思っている。とは口が裂けても言えなかった。適当に同意してもいいが、昨日のノアに頼まれたばかりなのにメリースの肩を持ってもとは考える。
「なんで無言になるわけ!?」
「……いや、ちょっと……かなり面倒くさいなって」
「ハァ!? どこがよ! ていうかなんで言い直したのよ!」
全部だよ。
すっと影が近づく。目を向けるとルミナが珍しそうにこちらを見ていた。レニーをまじまじと見てからメリースに視線を移す。
「……メリース」
「あん!? 今取り込みちゅ……う……?」
メリースはルミナに気づいていなかったのか、怒りの形相で一度睨んでから、表情が和らぐ。
「ボク、レニーと一緒の席がいい……ダメ?」
「……いいわ」
盛大にため息を吐くメリース。眉間を抑えながら目を閉じる。
レニーは立ち上がって適当にイスを持ってくると、自分とメリースの間にイスを置いた。
「ありがと」
ルミナはレニーの方にイスをかなり寄せてから座る。
「……近くない?」
「近くがいい。迷惑?」
不安げに瞳を濡らすルミナに、レニーは何も言えなかった。
「嬉しいです、はい」
「……やった」
きゅっと拳を握るルミナ。メリースが睨んでくる。
「何? 距離感おかしくない? 付き合ってんの」
「付き合ってない」
「フラレた」
ルミナが端的に言うのでメリースの額に青筋が立った。バン、とテーブルを叩き、立ち上がる。
「ハァ!? レニー、アンタこんな良い子を」
「おい、バカ! 声が大きんだよ。ルミナに変な噂たったらどうするんだ」
慌ててレニーが言う。メリースは周りを見てから座り直した。
「……確かに」
ルミナはふふっと楽しげに笑う。
「どこが面白かったの」
「レニー、慌ててた。新鮮」
嬉しそうなルミナに、レニーは文句のひとつも浮かばなかった。
「なんでフッたわけ」
小声で怒りを滲ませながらメリースが問いかけてくる。
「無責任に付き合えないだろ。大事ならなおさら」
「うん。大切に想われてる」
「なんで付き合わなかったのかわからないけど、なんかルミナが幸せそうだし、いいわ。泣かせたら魔法でぶっ潰してやる……!」
魔書を展開しながら脅すメリース。洒落にならなかった。
「それで。何かあった?」
ルミナの問いにメリースが咳払いする。
「あのね、ノアが――」




