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冒険者と

 鼻歌を聞きながら歩く。背中にはルミナがいて、寝息を立てていた。隣には上機嫌のフリジットがいる。


「告白してよかったぁ」


 酒で上気した顔で、フリジットは呟く。すっかり太陽は寝静まって、月があくびをしていた。


「誰かの気持ちって、聞くの怖いよね。打ち明けるのもだけどさ、それ以上に本音が怖いかも」

「……そうだね」


 道を歩きながら、会話をする。


「怖かったけど、嬉しかった」


 優しい声音で言われる。レニーはその言葉に安堵を覚えた。


「がっかりされなくて良かったよ」

「ぜーんぜん。レニーくんらしかった」


 背伸びをする。レニーはルミナを背負い直した。


「背中の感触はいかがですかな?」


 口元に手を当てながらからかうように言われる。レニーはため息を吐きながら、フリジットを横目で見た。


「考えないようにしてる」

「ちぇっ、真面目さんめ」


 つまらなそうに頬をふくらませるフリジット。


「欲ってもんがないなぁレニーくんは。ルミナさんスタイル凄くいいのに」

「フリジットもそうだろ」

「私を背負うときは楽しんでいいのよ?」

「オレが変態みたいじゃないか。こうして体を預けられる背中であるうちは考えないさ」

「じゃあ背負いたい女第一位目指します」

「変なの目指さなくてよろしい」


 ぶーぶー、とフリジットにブーイングされながらレニーは空を見上げる。雲のない、星空があった。


「――ついちゃった」


 フリジットの家の前について、足を止める。


「ついたね」

「じゃ、ルミナさんは私が預かります」

「宿まで連れてくけど。起きてるみたいだし」

「スピー」


 わざとらしい寝息に、ほらと肩をあげる。フリジットは腰に手を当てた。


「寝ぼけてるのは違いないし、泊めていきます。こちらに身柄をよこしなさい」

「何の気分なのさ……」


 ルミナに視線を移す。

 不満げにレニーから下りて、フリジットの近くまで移動した。


「むぅ」

「女の子だけでお泊り会しよう。おいしいお肉とワインあるし」

「泊まる」

「現金だな……」


 苦笑いしながら、レニーは手を挙げる。


「じゃ、ほどほどにしときなよ」

「はぁーい」

「うん」


 二人に手を振られながら、背中を向ける。


「おやすみなさいレニーくん」

「おやすみレニー」

「おやすみ、二人とも」


 手をひらひらさせながら、その場を去った。


 心地よい夜風を感じながら、ひとりで歩く。


 ――飲み仲間。


 そんなことを言ったフリジットの姿を思い出す。


「ぷっ」


 今更になって、笑いがこみあげてくる。肩を震わせながら、静かに笑った。


「いいじゃん。飲み仲間」


 未来の自分がどうなるかわからない。未来のルミナが、フリジットがどうなるかもわからない。


 冒険者というのはいつだって死ぬかもしれない。


 でも。


 それでも、レニーの中で、未来の楽しみがひとつできた。中身のない自分が変われても、変われなくとも、そこには「レニー」を受け入れてくれる未来がある。今の自分を受け入れてくれた安堵とそう信じて良いと思える希望が、歩みを軽やかにしてくれた。


 変わるつもりはない。自分の生き方を今更変えられるとは思っていないし、想像もできないからだ。

 でも、ちょっとだけ、変われたらいいなと思えた。


 そんな――関係性の話だ。

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