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冒険者とミラージュ

 ――時は遡って。


 レニーは木製の扉をあけ、武器の道を通り過ぎて、カウンターにたどり着く。そこには、不安げなニーイルと、対照的に自信に満ち溢れた表情のニコイルがいた。


「よぉ、レニー」

「ども」


 ニコイルがニーイルを睨んで小突く。ニーイルは怯えながらもカウンターの上にそれを置いた。


「これが、レニーさんの武器だ」


 レニーは剣を持ち上げ、鞘から抜いた。


 見た目のわりに軽く、考えていた以上に手に馴染む。


 黒い剣だった。カットラスのように幅広で片刃の、やや反りのある刃を持っている。柄の部分が真っすぐである部分と斜めである部分に分かれていた。刃の方へ近くなると、ある地点で柄が斜めに曲がっている。刃の根元から柄頭まで、ガードがあった。そして柄から峰の途中まで、シリンダーらしき部品が取り付けられていた。


 レニーはシリンダーと思われる部分を指さす。


「これは」

「ジンガー経由でお前の杖のことを聞いてな」

「それで、エレノーラさんのつくった杖の構造を教えてもらったんだ。それで、杖の機能(・・)を組み込んである」


 つまりただの剣じゃなく、魔弾を撃てる。


「擬似的なデュアルウィールドってわけだ」


 デュアルウィールド。同系統の武器を二つ以上同時に扱う戦闘スタイルを指す。

 二刀流や、メリースの魔書二冊同時運用などがそれに該当する。


 今までのレニーは杖と剣を使っているだけだったので同系統の武器とはならない。


 このミラージュの違うところは一時的に杖の役割を果たせることだ。二杖流といえばいいのだろうが、杖を二つ同時運用するものはいない。同じ形の杖を持つメリットはないし、別々の杖を持つにしても性質が違いすぎて運用が難しすぎる。大剣とレイピアを両手に持って扱うようなものだ。リスクにリターンがあっていない。となればどちらか一方に特化したほうがいい。


 杖を二本持つのであれば魔書を二冊持ったほうが圧倒的に取り回しが効く。


「お前の奇妙なバフも、コイツなら耐えられる」

「シャドウキャットの素材をメインに、マギ合金をつくったよ。影に潜る能力を持った魔物だから相性ピッタリ」


 シャドウキャットは大きな黒猫のような魔物だった。毛が針のように変形したり、闇属性の魔法を使ってくる。どういう理屈かわからないが影に潜ることができ、夜に戦うと非常に厄介だった。昼夜で依頼の難易度が変わるレベルである。


 その素材を使って合金をつくったということだろう。


「バフもちゃんとかけられるよ」

「試してみてもいいか」


 ニーイルが頷いたのを確認して、影をミラージュに纏わせ、影の尖兵のスキルを発動させる。


「……感覚が、ある」


 ミラージュが確かに変質して、スキルのバフに適応しているのを、握っている手から感覚として伝わってきた。

 その不思議な感覚に、思わず、目を細める。


 体の、どこかが繋がっている感覚――魔力、だろうか。


「それが魔器(マギ)ってもんさ」


 スキルを解除する。

 ミラージュは何一つ傷つくことなく、そこにあった。




 ○●○●




 ミラージュについた血を払う。ホルスターに杖を納め、レニーはボーガルを見た。


「さ、キミで最後だ」


 屍山血河の様とはこういうことを言うのだろう。無法者たちの死体がそこら中に転がっている。

 全員、レニーが倒したのだ。


「す、すごい」


 アルリィが呟く。


「馬鹿な、こんだけの。選りすぐりの賞金首たちだぞ。それをこんな簡単に」

「トパーズの依頼としてそいつの首が出てようが、そいつの実力がトパーズの冒険者と同等なわけがない」


 魔物と同じだ。

 その等級でなければ危険だから依頼が出される。危険度は必ずしも強さに直結するものではない。何より冒険者は人間だ。


 人体の急所を切り裂かれれば死ぬ。毒を盛られれば死ぬ。人質を取られれば判断を誤り、全員を死なせる結果になる。騙して寝込みを襲うこともできる。

 冒険者が賊を倒しに行くことはあっても、その逆はない。いくらでも仕込みができる。数の有利を取れる。ニセの情報で躍らせる事も、集めた情報で対策することもできる。攻められる側というのは案外有利だ。


「寝首をかいてきただけのキミらに、オレが倒せるとでも」


 他人を騙してきた人間は騙されるという思考を忘れる。考えても化かし合い程度だろう。そして、それは決して戦闘中(・・・)には起こらない。


 わざわざメイン戦力に突っ込むことで、注目をレニー自身に向けさせた意図も、無防備な背中を見せて、わざわざ攻撃させたことも、誰かしら弱い方を狙いに行くとあたりをつけていたことも、最初から魔法使いをマークして潰そうとしていたことも、何一つ、気づかない。その証拠に、全て、レニーのあけた(すき)に飛び込んでくれていた。


 彼らにとって戦いは蹂躙の場であり、駆け引きの場所ではないのだから。殺し、(なぶ)り、犯すことしか考えてない連中を、散々叩き潰してきたレニーにとって、相手取るのはさほど難しいことではない。


 それが何人いようとも。


「――はっ」


 ボーガルが嗤う。


「えらそうなこと抜かしてんじゃねえよ。こんな人数相手にしたんだ、まともに魔力なんて残ってねえだろ? 体力だってそうだ。呼吸が乱れてるぜ」


 レニーは顎の汗を拭い、舌打ちをうつ。確かにだいぶ消耗した。


「対して俺は万全。無論俺が一番強いぜ」


 カットラスを構えながら、ボーガルが睨んできた。レニーは後ろを向く。


「さ、もう逃げられるだろ」


 アルリィとエルに向けて言う。二人とも、驚いたようにこちらを見る。


「レニーさんは」

「もちろん、コイツを狩っていく」

「そんな、レニーさんを置いていくなんて」

「いや、邪魔だから」


 レニーは淡々と返す。


「戦うのに邪魔なんだ。だからさっさとギルドに報告しに行ってほしい」


 それに。


「せっかく格好つけてるんだから、立ててほしいね。これでもオレ、男だから」


 微笑むと、エルが何か決心したような顔になり、アルリィの腕を掴む。


「行くよアルリィ」

「え、でもっ」


 エルはアルリィの腕を強引に引っ張って連れて行ってくれた。レニーはボーガルと向き合う。


「随分と待ってくれたね」

「はん、何しようが結果は変わらねえさ。あいつらは手足を斬り落として売る」


 姿勢を低めて、ボーガルは嗤う。


「もちろん、お前もなァ!」


 そして突撃してきた。

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