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冒険者と決死の覚悟

 深夜、レニーは町の外に出た。食事するために外に出た際、こっそりルミナの依頼主から、ルミナがどこで戦ってたかは話を聞き、知ることができた。


 これから、そこへ行く。


 おそらく、自分で決着をつけなければならないことだ。少しでも潜んでいる可能性があるのなら、探す。そして潰す。


 向かうは森。

 

 一時間ほどかけてその森にたどり着いた。マジックサックからいくつか道具を取り出して、森の中を彷徨う。


 緊張してるのが自分でもわかった。


 しばらくして、森の中でも戦闘の跡が残る場所にたどり着いた。何本もなぎ倒された木に、荒らされた大地。


「アハハ」


 聞いたことがある声が響いた。


「フフフ、今までで一番濃いニオイ」


 暗闇の中から少女が顔を出す。月明かりに照らされて、紫色の瞳が光った。


 濡れ羽色の髪に、白い肌。小柄で華奢な少女の体。


 それに似つかわしくない、茶色でボロいローブ。


 実際に顔を見るのは二度目(・・・)だ。


「スカハ……じゃないな。オマエ」


 災厄の女王。影の女王と呼ばれる封印された存在。

 そしてレニーに、スキルを授けた存在。


 レニーの本能が、告げている。

 こいつはスカハの偽物だ。


「誰だ?」

「キミこそだぁれ? それだけニオイが濃いってことはぁ、何かしら持ってるんでしょ?」

「その言い草だとオマエも持ってそうだな」

「アハッ! ワタシは体を持ってるよ」


 胸に手を当てて見せびらかすように笑う。


「でもスカハっていくつかに分けられて封印されてたみたいねぇ。ワタシはダンジョンの奥地でたまたま見つけたんだけど。そのときは大人の姿だったんだよねぇ。それで、体を貰ったら子供になっちゃった。きっと他のも取り戻さないと完全体にはなれないっぽいんだよね」


 両手を広げてベラベラと喋る。

 レニーはマジックサックから出していた二つの小瓶の蓋をあけた。敵意を隠すつもりは、ない。


 スカハに全く関係ないのなら逃げるつもりだった。だが、関係あると知った以上、レニーは戦う意志を改めて固めた。ルミナを害し、スカハの意に反しているであろう行動をするヤツを野放しにしていられない。


 そんなレニーの様子を見て、偽物は目を細めた。


「あれ、戦う気なの」

「あぁ。見るに耐えないからね。終わらせる」


 偽物が嗤う。


「この間、ちょっとニオイのするルビー冒険者と遊んだけど、キミはあの子より強いのかなぁ? あれ以上は滅多にいないはずだけど」


 小瓶を飲み干す。

 一本は魔力の自然回復を促す薬だ。気休め程度でしかないが無いよりはマシだ。補助的な役割でしかない。

 本命はもう一本のほうだった。以前、ドナティーリという盗賊を捕まえたときに拝借した薬だった。


 効果は魔力の大幅増強と身体能力の一時的な強化。


 体の底から大量の魔力が沸き上がる。

 漏れ出しそうになる魔力を、慌ててコントロールする。


「あれぇ、もしかしてドーピングぅ? いいのかなぁ、そんなレベルの低いことしてぇ」


 度の過ぎた強化は通常の感覚を見失わせる。

 だからこそバフを扱うロールはただバフかければいいというわけではない。あくまでバフをかける本人の能力に合うものにしなければならない。でなければバフなしで戦えなくなるし、体も壊す。

 大幅に限界を超えさせるとしても一瞬、一撃用だ。


 だが、今飲んだ薬はそんなセオリーなぞガン無視のアイテムだった。

 異様に湧き上がる魔力に、根拠のない全能感が頭の中を支配する。確かにこの感覚を知れば中毒になるかもしれない。


「言っておくがオレはカットルビーだ。この間の子より断然弱い」

「そうなんだ。じゃあ……」


 偽物は影に手を入れ、腕に黒い獣の腕を纏う。

 そしてレニーとの間合いを一気に詰めた。


瞬殺(シュンコロ)だね!?」


 レニーは小瓶を捨て、カットレンジで避ける。空振りした鉤爪に手を伸ばし、触れる。


「潰れろ」


 グシャリ、と。

 黒い獣の腕が潰れ、骨が折れる音が響く。


「……は?」


 唖然とする偽物に目掛けてカットラスを引き抜き、斬りかかる。


 急いで偽物が下がり、自分の折れ曲がった両腕を見る。


「何したの?」

「……さてね」


 形を作ろうが影は影だ。触れて影の女王に捧ぐのスキルで支配下に置いて操ればいい。


 ゴキゴキと異様な音を立てながら偽物の折れた腕が元に戻る。理屈はわからないが回復力が高いのか。


「もしかしてスカハのスキル持ち? 一番いいやつじゃん!」


 ニタリと笑う。

 レニーは無表情で偽物の出方を窺った。


「絶対ワタシのものにしてやる」

「キミ、ネクロマンサーかなんか?」

「アハハ、そうだよ。おにいさんッ!」


 地面から影のランスが飛んでくる。レニーは最小限の動きで避けながら槍に触れた。


「飛べ」


 影のランスが向きを逆にし、偽物に飛んでいく。偽物は慌ててそれを避けた。


「おっと危ない危ない……影でだめなら」


 偽物は両手を広げると黒い球体を前方に出現させた。


 レニーは杖に手をかける。


 次の瞬間、黒い球体は弾けとんだ。


「……え?」

「何だか知らないけど発動させなければいい」


 偽物の表情が歪む。

 

「何、今の。今のもスキル?」

自前の魔法(カースバレット)だけど」

「……嘘」


 三発。

 カースバレットを撃った。三発とも命中し、偽物の体が踊るように揺らぐ。


「骨身に染みたかい?」

「ウフフ、見えない。凄いね、キミィ」


 それでも怯ませただけのようであまり効いた様子がなかった。

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