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冒険者と憂鬱

 馬車に揺られる。屋根付きの高級馬車でソファのようなイスが備え付けられており、四人ほど乗れる。


 フリジットの隣にモートン。フリジットの向かい側にレニーが座っていた。


「……わたしは患者やその家族に殴られるのが得意でね」

「率直に話し過ぎるからでしょ、モートンは」


 呆れたように返すフリジット。


「ひとまず殴られると思っていた」

「なら言葉を選びなさい。あとは隠すとか」

「謝るときに隠し事をしてはいけない。誠意にかける」


 二人の会話を聞き流しながら、レニーは外の景色を眺める。

 頭の中でルミナとの会話を掘り起こして、スキルを思い出す。


 内功覚醒。あらゆる状態異常への耐性や呼吸の乱れの修正、自然治癒力の向上、魔力循環効率の向上が効果のスキルだ。


 状態異常の耐性があればある程度の毒は無効化できるし、呼吸の乱れを修正するのなら、体の負担を軽減できる。自然治癒力が上がれば滅多なことで傷を残さない。魔力で身体能力を強化する際に、魔力の循環効率が良いとそれだけ強化が自然に行える。


 外功覚醒はあらゆるダメージの軽減化。属性耐性を得る。要は攻撃によるダメージを極力減らすスキルだ。


 今ルミナが命を繋いでいられるのはこの二つのスキルのおかげであると同時に、敵は外功覚醒の防御力を突破し、内功覚醒の戦闘継続力を上回った攻撃を行えるということだ。


「フリジット」

「なに」

「ルミナを倒した相手、キミひとりで倒せる?」


 レニーが聞くと、フリジットは首を振る。


「わからない。私は一応、調査だしね。戦闘になればやってはみる。危なかったら逃げるよ」

「無理しないでくれ。絶対に」


 ルミナに続いてフリジットまで重傷を負ってしまってはどうしたらいいかわからない。


「あれ、もしかして心配してくれてる?」

「してる」


 フリジットはきょとんとして、それからモートンを見た。


「こういうので心配されるのなんていつぶりかな」

「さてね。少なくともカットルビーからはないんじゃないか?」


 肩をすくめてモートンが答える。


「……そっか。なーんか昔に戻ったみたいだなぁ」

「いろいろあったな。冒険者時代。二度とごめんだ」

「アッハハ、モートン弱いもんね」


 明るく笑うフリジット。


「大丈夫だよ、レニーくん。私、強いから」

「……信じるよ」


 カットサファイア。ルビーより上の等級。その強さがどれほどのものなのか、レニーにはわからない。

 何せ、ルミナの強さの底さえわからないレニーだ。その上なぞ想像もできまい。


 従って、その想像のできなさを信じることにした。


「お姉さんに任せなさい」


 自分の胸を叩いて、フリジットは強く宣言した。


「だからレニーくん、ルミナさんの支えになってあげて」


 どのみち、カットルビーのレニーに出来る事は少ない。


 頷くしかなかった。




○●○●




 三日かかる道を、半分の時間でたどり着いた。

 御者と馬にモートンが回復魔法をかけ続けた結果だった。あまり長期間やりすぎると発狂モノらしい。加減を間違えたら体を壊すらしく、まさしく元カットサファイアの医者だからこその荒業と言えよう。

 

 町の馬宿についたところで馬をゆっくり休ませることにした。御者もモートンが大金を渡してしばらく自由にするように言った。


 珍しそうにレニーたちを見る町人たちの間を縫うようにして目的の宿へ向かう。ルミナが眠っているという宿だ。


 入り口をモートンが開け、大声を張り上げる。


「ギルドから派遣された医者だ! 意識不明の冒険者のところに案内してもらお……げほっげほっ!」


 咳き込むモートン。宿屋の店員は戸惑いながらも、部屋を案内してくれた。


 二階の端の部屋。そこに案内される。


「ありがとう。仕事に戻ってくれたまえ」


 店員に頭を下げてからモートンはレニーとフリジットに振り返る。


「部屋にはわたし一人で入る。誰も入るな」


 店員から預かった合鍵で鍵を開けながら、モートンが指示を出す。そして、部屋の中に入るとピシャリと扉を閉めて鍵をかけた。

 扉の向こうで騒がしい物音が響き始める。


「……モートン。頼んだよ」


 フリジットは祈るように手を合わせる。


「私は宿の手続きして、調査を始めるね。レニーくんはここで待ってて」


 そう言って、フリジットはいなくなった。

 レニーは無言で部屋の前で待つ。


 しばらくして一度宿の鍵をフリジットが持ってきて渡してくれたが、その後は調査の為、すぐにいなくなった。


 鍵を手の中で遊ばせながら待つ。


「……ルミナ」


 扉の向こうに彼女がいる。

 会いたい。会って、無事な姿を見たい。


 そんなこと、あるわけないのに。


 レニーにできることはひとつ。ただ待つだけだった。


 カットルビーになって、これか。


「笑える」


 目を瞑る。一秒一秒が、異様に長く感じた。

 もどかしい。いらいらする。

 目の前の扉を破壊してやりたいくらいに。


「すぅ、はぁ」


 何の意味もない。むしろ邪魔だ。モートンに言われた通りだ。ド素人がそばにいたって、治療の邪魔にしかならない。

 今は待つしかない。


 待つしか……。


 その場に座り込む。

 膝を立てて、そこに腕を置き、額をのせる。


 脳裏をよぎるのはルミナと共にした時間だった。

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