初配信を始めるというクエスト
初めましてのかたは初めまして。アルと申します。本作品は、今後一週間は毎日更新、そこからは私がもう一作書いている作品と一日ずつ交互に連載していこうと考えています。面白ければ是非、評価、ブックマーク等、よろしくお願いします!
≪Down the world ONLINE≫。それは本日リリース予定の最先端技術を駆使したフルダイブ型VRMMORPGである。そのゲームのリリース時刻である正午まで、残り15分。
このゲームが始まる前に、まずは俺の身の上話をしよう。
俺は坂宮 孝行。25歳。国公立大学を卒業していろんなところで就職面接を受けたのだが、ことごとく落ちまくった。幸い、生活費に関しては亡き両親が残してくれたものがある。しかし、それもいつまで持つかはわからないので、何とかして金を得る手段が欲しかった。
そこで思いついたのが、ゲーム配信である。俺は何の足がかりもない一般ピーポーではあるが、この≪Down the world ONLINE≫、通称D2ではβテストをやっていた。
このゲームは相当な人数がプレイすることが予想されるわけで、βテストをやっていて多少強くなりやすいこの身の上を活かして目立ち、配信をして稼いでいこうというわけだ。
ゲームをお金稼ぎの目的だけでやるのは心が痛むし、俺は何よりこのゲームが好きだ。全力で楽しみながら稼ぐことを勝手に誓わせてもらう。
VR用の撮影機材、アプリはすでに購入済み。後は某有名配信アプリで配信するだけだ。正午まで5分となったら配信を開始する。
当然最初の配信なんて見に来てくれる人がそんなにいるわけない。しかし、俺が作成した配信アカウントにはアーカイブが残る。それ用に人がいなくても挨拶しないとな。
残り5分となった。フルダイブVRの待機空間で配信の開始を押す。事前に作成されているアバターが配信に写っていることだろう。そこまで現実と容姿が変わっていないが、青い髪が特徴的なキャラにしたはずだ。アバターの名前はファクター。行為者という意味だな。
「どうも皆さん初めまして。ファクターと申します。本日、このD2の配信と同時に配信者となることを決意いたしました。ということで、配信を始めて行こうと思います」
コメント
『D2発か。競合相手は多いだろうけど、頑張れよ』
同時接続が3人になってすぐに、1人から応援のコメントをいただいた。少し幸先がいいかもな。
「全力で楽しみながら配信も頑張っていくさ。応援ありがとう」
最初のコメントにはそう返し、ついにD2がリリースされる。その瞬間に俺はD2を起動し、キャラメイクの画面に移った。
真っ白な空間。そこに今俺は立っている。その空間には、各職業をかたどった像が置かれており、俺は真っ先に剣士の職業を選択する。
配信者としては個性がないが、俺はβテストの時はこの職業が一番好きだった。他には魔法使い、槍術士、大盾使い、斧使い等々様々な職業があったが、どれもピンとこなかった。
コメント
『王道行くじゃん』
「まぁ剣を振っているのが一番性に合いそうだからな」
剣士の職業選択が終わった瞬間、白い空間に置かれていた像達が崩壊していく。そしてその後、俺の目の前に半透明のウィンドウが展開される。
「これでステータスが振れるんだな?」
ウィンドウには次のように表示されている。
◆◆◆
ファクター
剣士:Lv.1
ステータス
HP 20/20
MP 10/10
STR 10 [+] <+10>
DEF 10 [+] <+10>
AGI 10 [+]
INT 10 [+]
VIT 10 [+]
DEX 10 [+]
ステータスポイント:50
スキル
<剣術Lv.1>
◆◆◆
βテスト版を始めた当時を思い出すな。ウィンドウのステータスの横に説明書のようなものが書かれているが、これはもう頭に入っている。
ステータスポイントを1使うと、各種ステータス1つの基礎ステータスを1伸ばすことができる。俺は剣士として、耐久するタイプではなく、速度を活かして躱していく立ち回りがしたいからな。今回ステータスを振るならば、STR、AGIに振るべきだな。
「俺はこれからスピードを意識して攻撃にあたらないように戦っていこうと思ってる。だからステータスはこう振ることにした」
カメラが俺の振り分け終わったステータスを映す。
◆◆◆
ファクター
剣士:Lv.1
ステータス
HP 20/20
MP 10/10
STR 30 [+] <+10>
DEF 15 [+] <+10>
AGI 30 [+]
INT 10 [+]
VIT 15 [+]
DEX 10 [+]
ステータスポイント:0
スキル
<剣術Lv.1>
◆◆◆
一応最低限防御ステータスに振った。ワンパンされるのは流石によろしくないからな。
コメント
『まぁいいんじゃない?』
同時接続はいつの間にか15人になっていた。ありがたいことだ。コメントもありがたいな。
「そういうわけで、ついに入るぞ。D2の世界に!」
俺がステータスの画面の右上のボタンを押して消すと、真っ白な空間が消滅し始める。これで始まりの街に出るわけだな。
視界から白いものが消え、噴水のある中世ヨーロッパ風の街が見える。ここが始まりの街か。街の名前は……空をなぞり、ウィンドウを出す。これでマップが見れるからな。マップ曰く、この街はアクセルというらしい。国の名前は……アーチファーストか。
βテストの時は最初の街の名前はイザミナで、国はイーシュレン王国だったから、ここはすこし変わっているな。
いや、イーシュレン王国、アーチファースト皇国、トラーシュ公国の三つからランダムだったか?
「どうやら、最初の街はテウセルという名前らしい。この街で、初めのクエストを受けようと思う」
コメント
『いいじゃん。まずは戦闘職のクエスト受ける感じ?』
このD2には戦闘職と生産職で受けるクエストが異なる。それはCMで事前に公表されていた。βテスターの俺はもちろん知っているが。
「そうだな。そのままチュートリアルクエスト攻略して、その後はレベル上げが今日の目的だ」
しかし、今日は人も多いだろうからなぁ。レベル上げの場所は選ばないとな。手始めにクエストを受けるために、冒険者ギルドに行こう。
D2の世界に来た人はみな、最初からFクラスの冒険者として登録された状態から始まる。そしてマップから冒険者ギルドに向かい、チュートリアルのクエストを受け取りクリアするというわけだ。
「さて、この街の冒険者ギルドはどこだ?」
マップを確認すると、今いる噴水の広場から北側に直進し、左に曲がった先に冒険者ギルドがあった。
早速向かおうか。
コメント
『噴水の広場、ワープポイントに設定しないのか?』
コメントからの指摘で気が付く。そういえば特定の場所はワープポイントに設定できて、ウィンドウのマップからいつでもテレポートできるようになるんだったな。
絶対コメントしてくれている人はβテスターだなと思いつつ、噴水の広場をワープポイント登録する。
「ありがとう。忘れるところだった」
コメントに対しそうお礼を言って、その足で冒険者ギルドに向かう。
さて、最初のクエストで相手にする魔物は何になるかねぇ。