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真っ白な大聖堂の回廊に、薄青色の影が落ちる。
さあああ、と絶え間ない音楽の流れる庭に、時折ぽつり、ぽつりと旋律が奏でられ。
その光景を、ジョゼはぼんやりと眺めていた。
――目が覚めてからずっと、胸のうちを昨日のことが占拠する。
城から真っ逆様に突き落とされた自分。城の防御システムに抵触した自分。
きっと真下にレイが居て、咄嗟に魔法で助けてくれなかったら死んでいた。
その原因の全ては、あの王子の言葉にある。
『僕は、君が憎くて堪らない』
そのせいで城はジョゼを敵に認定したのだろう。――城はジョゼを殺そうとした。
でも、何故そこまで憎まれねばならないのか。理由が全くわからない。表だって人に真剣に嫌われたことなど一度もなかったせいか、そのことばかりが気にかかり、胸が痛む。
ほぅ、とまた一つ大きく溜息をついて思考の海に溺れそうになったジョゼの耳に、規則正しい足音が聞こえた。その聞き覚えのあるリズムに反射的に振りかえった。
「お久しぶり、アラム。研究の調子はどう?」
「まあ、順調だな。そっちこそ、スタートラインに立てたのか?」
雨のせいか、何時もよりは嫌味成分少な目のアラムの言葉に、ジョゼもまた素直に頷いた。
「やっとね。それよりクリスを知らない?今日一度も見てないんだけど」
アラムがここに居るのにクリスが居ないだなんて、と思ったのも束の間。
微妙にアラムの眉間に皺がよる。
「……お前、知らないのか?」
「え?」
きょとんとしたジョゼを鼻で笑い飛ばし、アラムは手に持っていた論文のページを捲った。
「クリスは三週間も前に学院を辞めてカレッジに入学したぞ」
再び沈黙の訪れた回廊に、静かに雨は降り続けた。