ジグソーパズル
休日の午後だというのに、私は元カレとファミレスでコーヒーを飲んでいる。彼はずっと窓の外を見ていて、私はそんな彼をぬるくなったドリンクバーのコーヒーを啜りながら眺める。伸びた爪を見て、
今は彼女がいないんだなどと思いながら。私は思い切って彼に聞く。
「用事っていってたけど、いったい何」
「んん」彼はぼんやりとした表情で外を眺めたまま生返事を返す。
この掴みどころのないやり取りに、懐かしさを感じ、同時にちくりと胸が痛んだ。私は諦めコーヒーをひと口飲んで、彼の視線の先を追うように窓の外を見る。赤いセダンが入ってきて、駐車場に止まると中年の男女が降りた。おそらく夫婦だろう、楽し気に話をしながら店の入り口に向かってくる。そのとき彼が言葉を発した。
「これなんだけどさ」
ジャケットのポケットから出した手には小さな紙製のかけらが乗っていた。
「あっ、これ」
それは私がずっと探していた、ジグソーパズルの最後のピースだった。「君が持ってたの」驚きの声が出る。
「うん、上着のポケットに入ってた。なにかの拍子に入ってそのままになっていたらしい」
「すっと探してたんだ。今日はこれを渡すために来てくれたの」
「まあな」パズルのピースを持った手をこちらに突き出す。私が手のひらを上に向けて差し出すとその上にぽとりと落とした。「探してるだろうと思って」
「ありがとう」
パズルのピースを見ると、それはハートマークが半分描かれているものだった。
「じゃあ、行こうかな」
彼は伝票に手を伸ばすと席を立った。
「え、もう帰っちゃうの」
「用事は済んだし。それじゃ、元気でな」
彼はテーブルの間の通路を出口に向かって歩を進める。私はジグソーパズルのピースを握りしめ、その背中を見つめる。席を立って駆け出したい衝動を感じながら、じっと見つめ続ける。