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第五十二話「放出」

 自身ありげな青年、フリップを見て狩人は疑問を浮かべる。

 純粋に変な集まりである。

 

 12歳で1人出歩く狩人がいうのもなんだが、なんというかちぐはぐな印象を受ける。


「何をしにここへこられたんですか?」


 フリップの言葉に、狩人は少し思考する。

 しかし、それが無駄だと気づいた。


「なんにもないよ」


 そう言って背を向ける。

 これが正しい。変にもっともらしい理由を述べる子供の方がおかしい。

 興味なさそうに去るのが正しい。


 しかし、同時に考える。

 今、自分が声をかけられたのは偶然か?


 彼らはたまたま1人の子供を心配した人たちか?


 そうは思えない。


「なんにもないですか」


 フリップの言葉にも狩人は振り向かず、あくまで単なる子供として家路に着くように歩く。


「ベインテからの使者が何もなくこの国の喫茶店で過ごすのですか?」


 同時、狩人は振り返り指をフリップに向ける。

 何故、そんなことは後回しである。


 任務がバレている。その理由は定かでないが、そうなれば。


 消すしかない。


「まあ待ってください。その程度の攻撃でどうしようというのですか」


 フリップは平然と狩人に話しかける。


 狩人は子供だがバカではない。

 バカでは生き残れない生存状況を生き抜いている。


 教養は無くとも知恵は回る。

 現在街の真ん中でやるべきは殺害ではない。


 向こうに対話の意図があるなら先に聞いてもいい。


 それに、フリップを消しても街で騒ぎを起こせば任務は失敗扱いだろう。

 おそらくベインテからも見放される。


 神聖魔法使いの地位はその強さ故である。任務を成功させずに帰れるとは思っていなかった。


「挨拶が遅れました。私は」


 勇者です。


 フリップは当たり前のように言った。


 動揺する狩人、その動揺を無視するようにフリップは言葉を続ける。


「彼女らは私のパーティ、それぞれ神聖魔法の使い手です」


 勇者パーティ。狩人はその顔を詳しく知らない。

 勇者が勇者として選ばれたのは狩人が保護されるより前である。


 魔法使いと戦士が仲間であることは知っていたが、戦士は身を隠し、魔法使いは身を隠されていた。


 第一狩人は世情に疎い。子供であることもそうだが、基本何もせず能力があるというだけでベインテに養われる立場である。


 激しい生存戦争を生き延びた彼女だからこそ、安住の地から動くことは滅多になかった。


「それぞれ魔法使い、戦士、踊り子です」


 フリップはそう紹介する。

 いつも通りのチェレンを魔法使いと。

 緑に髪を染めたレジスタを戦士と。

 いつもより少し着飾ったミュラーを踊り子と。


 それぞれ紹介する。


「踊り子!?」


 大きな声を出す狩人にフリップは嗜めるような身振りをする。

 魔法使いさんに能力を隠してもらっているのでやめて欲しいと。


 聞いていない。狩人はそう思う。

 踊り子、神聖魔法使いでおそらく最も有名な存在だろう。


 最も好意を抱かれたものが手にすると言われるその魔法。

 しかしながら彼女はそれを手にしてからもヴェンティの国で変わらず本業としての踊り子を続けており、決して何者にも傾きはしない。


 それが常識だった。


「ええ、ですが組織壊滅に恩があったらしく、限定的に力を貸してくれたのです」


 スクイ暗殺の阻止という目的において。


 想定外であった。

 神聖魔法使いに精神感応系の魔法は総じて効かない。魔法使いとしての次元が違うのだ。

 心情に触れるなど許されない。


 しかし踊り子、その魔法は当代の本人は使っていないが、過去の記録からは精神感応の魔法であると言われている。

 その踊り子の魔法は神聖魔法使いに効くのか、それはおそらく誰も知らない。


「まさか神聖魔法の使い手が暗殺に来るとは思いませんでしたが」


 フリップの言葉に、狩人は後がないことに気づく。


 無理だ。自分の素性がバレている以上この男の言うことは間違いない。

 断片的に耳にしていた勇者パーティの特徴とも一致している。


 となると力では押せない。狩人は最強クラス神聖魔法の使い手だが、相手はそれが3人に未知数の勇者。


 口調からスクイを守るつもり、つまり狩人はここで殺されてもおかしくはない。


 正直を言うと4対1にまるで自信がないわけではない。

 不意をつき、戦況に恵まれれば可能性はある。


 しかし、そのような賭けを選びたくはない。

 出方を考え、押し黙る狩人に、しかしフリップはあっさりと口を開く。


「逃げてください」


 ぽかんとする狩人。

 そして気づく。


 森の方、消えた大穴。

 その方向を向かなくてもいい。


 見えるのだ。そこに男が1人いるのが。


「スクイという男は殺せないのです」


 私たちはよく知っていると言う。

 

 神聖魔法使い複数と勇者が言う、その重みを狩人は理解する。


「しかしベインテは任務をこなせないあなたの帰りをよくは思わない」


 最悪の事態も考えた方がいい。


「私も勇者としてベインテの闇はよく理解しています。どのみちあの国に未来があるとは思えない」


 だから、フリップは熱弁する。


「逃げてください。あなたの力があればどこか別の場所でも容易に生きられるでしょう。ヴァン国に抱えられてもいい。とにかくここから去った方がいい」


 フリップの言葉に、狩人は納得する。

 それはその言葉を聞いたからではない。


 遠い森、そこにいる1人の男。


 不死だとかそう言うことではない。

 あれは自分の手に負えるものではない。


 見えるのだ。狩人には獲物がどういった存在かわかる。

 しかしあれはおかしい。


 多くの生き物に囲まれ生きてきたからこそわかる。


 あんなものは人間ではない。


 極限まで死に近づき、一時的にナイフを取りこぼしたスクイを見た狩人は、悟る。

 自分の方が強い。圧倒的に。

 

 だが、この任務は達成できないと。


「わかったよ」


 あれに関わるのもごめんだ。

 任務失敗と言ってベインテに帰って、殺されるとは思わなかったが、そもそも彼女は子供である。


 能力の高さ故に狩人として保護されてからは失敗したことも責められたこともない。

 だから純粋に、失敗したと報告したくなかった。

 

「どこか適当なところで身を隠すよ。まあ、どうとでもなるでしょ」


 フリップを見る。狩人の目にはどこにでもいる青年に映る。

 しかしそれは魔法使いの操作あってのことだろう。


 踊り子には正体を看破され、魔法使いには獲物の情報を隠される。

 別に神聖魔法使いの中での強弱に拘ったつもりはない。


 しかし、弱肉強食で生きてきた彼女にとって、負けっぱなしは面白くなかった。


「じゃ、また会おうね」


 そう軽口を叩くと、狩人は今度こそ街を出た。


 その姿を見送り、フリップは家路に着こうとし。


「マジで勘弁してほしい」


 これでいいんですよね、と心の中でスクイに語りかける。


 度重なるスクイへの勧誘と攻撃。

 そろそろ強者が、それもベインテが飼っていると言う神聖魔法使いが送られてきてもおかしくはないとは感じていた。


 ベインテが必死だと言うならスクイが追ってを撃退していれば必然その時は来る。


 そしてその対策がこれであった。


 今回のスクイの作戦は簡単である。


 チェレン、フリップの妹は精神感応で人の心を操れる。

 それ自体はそう大層なものでは無く、自在に操ると言うよりテンションの上げ下げやちょっとした心理的強化や弱体化でしかない。


 しかしそれは使いようによってはいい判別機になる。


 スクイはフリップに、毎日出回っている勇者の格好をして、チェレンに街の人間に魔法が使えるか試して欲しいと頼み込んでいた。


 この世界には写真がない。フリップに組織の幹部の人相を聞いた時も、あくまで特徴しか聞けなかった。


 精神感応という便利な魔法があるにも関わらず、大国が神聖魔法使いを贅沢させ誘惑する。

 神聖魔法使いには精神感応が効かない。この推測は少し調べれば簡単に裏付けが取れた。 


 チェレンの魔法を試すだけなら容易である。

 そしてそれが使えない者は怪しんで欲しいと。


 実際チェレンの相性もあったが、完全に魔法を封じられたと思ったのは今回が初めてであった。

 子供であったが、フリップはチェレンに言われよく観察することでやっと、その身体能力の高さを悟る。


 あとは踊り子が見つけたと言う理屈で誤魔化す。


 スクイは神聖魔法使いにまず勝てないだろうが殺されもしない。任務が成功させられないことを伝え、ベインテに帰りにくいだろうと言う話をし。

 もう来ないように説得してくれというのがスクイの策だった。


「無茶苦茶だ」


 たしかに理屈は通る。

 

 この方法なら街に潜む神聖魔法使いを見つけられるだろう。

 勇者パーティと自称すれば戦う気起きないだろう。


 しかし話を聞かずに攻撃された可能性もあったし、戦闘になれば負けるどころか、この街はなくなる。


 そこはフリップの腕の見せ所だったが、はっきりいって生きた心地がしなかった。


「いくらお兄さんの頼みとはいえ死ぬかと思ったんですけどぉ」


 レジスタは念のためと緑に染められた髪を気に入らなそうにゴシゴシと掻く。

 スクイの頼みとなれば断る気はないし、元はと言えば自分たちの父親の件も関係する。


 しかしその直後にここまで大きな頼み事をされるとは思っていなかった。


「怪しい依頼に目をつけていたのもよかったですね」


 ミュラーはいつもより華美で、その豊満な体のラインが浮き出る服を早く着替えたいと恥じらいながらも、冷静に話す。


「まあ、リバイブフライは確かにお兄さんの気を引くには打って付けかもしれないけどぉ」


 レジスタも納得する。

 リバイブフライの依頼、この時点でフリップは少し嫌な予感がした。


 特段おかしな点はないが、希少なことである。

 違和感を抱けば、スクイの危機と関わらないとはいえない。


 そして街を回ったのだ。


「まあ、おにいの名演もあってスクイさんも助かったよねぇ。帰ったら褒めてもらお」


 レジスタは珍しく盛り上がりを見せる。


 ミュラーもその話にまんざらでもなさそうに笑った。


 フリップも観念する。自分より強いどころか生まれついての兄妹の問題であった父親まで撃破。

 勲章まで与えられ、爵位の話もある。


 妹が1人と言わず、2人巣立っても止められないかもしれない。


「チェレンはお兄ちゃんと一緒にいてくださいね」


 そう呟くフリップに、チェレンはそっぽを向く。

 フリップは力なく笑った。


「でも大丈夫でしょうか彼女さん。強いとはいえまだ子供でしたし」


「ああ、心配いらないよミュラー」


 心配顔で狩人の話をするミュラーをフリップは軽くあしらう。


「小さい女の子とはいえ神聖魔法使い。街ごと消せる強大な魔法使いだよ。僕たちが心配するのも失礼ってものさ」


「そうそうおねぇ、だってお兄さんより強いんだよ?余裕でしょ」


 気楽な2人にミュラーだけが心配そうだったが、スクイより強いと聞けば納得する。

 それだけ強い人が困ることあるはずない。


 そう思い4人は帰路についた。


 その後、だらけた今までの生活とのギャップ。そして圧倒的世間知らずに苦しみどこにもいけなくなった狩人が生まれるのは、もうしばらくであった。



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